グランフラム王国による王都奪回作戦は失敗した。元ウィンヒール王国貴族の裏切りもあって、グレートアレクサンドロス帝国はその支配地域を更に拡大する事となっている。
旧グランフラム王国領の西部全域、北部の八割、南部についてもすでに過半がグレートアレクサンドロス帝国の支配地域となっている。そして中央とバンドゥ領周辺を除く東部も同様。
グレートアレクサンドロス帝国は三国の中で完全に突出する形となり、旧グランフラム王国全土の支配者となるのも時間の問題だ。
というのはグレートアレクサンドロス帝国が国威高揚の為に喧伝している内容であって、実態は少し違う。旧ウィンヒール王国領である北部でグレートアレクサンドロス帝国の支配が及んでいる範囲は臣従した貴族領のみで、飛び地のような状態になっている。
ではその他の地域はどうなっているのかというと、統治する者がいない中、盗賊が跋扈する無法地帯と化していた。
勝ったとはいえグレートアレクサンドロス帝国は、グランフラム王国との戦いで兵数を激減させている。それが回復するまではファティラース王国との戦い以外には、軍勢を回せる状態ではないのだ。
このような事情から治安回復は貴族家の軍が担当する事になったのだが、その貴族家軍の規模で手を回せるのは北部の半分にも満たない範囲だった。
一方でグランフラム王国としては何とか反攻の機会を得たいところだが、それは簡単ではない。グレートアレクサンドロス王国と再戦しようにも戦力が足りないのだ。
元々防衛戦を構築しようにも兵力が足りないから、王都奪回という作戦を選択したのだ。更に減少した戦力では攻勢に出ることなど出来るはずもなく、バンドゥ周辺の守りを固めるのが精一杯だった。それ以前に新体制の整備も行う必要がある。グランフラム王国も身動きが出来る状況ではなかった。
だがいつまでもそのままではいられない。グランフラム王国が動かない間にもグレートアレクサンドロス帝国は着実に占領地の統治を固めているのだ。
「ウィンヒールを探らせていた者が戻ってきました。結論から申し上げると、ウィンヒールへの侵攻は見送るべきと考えます」
会議の席。新グランフラム国王となったアーノルドに、セイド宰相が旧ウィンヒール王国の調査結果を報告している。
「……理由は?」
領土拡張を試みにはもっとも適していると思われていた北部。そこへの侵攻作戦を見送るべきと言うセイド宰相の考えがアーノルドには分からない。
「予想以上に荒れているようです。盗賊の規模はかなりのもので、中途半端な軍を出しては、無視できない被害を出す可能性があります」
「アレクサンドロスの貴族は何をしているのだ?」
「討伐を試みては、失敗しているようです」
「……どれくらいの規模なのだ?」
裏切った貴族家軍は一万。撤退の時の戦いで打ち破ってはいるが、それでも三分の一も減っていないはずだ。前グランフラム国王の魔法が発動して直ぐに裏切った軍勢は戦意を失って逃げに徹していたのだ。
仮に八千が残っているとして、それで討伐出来ない盗賊の規模がアーノルドには想像つかない。
「全容は分かっておりません。確認出来た中で、最大は二千ほどだったようです」
「……二千か。それくらいの規模の盗賊集団がいくつも居るという事だな」
二千という数は、所詮は盗賊と馬鹿に出来る数ではない。だが貴族家軍が恐れる数でもない。盗賊の総数は、この何倍もあるのだとアーノルドは判断した。
「恐らくは。そして今も増えているかもしれません」
「それはどうしてだ?」
「今の北部は盗賊たちにとって楽園です。主を失った貴族の屋敷、倉庫などなど、奪うものは山程あります。それを邪魔する貴族軍もおりません」
「そういう事か」
ウィンヒール元侯家であり王家。元は従属貴族の筆頭であったラング宰相のウスタイン家。滅んでしまった貴族家は山程ある。グランフラム王国に従っている貴族家も北部にある領地を捨てて、バンドゥに付いて来ていたりするのだ。北部は盗賊にとって宝の山となっている。
「それに放置された財宝を持ち去ろうという者が、最初から盗賊とは限りません。使用人、領民などが財宝を奪う。当然それを又、盗賊が奪おうとするのですが、それを防ぐ方法が一つあります」
「何だ?」
「自分たちも盗賊になる事です」
同業者同士で争わなくてもお宝は山ほどある。今はそれが通用しているのだ。
「……とんでもない事を思いつくのだな」
「今はそのような状況ですが、いずれは盗賊同士の争いに発展するかもしれません。侵攻の機会があるとすれば、そうなった時でしょう」
盗賊が潰し合って数を減らすまで。ただそうなる時までグレートアレクサンドロス帝国が動かない保証はない。セイド宰相が「あるとすれば」という言い方をしたのはこういう理由だ。
「そのような状態で民の暮らしはどうなっているのだ?」
北部に暮らす全ての人々が盗賊になっているわけではない。悪事に手を染めることなく、普通の暮らしを営もうとしている人々もいるはずだ。
「……それなりの暮らしをしております」
「それなりというのはどういう事だ? 穏やかに暮らせていると宰相は言うのか?」
「それは……」
そんなはずはない。盗賊が跋扈(ばっこ)するような土地で楽な暮らしが出来るはずがない。
「……苦しんでいる民を見捨てて、グランフラム王国の王なんて名乗れない」
「他国の民です」
「違う! グランフラム王国の民だ! そう考えなくてどうする!?」
アーノルドが目指すのは全ての領土を取り戻すこと。旧グランフラム王国の領土に住む全ての人々は自国の国民だと考えている。
「……お気持ちは分かりますが、現実をお考え下さい」
「現実だと?」
「今の我々には民への同情で兵を出す余裕などございません。それで兵を毀損したらどうするのですか? アレクサンドロスとの戦いが出来なくなったらどうするのですか?」
「それは……」
セイド宰相の言うとおり。グレートアレクサンドロス帝国を打ち破る為の戦略的目的以外での出兵は控えるべきだ。それはアーノルドにも分かる。
「まずは力を蓄えること。そしてアレクサンドロス帝国を討ち、領土を取り戻すこと。民の為の行動はそれからです」
「……ランバード」
「はっ」
アーノルドは自身の即位と共に新近衛騎士団長となったランバードを呼んだ。
「北部に領地を持っていた貴族家。その軍を率いて北部の治安回復を実現出来るか?」
「ご命令とあれば行いますが……」
「お前も反対か?」
問いを向けられたランバート近衛騎士団長は出来るとは言わなかった。それを反対の意思表示だとアーノルドは受け取った。
「仮に盗賊を討ち、治安回復を図れたとしてもそれが我が国の利になるとは思えません」
「その理由は?」
「どれだけの貴族がバンドゥに戻ってくるでしょうか?」
「……そうだな」
北部に領地を持つ貴族家がバンドゥにいるのはグランフラム王国への忠誠が理由ではない。そういう貴族もいないわけではないが、多くは単独では領地に戻るのが困難だからだ。もし出兵により北部をグランフラム王国の支配化に置けたら、領地にそのまま残るだろう。
それで戦いを避けられる。もしグレートアレクサンドロス帝国が領地に攻めてきたら、その時はまたバンドゥに逃げればいいのだ。条件次第では降伏する手もある。
「支配地域を増やせても兵士の数が減るだけ。かなり荒廃している様子ですので財政的な利もない。出兵に利はありません」
「そうか……」
アーノルドにもそれくらいは分かっている。それでも気持ちは納得しない。北部の治安回復は利ではなく情によって生まれた考えなのだから。
「現段階ではバンドゥの守りを固める事が優先事項と考えます」
グランフラム王国はファティラース王国との共闘を諦めている。正確には、自分たちから申し入れる事は行わないと決めている。
駆け引きではない。今、南部に介入しても民衆の反感を自分たちに向けるだけ。たとえ南部に支配地域を確保出来ても、そこで民衆の叛乱が起きるだけとの考えからだ。
ファティラース王国と共闘するにしても、それは南部ではなくバンドゥの防衛、そしてその後に試みるはずの再度の王都奪回戦にしたいというのがグランフラム王国の考えだ。
「……まずは西か」
バンドゥは周囲を山に囲まれており、守り易い土地ではある。カマークから東西南北の四方向に街道が伸びており、その街道を進んだ他領との境、領境が守りの要となる。
東はオクス、ハシウに繋がる街道なので当面の対応は不要として、三箇所の防衛を固める必要があった。
その中で優先すべきは、やはり王都、現帝都へと繋がる西の境だ。
「はい。まずは西、それから南、北という優先順で考えております」
ファティラース王国に繋がる南が二番目。ファティラース王国の敗北は、そう遠くないとの判断だ。
「ただ具体的にどう守るのだ? 銃はまだしも、あの爆裂玉を防ぐのは容易ではないぞ」
大砲の事だ。大砲そのものはグランフラム王国の者たちは見ていないので、飛んできて爆発する鉄の玉から爆裂玉と呼ばれている。
「それはまだ。とりあえずは通常よりも壁の厚さを増す事で対応しようかと思っております」
「それで防げれば良いのだが……」
「後は魔導での補強をと考えているのですが、ここはファティラースの協力が欲しいところです」
土属性の魔法、魔導にかけては、当たり前だが、ファティラース家の知識が最高だ。残念ながらシャルロットは、個人の魔法については一級だが、魔導の知識は乏しかった。長年の研究から生み出される独自の魔導は、他家に嫁ぐ女子には伝えられないものなのだ。
「砦の構築を進めておいて、後からか……それまでにアレクサンドロスが攻めてくる可能性は?」
「絶対とは言い切れませんが、少ないと考えております。アレクサンドロスの被害もかなりのものであるはずです。少なくともそれが回復するまで、そしてファティラースとのケリが付くまでは侵攻はないと判断しました」
「……それが外れても対応が変わる訳ではないか。分かった。それで進めてくれ」
前グランフラム国王を失った影響は、前王にとっては悲しい事だが、ほとんどない。アーノルドは早々に家臣団をまとめ、政務を停滞させる事なく次々と物事を進めている。
前王の為に言っておくと、混乱がないのはアーノルドが優秀であるからではなく、今のグランフラム王国だからだ。文句を言う貴族はおらず、文句を言っている余裕もない。アーノルドがたとえ暗愚であっても、この危機を乗り越える為に新王の下で一致団結するしか臣下に選択肢はないのだ。
◇◇◇
会議を終えたアーノルドは城の奥に向かった。エアリエルやシャルロットがいる場所だ。廊下を進み、目的の部屋の前に辿り着いたところで目の前の扉を叩く。
中からの返事を聞いたところでアーノルドは扉を開けて中に入った。
「陛下。このような時間にお越しとは珍しいですね?」
部屋の中にいたのはシャルロット。アーノルドがやってきたことに少し驚いている。
「ああ。少し気分転換がしたくてな……フラウはいないのか?」
アーノルドが会いたかったのはシャルロットではなくフラウ。そのフラウの姿が見えないので残念そうな顔をしている。
「グラウはエアリエルと一緒にいますわ」
「そうか……では仕方がないな」
エアリエルの所に行こうとはアーノルドは言い出さない。自分に対するエアリエルの悪感情が未だに消えていないことをアーノルドは知っている。それを刺激する気にはなれなかった。
「……何かあったのですか?」
わざわざ日中に、日中でなければフラウには会えないが、部屋を訪れたアーノルドをシャルロットは疑問に思う。アーノルドが今、ひどく忙しいことは分かっているのだ。
「最初に言った通りだ。気分転換がしたくて」
「つまり、フラウと遊ばないと気が晴れないほどの何かがあったのですね?」
気分転換の方法なら他にも方法はあるはず。そんな中でわざわざ奥に来て、フラウと遊ぶことを選んだのは余程のことがあったのだとシャルロットは考えた。
「……俺は国王になった」
「え、ええ、知っています」
何を今更。こんな風にシャルロットは思ったのだが。
「国王になって初めて父上の気持ちが少し分かった気がする」
「亡くなられた前陛下のですか……」
アーノルドの父親に対してシャルロットはあまり良い印象がない。自分たちを政治利用しようとしたことが原因だ。
「国王になる前は父上のやり方に不満を持っていた。だが今の俺も同じだ」
「……同じというのは?」
「自分のやりたいことなんて何も出来ない。父上も同じだったのかもしれない。国王として仕方なく、自分の意に反したことをしていたのかもしれない」
「そういうことをなさるのですか?」
それが何かシャルロットは気になる。前国王と同じように自分たちを政治に利用しようとされては堪らない。
「やるのではなくて出来ないのだ」
「……何が?」
「北部では盗賊が暴れ回っているそうだ。それを取り締まる貴族はいない。そもそも領政を行う者のいない土地で、人々はどうやって暮らしているのだろうか」
「そうですね……」
アーノルドの問いに対してシャルロットは答えを持たない。侯家の令嬢であったシャルロット。アーノルドと形だけの結婚をしたあとも、城を出ることなどほとんどなく民の暮らしについては詳しく知らないのだ。
「俺は国王としてそんな民を救わなければならないと思った。でもそれが出来ない」
「どうしてですか? 陛下がそうしたいのであればそれを行えば良いではないですか」
「それを行う力が俺にはない。臣下を説得する力が、いや、そもそも北部に出せる軍勢がいない」
「……それであれば……いえ、それでは納得出来ないですね」
力がない。それを理由にしても気持ちは収まらない。収まるようであればそもそも北部を何とかしたいなんて思わない。
「……リオンであればどうしただろうな?」
「……私はそれに答えられるほど彼を知りません。でも一つだけ確かなのは彼は簡単には諦めないと思います」
貧民街の孤児として育ったリオンは、亡くなったヴィンセントとエアリエルを守る為の力を必死で蓄えた。普通であれば不可能と思うことを諦めることなく、成し遂げたのだ。
もっともリオンにこれを言えば「力など得ていない。自分が無力だったから二人を守れなかった」と言うだろうが。
「そうだろうな。諦めない……それで何が出来るか……」
シャルロットの言うとおりだと思う。だが気持ちだけでは物事は解決しない。まずは諦めないでそれを考え続けること。今の自分にはそれしか出来ないとアーノルドは思った。
部屋を出ようと歩き出したアーノルド。その足が扉の前で止まる。
「……シャルロット。ありがとう」
「えっ?」
「君がいてくれて良かった。今更だけどそう思った」
「……私は何もしていないわ」
「そうだとしても……愚痴を話せる人がいるというのは助かる」
国王になって初めて感じた孤独。臣下の前で弱みを見せられない辛さをアーノルドは知った。国王ではなくただの人に戻れる時間をありがたく感じた。
◇◇◇
アーノルドとシャルロットが部屋で話をしている頃。エアリエルは来訪したオクス王国のアレックス王子と会っていた。エアリエルは別に会いたくないのだが、アレックス王子もその辺りは慣れたもの。きちんと話をする時間が取れるように準備を整えている。
「おお、良くお似合いだ。今度は、これはどうかな?」
アレックス王子が準備してきたのは沢山の贈り物。しかもフラウへの贈り物だ。自分への贈り物であれば問答無用で突き返すところだが、フラウへとなるとさすがにエアリエルも躊躇ってしまう。よく考えた作戦だ。
「よし、これは今回のとっておきだ。ほうら、格好良いだろ?」
「ん!」
アレックス王子が取り出したのは、フラウ用に誂(こしら)えた小さな剣。だが黒光りする刃は、とても子供用とは思えない。それを見たフラウの目が輝いている。
「格好だけじゃないからな。この剣には火属性魔導が組み込まれている。魔法剣が使いやすくなっている。どうだ? 凄いだろ?」
「しゅごい!」
アレックス王子はフラウのご機嫌を取ることには成功した。だが横で見ているエアリエルは渋い顔だ。
「……ねえ、気持ちはありがたいのだけど、もう少し女の子らしいのはないのかしら?」
アレックス王子の贈り物は騎士服や鎧兜、それに剣と、武具ばかりだ。フラウは喜んでいるが、エアリエルとしてはそろそろ女の子らしい格好もさせてみたかった。
「フラウ姫はこういう格好が好きと聞いているのだが?」
「ええ。元々私が着せたのだけど、妙に気に入ってしまって」
リオンを探す旅に出るには強くならなければならない。そう思ってエアリエルは幼いフラウも鍛えていた。魔法だけでなく、ソルに頼んで剣も教えていて、その時の鍛錬着としてリオンの服装を真似て作ったのだが、フラウはその騎士服が大のお気に入りで、他の服を着ないようになってしまっていた。
「こういう格好をしていると父親にそっくりだ」
「そうかしら?」
リオンの美貌をフラウは残念ながら受け継いでいない。あまりに美人過ぎるのも、生きていく上でどうかと思うので、エアリエルはこれで良いと思っているが。
「ほら、こうして顔の下半分を隠すとそっくりだ」
「えっ? 本当だわ」
フラウは、ぷっくりとした頬が隠れると、確かにリオンに似ている。ずっと一緒にいたエアリエルだが、今初めてこれに気が付いた。
「子供の頃は顔が変わるからな。ただ、ずっと側にいると分からないものなのだ。フラウ姫は目はどちらにも似て綺麗なので、成長して頬がすっきりすれば、きっと美人になるな」
エアリエルの驚きの理由をアレックス王子が説明してくれた。
「詳しいのね?」
いつもはお調子者のアレックス王子だが、今は随分と大人びて見える。
「これでも五人の子供の親だからな」
「五人も?」
「あっ、誤解しないで欲しい。何人もの側室を抱えている訳ではないからな。第二王子の俺にそんな事は許されない」
「……そういえば、第一王子はどういう方なの?」
アレックス王子には兄がいる。これは最初から知っていた事だが、こうして人柄を聞くのは初めてのことだ。子供の話を聞いた後だったので急に聞きたくなった。第一王子ではなく、兄としてどうなのかを。
「俺とは正反対に真面目で、人望も厚く、極めて優秀な男だ。もしオクス王国なんて小国ではなく、もっと力のある国に生まれていたら、天下を取るかもしれない」
「……そこまで言えるお兄様なのね」
べた褒め。まさかここまでアレックス王子が兄を褒めるとは思っていなかった。そしてオクス王国の次代の王が、そこまで優秀な人物であったとも。
「以前は。だがある男を知って、兄はオクス王国に生まれて良かったのだと思うようになった」
「もしかして、リオン?」
「そうだ。下手に大きな国の王太子や国王でいては、戦わなければならなくなる。それがどれだけ無謀な事か、良く分かった」
つまりアレックス王子のリオン評は、べた褒めした兄の更に上という事になる。ここまでリオンを評価する理由がエアリエルは気になる。
「……ねえ、聞いて良いかしら?」
「答えられる事であれば、何でも」
「貴方は何を知っているの?」
アレックス王子は自分の知らないリオンの情報を知っている。これは間違いないとエアリエルは思っている。
「……時代は乱世だ。乱世において英雄は、嫌でも表舞台に引き出される。俺が知っているのはこの事だ」
「そう。そういう人を一人、私は知っているわ」
「そうか。ではその人は英雄だ。やがて誰もがその人を知ることになるだろうな」
「……ありがとう」
アレックス王子には、はっきりと口に出来ない事情がある。その中でアレックス王子は出来るだけの事をエアリエルに告げようとした。リオンは必ず現れると、エアリエルに教えているのだ。