月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #156 四季は大地を

異世界ファンタジー 四季は大地を駆け巡る

 アインシュリッツ王国。ドュンケルハイト大森林の外にあるヒューガの国。旧ダクセン王国領であったこと、それに大森林との関係性を秘匿する為もあって、表向きの国王は元ダクセン王国将軍であったカール・マックが務めている。つい先日までは。
 カール元将軍は国王の座を降り、正式にヒューガが王となった。本来の形に変えたのだ。国名の変更も考えられたが、それは据え置き。国名まで変えてしまってはアインシュリッツ王国で暮らす人々に、何か異常事態が起きたのかと不安を与えてしまう。戦争で荒れていた国内を復興させる、それどころかかつて以上の豊かな国に変えようとしている中、出来るだけ混乱を招くようなことは避けたい、ということで国王の変更だけになった。
 国王の交替も大事なのだが、多くの民は国政の在り方が変わらなければ、自分たちの暮らしに悪い影響がなければ、すぐに気にしなくなる。そして国政の方向性が大きく変わることはない。変わるとすれば、戦争が始まるくらいだ。

「……あれ? いたのか?」

「いたのかじゃねえ! どうして俺がいなくなると思っていた!? ……じゃなくて、思ったのですか?」

 ヒューガの反応に大声で文句を言った元傭兵王、ライナルト。だが途中で言葉遣いの無礼に気付いて、それを改めた。

「そういうの良いって言わなかったか? 俺も敬語は苦手だから慣れないことはするな」

「……じゃあ、お言葉に甘えて。それで、どうして?」

「ああ、いや、ちょっと動揺していた時期があったから呆れて出ていったかなと思って」

 クラウディアを救出に行ったこと。不在の期間があり、戻ってからも失敗のショックで国政から離れていた期間があった。ライナルトが離れた、そこまででなくても国に仕えることを止めて、相談員を選んだ可能性をヒューガは考えていたのだ。

「これから面白いことが始まると分かっていて、いなくなるわけねえだろ?」

「なるほど……まあ、そうかな?」

 戦争を面白いと表現するのが正しいか。そう思ったが、傭兵稼業から成り上がって王になったライナルトだ。戦争で成り上がった彼であれば、そんな風に思ってもおかしくないかとヒューガは考えた。

「政治事は苦手だが、戦争なら自信がある」

 ライナルトにとってはもっとも自分を活かせる場。この機会を逃すわけにはいかない。

「俺には負けたけどな」

「……それ今、言う必要あるか?」

「戦いには謙虚さが必要だ。舞い上がって失敗されたら困る」

 張り切るのは良いが、それが失敗に繋がるような事態は避けなければならない。ヒューガとしては釘を刺しておきたかった。

「俺は命令に従って戦うだけ。少々、張り切り過ぎても問題はない」

「その立場で納得しているのか?」

 一時は国王にまでなった。それが人の命令で働く一兵士で我慢できるのか。この心配もヒューガにはある。

「難しいことを考えないで、戦闘に専念できる。今はそれ以上は考えてねえな。人を率いるにしても、もう少し時間が必要だ」

 アイントラハト王国軍の訓練を知り、それを経験した今は、まだその軍を率いる自信が持てない。将となるにはもっと知識と経験が必要。ライナルトはそう考えている。

「そうか。それで誰の下?」

「……陛下の」

「えっ?」

「だから、どうして驚く? 俺は陛下の直卒部隊に配属された。だからここにいる」

 ライナルトの所属はヒューガの直卒部隊。これもあって一兵士であることに納得出来ている。ヒューガの指揮を直に経験出来る機会なのだ。

「挨拶に来ただけだと思ってた。まだ全員の名前を確認していないからな。ああ、だから名前が見つからなかったのか」

 ヒューガがライナルトがいることに驚いた一番の理由はこれ。将官クラスに彼の名がなかったので、軍にはいないのだと思ったのだ。

「ただ、この編制で良いのか? 俺にとっては有難いが」

「どういう意味?」

「あのやばい奴らが近衛になるのだと思っていた」

 国王であるヒューガの直卒部隊。近衛部隊となるのは、冬樹たちだとライナルトは思っていた。だが実際に編制されたのは自分も含めて、ほぼアインシュリッツ王国軍として採用された人たちだった。

「……冬樹たちには他にやることがある」

 冬樹たち、それに夏たちもアインシュリッツ王国としての戦争には参加しない。彼らには他の戦いを任せたのだ。アインシュリッツ王国の戦いよりも、厳しくなる可能性の高い戦場を。

「なるほど。戦場は他にもあるってことか」

「そういうこと。戦争は大陸のどこで起こってもおかしくない。全ての国が戦場になる可能性だってある。そういう戦いが始まるってこと、いや、もう始まっているか」

「……退屈しそうにないな」

 かつては戦乱の中心にいたライナルト。自分が引き起こした規模を超える戦乱が巻き起ころうとしている。そう考えると少し寂しくも思ってしまう。

「ああ、そうだろうな。勝ち抜くには今よりももっと強くならなくてはいけない。戦いを重ねながら、俺たちは更なる高みを目指さなければならない。到達出来るか、途中で死ぬか。どちらか一方だ」

「……しびれるね。やっぱ、面白ぇや」

 ヒューガの言葉で心が熱くなる。自分の戦いではこんな想いは生まれなかった。苛立ちが募るばかりだった。ようやく本命が表舞台に出てきたのだ。そういうことなのだとライナルトは思った。

◆◆◆

 いよいよ優斗は旧イーストエンド侯爵領を離れて、王都に向けての進軍を開始した。アレックス王の悪行を人々に知らしめ、寝返りを促す。当初、大成功という結果で終わると思われたその策略であったが、途中から一気にその勢いを失ってしまった。もともとかなりの貴族が寝返っている南部で、いくつかの貴族家が臣従を申し出てきただけ。他地域で同じ流れは生まれなかった。
 失敗の原因は明らかだ。西部貴族は寝返り先としてユーロン双王国を選択した。東部貴族は王都の守りを放棄したものの、寝返りまでには繋がらず、北部に移動したという情報だけが伝わってきた。中央、北部の動静ははっきりとしない。そのはっきりとしない中部と北部で動きを生み出すには、旧イーストエンド侯爵領にいたままでは駄目。そういう判断だ。

「……ユーロン双王国をなんとかしないと」

 だがなんといっても喫緊の課題はユーロン双王国による西部制圧を止めること。パルス王国の西部地域を横からかっさらわれるような真似は、許すわけにはいかない。

「分かっております。東部で戦っていた南部貴族を向かわせます」

「彼らだけで止められるとは思えない」

 王都への進軍を阻もうとした東部貴族家軍を突破出来なかった味方だ。ユーロン双王国軍を止められるとは思えない。

「魔王様のご心配ももっともです」

「陛下ね。僕はもう魔王を名乗るのは止めたから」

 王都制圧を前にして優斗はヴァイスハイト帝国の建国を宣言した。多くの臣下の前でそれを行いたかった優斗としては不本意であったのだが、魔王という称号が寝返りを疎外している可能性もあると考えて、決断したのだ。

「……そうでした。陛下のご心配ももっともです。ですから総指揮官と主力部隊は信頼出来る者に任せるべきだと考えます」

「えっ? ライアン?」

 勝利の可能性を高めるのであればライアンに任せることになる。だが優斗はそれに抵抗を感じている。無駄な感情だ。

「いえ、ライアンには別の任務を用意しておりますので、別の者に」

 この件に関しては、ヴィーゼルがライアンを推薦するはずがない。ユーロン双王国との戦いはそれなりに厳しいものになるが、だからこそ強い権限を得る機会にもなる。

「……ああ、そうだね。いよいよ君の出番か」

 ライアン以外の選択肢はイエナ、そしてヴィーゼルと、今はこの場にいないヴィッターハンの三人だ。パルス王国軍に苦戦しているイエナに任せる気には優斗はなれない。ヴィーゼルとヴィッターハンのどちらかとなるのだが、今目の前にいるのはヴィーゼルだ。

「私にお任せいただけるのであれば、必ずや、ご期待に応えてみせましょう」

「ああ、期待しているよ。勝利した暁には君は西部魔王だね?」

「……頑張ります」

 ヴィーゼルとすればユーロン双王国戦の総指揮官に決まった時点で、西部魔王の称号を得たかったのだが、そこまで優斗は甘くない。成果をあげていないうちからイエナに南部魔王を与えてしまったことを後悔しているのだ。

「西は君に任せるとして……」

「北部の制圧にライアンを使うべきだと思います」

「北部をライアンか……」

 結局、ライアンに頼ることになる。やはり優斗は気が進まない。

「失敗する可能性はありますが、とにかく一度やらせてみましょう」

「……そうなのかい?」

「北部はほぼ無傷。今のライアンの戦力では少し荷が重いかと」

 これには嘘が含まれている。ヴィーゼルは北部にパルス王国の軍勢が集結していることを知っている。無傷どころか強化されている状況を知っていて、ライアンに戦わせようとしている。

「荷が重いのか……それでも約束があるからね。頑張ってもらわないと」

 ヴィーゼルの思惑が分かっても優斗は反対しない。優斗もまたライアンの力を削ぎたいのだ。事がここまで進み、新たな魔族の仲間を得た今は、死んでくれてもかまわないと思っている。その優斗の気持ちが分かっているので、ヴィーゼルはライアンを嵌める策を提案出来るのだ。

「ではライアンにご命令を。使者はこちらで手配しておきます」

「ああ、頼むよ」

「陛下がいなくなる東部はいかがいたしますか? 抵抗勢力はほぼいないとはいえ、だからこそ支配を進めておくべきかと」

 優斗が王都に向かうからには、誰かに東部を任せなければならない。その判断をヴィーゼルは優斗に求めた。答えがほぼ分かっている問いだ。

「……ヴィッターハンしかいないよね? それとも他に適任者がいるのかな?」

「いないことはないですが、その者はまだ陛下に忠誠を誓っておりません」

「誓う気があるのなら、すぐに誓ってもらえないかな?」

 味方は多いほうが良い。候補者がいるのであれば、すぐに臣従させたい。すでに臣従を誓ったヴィーゼルたちに、それぞれ色々な思惑があることは優斗も分かっている。だが、魔族の忠誠は信用出来る。誓わせれば自分を裏切ることだけは出来ないはずなのだ。

「……手配しておきます。ただいきなり抜擢はどうかと思いますが?」

「そうだね。じゃあ、東部はヴィッターハンに任せることにしよう。君は友達思いだね? 自分は戦って領地を得なければならない西部を引き受け、楽な東部はヴィッターハンに任せるなんて」

「友達思いというより、より陛下のお役に立ちたいだけです」

 ユーロン双王国と戦って領地を獲得しなければならない。確かにそうだが、いずれユーロン双王国とは戦うことになる。それが早まるだけだ。西部を手に入れてしまえば、次は、すでに戦力が衰えたユーロン双王国への侵攻。早期決着が可能で、それが実現出来れば戦争で荒れていないユーロン双王国が手に入る。
 東部は逆だ。無傷のマンセル王国との戦い。マリ王国も強力だ。苦労して領土を手に入れても、大陸東部は戦争続きで荒れ果てている。旨みは少ない。
 
「協力とほどほどの競争。これが組織を強くするからね。頑張って」

 それくらいのことは優斗も分かる。彼にとってはどうでも良いことだ。大陸制覇の実現を阻害するような競争でなければ。そして今回のヴィーゼルの企みはそういうものではない。
 あとはヴィーゼルが今回の件でヴィッターハンに恩に着せるのを待って、それとなくヴィッターハンに真実を伝えるだけ。それで対抗意識は強まる。臣下の魔王たちの協調など優斗は望まない。邪魔者が生まれれば、他の魔族を使ってそれを排除する。ライアンにそうしているように。優斗はそういう組織を作ろうとしている。信用や信頼なんて言葉は、彼の頭から消え去っているのだ。

 

◆◆◆

 アインシュリッツ王国の南部国境近くを流れる川。その川のすぐ近くでアインシュリッツ王国軍は野営を行っている。訓練を行いながらの行軍でも、あと二、三日で国境の砦に着くという位置だ。
 ヒューガの前に並んでいるのは、そのアインシュリッツ王国とは異なる装いの部隊。アイントラハト王国軍の部隊、夏の軍と冬の軍だ。その数は少ない。夏が率いる夏の軍と冬樹の冬の軍は、もともと正式に所属する兵は少ない。夏と冬樹と子供たち、それに特別に能力を認められた人たちが、それぞれ十人程度加わっただけだ。

「ここまでだな」

「ああ、そうだな。俺たちはここで別れる」

 夏と冬樹たちはヒューガとは別行動をとる。ここまで同行してきたのは、アイントラハト王国軍に比べれば、まだ未熟なアインシュリッツ王国軍を鍛える為に教官役を務める為。それも、もう終わりだ。

「……死ぬなよ?」

「そう簡単にくたばらない。俺は歴史に名を残す最強の剣士になるからな」

「歴史にね……残るのは悪名かもしれないな」

 ヒューガは大陸全体を戦乱に巻き込もうとしている。彼が行動を起こさなくてもそうなるだろうが、後世の歴史家には大戦を引き起こした者の一人として認識されるはずだ。そしてそのヒューガと行動を共にする冬樹と夏も。

「悪名でも良いんじゃない? 私たちは、私たちがこの世界の、この時代に確かに生きたという証を作るの」

「この世界で生きた証か」

 この世界に転移した理由が分かることはない。そうであれば自分たちでその意味を作るだけだ。

「その是非は私たちにしか分からない。他人がどう思おうと関係ないわ。我なす事は我のみぞ知るよ」

「それって、竜馬か……いいね」

 夏が口にした言葉。「世の人は我を何とも言わば言え。我なす事は我のみが知る」は坂本竜馬の言葉。今の自分の心境にはぴったりだとヒューガは感じた。

「次に会う時は皆、有名人だな」

 悪名であろうとなんであろうと、大陸の人々に広く名を知られる活躍をしているはず。そうでなければならないと冬樹は思う。以前、離れ離れになった時を超える意味を持たせなければならないと。

「まあ、俺はな……心配は冬樹だけだ」

「はっ? どうして、俺だけ?」

「剣って地味だ」

「地味だと!?」

 自分の得意を地味と言われて、冬樹は大声で文句を言う。

「だって俺は王だから、戦争を始めたってだけで、それなりに有名になる。夏の魔法は派手だから、一撃で敵に印象を残せるだろ?」

「俺だって…………どうすれば目立てると思う?」

 ヒューガの話を聞いて、剣での戦いは、戦場においては、確かに地味だと冬樹も思った。

「一人で千人倒すとか?」

「ああ、そうか。じゃあ、そうする」

「こわっ! あっさり受け入れるか?」

 戦場で、一人で千人殺す。これを「そうする」と軽く言える冬樹。言葉の意味が分かっていないわけではない。ヒューガも揶揄う言葉を口にしているが、冬樹が自信を持って、それを口にしたことは分かっている。

「……じゃあ、始めようか。私たちの物語を私たちで作ろう」

「俺たちの物語なら、もう始まっている。三人でこの世界に来た時から」

「……そうだね。多くの人たちに出会って、一つの目的に向かって歩むようになった。私たちはこの世界で生きている」

 この世界の現実を生きている。小説の登場人物ではなく、現実にある、この世界の一員として。

「お前ら話が面倒くさい! 俺たちは勝つ! これが全てだ!」

「……お前は単純すぎ」

「まあ、フーだから」「フーはね」「いつになっても」「フーはフーだから」「仕方ないさ」

 話が面倒かどうかは別にして、長すぎたのは事実のようだ。子供たち、という年齢ではそろそろなくなっているが、口を開いてきた。

「うるさーい!! よし! 出発だ! 行くぞっ!!」

 冬の軍と夏の軍が野営地を離れていく。戦乱はますます拡大していく。この大陸全土を巻き込む形で。

 四季の軍は戦乱が広がる大地に放たれた。その先にある未来を、光に溢れるものにする為に。

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