月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

異伝ブルーメンリッター戦記 第107話 新たな物語は新展開を迎えようとしている……のか?

異世界ファンタジー小説 異伝ブルーメンリッター戦記

 ノイエーラの外壁の外。魔王軍配下の軍勢との戦いが行われたその場所に今、二つの軍勢が隊列を整えて並んでいる。それぞれ数は三千。外壁に近い側で陣を組んでいるのは狼人族と熊人族、鬼人族それぞれ千で編成された軍勢。アイネマンシャフト王国軍だ。
 それに向かい合っているのは三千全てが騎馬隊で編成されているリリエンベルク公国軍、だけではない。中央の騎馬隊は半馬人のセントール族。率いているのはジグルスだ。
 戦いを目の前にしてやや緊張している両軍。そもそも何故、このような事態になっているのかというと――

「はっ? 今、なんて言った?」

 リーゼロッテたちを迎えての夕食の席。ジグルスは不機嫌な様子でフレイに問いを向けた。

「なにって……軍事は我々に任せてくれれば良いから政治向きのことはよろしく頼むと」

 ジグルスの問いに戸惑うフレイ。不機嫌にさせるようなことを言った覚えはフレイにはない。

「出た。思い上がり」

「なんだと? 俺には国の政治なんて出来ないから頼むと言ったのだ。これがどうして思い上がりになる? 思い上がりどころか謙虚ではないか」

 国の運営などフレイには出来ない。フレイだけではない。この場にいる魔族たちの多くは種族、部族の長ではあるが、アイネマンシャフト王国で現在、もしくはこの先、行うことになる農政、外交などの政治ごとについては知識も経験もない。出来ないので自分たちよりその面で知識が豊富なリーゼロッテたち、リリエンベルク公国の人たちにお願いしたのだ。

「俺が言っているのはそこじゃない」

「じゃあ、どこだ?」

「軍事は任せろってところ」

「……分からん。戦闘能力は我々のほうが上。軍事を担当するのは当然ではないか。お互いに得意分野で働こうというのは正しいことだ」

 フレイにはやはりジグルスが何を怒っているのか分からない。本人は、初対面のリーゼロッテたちに気を使って、普段よりもまともな発言をしているつもりだ。

「無条件に魔族は人族よりも強いと考えていること。それが思い上がりだと言っている」

「……無条件ではない。人族の強さは俺なりに理解しているつもりだ。理解し、反省して俺たちは新しい戦い方を身につけた。個々の戦闘力に頼るのではなく、集団で戦う力を」

 フレイたちはジグルスの命令に従って、訓練を行っている。地味な集団行動の訓練も。確実にアイネマンシャフト王国軍は強くなっている。そう実感しているのだ。

「じゃあ、新しい戦い方を身につけたと考えているのが思い上がりに訂正する」

「それは……今はまだ王が納得するものではないかもしれないが、それでも我等は強い。もっと訓練を続ければさらに強くなる」

 同数であれば魔王軍相手であっても絶対に負けない。そう思える戦果をこれまであげてきた。それがフレイの自信になっている。

「訓練を続ければ、ね。じゃあ、本当にそうか確かめてみよう」

「確かめる? どうやって?」

「リリエンベルク公国軍との演習を行う。数は……リリエンベルク公国軍次第か。とにかく同数で実戦形式の演習だ」

 ブラオリーリエにいる全軍を演習に参加させることは出来ないとジグルスは考えている。魔族がいるアイネマンシャフト王国軍との合流を拒否する人もいるはずだと。

「同数で? 我等と?」

「その反応が思い上がりなんだ。俺とセントール族はリリエンベルク公国軍側に入るからな」

「……いくら王が敵側に回っても」

「実際にやってみれば分かる。ということでリーゼロッテ様。軍勢を揃えてもらえますか?」

「だから様はいらない。リーゼロッテ、リゼでもリズでも良いわ」

「あ、ああ、じゃあ……リズ」

 ジグルスが選んだのは、亡くなったリリエンベルク侯爵がリーゼロッテを呼ぶ時に使っていた愛称だった。

「演習については分かったわ。フェリクス、頼むわよ」

「はっ。すぐに準備に入ります」

 リーゼロッテに演習の準備を任されたフェリクスの顔には笑みが浮かんでいる。アイネマンシャフト王国軍と演習出来ることは嬉しいが、それだけではない。久しぶりにジグルスと一緒に戦える。それが楽しみでならないのだ。
 フェリクスは夕食を終えるとすぐに飛竜を使って、ブラオリーリエに戻った。結果、率いて戻ってきたのが三千という数。ブラオリーリエの守りを疎かにしない最大の数だ。
 ――そして今に至る。

「決して油断はするな! 特にセントール族の動きには気をつけろ!」

 味方に向かって指示を出すフレイ。負けるとは思っていないが、油断は出来ない。リリエンベルク公国軍にはジグルスがいる。戦術能力ではアイネマンシャフト王国軍側に優るといえる人物はいないのだ。

「この程度の雪は馬の障害にはならない! 敵の速さを見誤るなよ!」

 地面には雪が積もっている。馬を駆けさせるのに障害にはならないが、まったく影響がないともいえない積雪量だ。だがフレイはあえて影響はないと味方に告げた。これも油断させない為だ。

「……始まるぞ!」

 空に赤い炎が放たれた。演習の開始を告げる合図だ。
 先に動いたのはリリエンベルク公国軍。全軍が騎馬のリリエンベルク公国軍だ。攻勢に出るのは当然のこと。一方でアイネマンシャフト王国軍は陣形を固めたまま、動かないでいる。フレイが率いる狼人族などは、騎馬にも負けない機動力を持っているのだが、まずは出方を探るつもりだ。

「……かなり散らばっている様子だ。個別に討てるのではないか?」

 リリエンベルク公国軍はいくつもの部隊に分かれて、大きく広がっている。各個撃破が出来るのではないかとフレイの部下は考えた。

「孤立する部隊があればそれも有りか……だがまだ動くな。準備だけにしておけ」

 フレイは慎重だ。完全に孤立していると判断出来るまで軍勢を分散させるのは避けようとしている。敵方にはジグルスがいる。罠である可能性もあると考えてのことだ。

「王の部隊が熊人族に向かっています!」

 リリエンベルク公国軍の動きを追っていた一人がジグルスの部隊の動きを告げてきた。

「熊人族の部隊に……」

 熊人族の部隊は三部隊の中ではもっとも守りが固いと考えられている。単純に他と比べて大柄で力が強いというだけのことなのだが、守りに適しているのは間違いではない。
 その最も守りが固い部隊をジグルスは攻めようとしている。その意味がフレイには分からない。

「……部隊を分けていつでも動けるようにしておけ。ただし、指示があるまで絶対に動くな」

 フレイは自部隊の一部を熊人族の支援に向かわせることを考えた。あくまでも戦況次第であるが。

「勢いを止めた、のか?」

 その戦況がすぐに訪れた。ジグルス率いるセントール族は熊人族の陣形を崩しきることが出来ずに、足止めされている。攻めかかる絶好の機会と思われるのだが。

「敵の他の部隊はどこだ!?」

 罠を恐れてすぐには決断出来なかった。

「半分は鬼人族を攻めているようです!」

「残りの半分は!?」

「分かりません!」

 演習場は丘陵地。全てではないが人工のもので、防壁の上からでなければ全体を見渡すことが出来ない。そういう風に作られているのだ。有翼族や鳥人族が味方にいれば、空からリリエンベルク公国軍の居場所を確認することも出来るが、二種族は演習に参加していない。

「……どうする?」

 リリエンベルク公国軍の最強部隊であるセントール族を討つ絶好の機会。だが罠である可能性も十分にある。

「熊人族の後背に敵影!」

 熊人族の隊列の後方からリリエンベルク公国軍の部隊が攻めかかろうとしている。

「支援部隊を出せ! 王の部隊を包囲するのだ!」

 新手の出現を知ったフレイは支援部隊を出すことを決断した。このまま動かないでいれば熊人族の部隊は逆に危機に陥る。そう判断したのだ。
 三分の一、三百人ほどの部隊が熊人族の陣に向かって駆けていく。

「さらに敵影!」

 その支援部隊に向かって行くリリエンベルク公国軍の騎馬隊。これもまた新手だ。

「増援を送れ! 邪魔をさせるな!」

 フレイの命令を受けて、また三百人の部隊が離れていく。最初に熊人族の陣に向かった部隊の邪魔をさせまいと新たに現れた騎馬隊に向けて駆けていく。

「間に合うか……」

 ジグルスの部隊を逃がすことなく包囲出来るか。時間との勝負、と思ったフレイであったが、そんなことはない。勝負の相手はあくまでもリリエンベルク公国軍だ。

「敵騎馬隊近づいてきます!」

「なんだと!? すぐに迎撃態勢を取れ!」

 自陣に残ったままの部隊に命令を発するフレイ。それを受けて隊列を整え直す兵たちであったが。

「そんな……」

 三方向から向かってくる敵の数は味方を遙かに上回っていた。
 
「……鬼人族は何をしている!?」

 敵の半数は鬼人族の部隊を攻めていた。だが攻めてくる数から考えれば、その敵も攻撃に加わっているとしか考えられない。

「こちらに向かっています。ただ……」

「ただ、何だ!?」

「王の部隊に……」

「なんだって……?」

 熊人族を攻めていたはずのジグルス率いるセントール族は、獣人族に攻めかかるリリエンベルク公国軍の後を追おうとしている鬼人族の前を遮っている。
 では熊人族の陣はどうなっているのかと後ろを振り返ったフレイの目に映ったのは、陣で隊列を組んだまま動かないでいる獣人族の姿だった。

「奴等は何をしているのだ!?」

 戦いに参加していない熊人族に対して怒りを見せるフレイだが、彼等も別に怠けているわけではない。隊列を整え直して、これから獣人族の陣に支援に向かおうとしているところなのだ。
 だが熊人族の支援を得ることなく獣人族の陣は崩壊。リリエンベルク公国軍はそのまま陣を離れている残り六百の部隊に襲い掛かっていった。さらにジグルスの部隊を含む鬼人族を足止めしていたリリエンベルク公国軍も合流。残りの六百も壊滅状態になったあとは熊人族、鬼人族の部隊と順番に各個撃破されることになった――アイネマンシャフト王国軍の完敗だ。

「同数相手に完敗。言い訳があるなら聞く」

 演習を終えたあと。ジグルスはうなだれているフレイたちに話しかけた。

「……演習のルールが、一撃あたっただけで脱落というのはおかしい」

 ジグルスの言葉通り、言い訳を口にしたのは熊人族のベルセルクル。演習であるので武器は全て木製のもの。それを一撃でも受けたら退場というルールなのだ。

「それは仕方がない。それに、たとえどんなに頑強な魔人であっても一撃で倒せる武器がこの先、生まれないとも限らない」

「それは……そうだが……」

 ベルセルクルにはこじつけに聞こえるが、ジグルスは割と本気で言っている。武器の進化した姿を彼は知っている。元の世界と同じ進化を遂げるとは限らないが、強力な武器が生まれる可能性は否定出来るものではない。

「言い訳はそれだけで十分。敗因は?」

「……戦術」

「具体的に」

「王の軍は全体が連携して動いていた。それに比べると我々はバラバラだ。もっと戦術を詰めてから演習に臨むべきだった」

 集団行動の訓練は行ってきた。だがそれは種族、部族単位。全体としての訓練は行ってきていない。

「まあ、正解かな。ただ俺たちも演習の前に戦術の確認は行っていないから」

「えっ?」

「これくらいの戦いであれば、事前に打ち合わせをしなくても連携出来る。誰がどう動くか、どう動いてくれるか分かる。自信を持ってこう言い切れるくらいに俺たちはお互いを理解している」

 学院時代、卒業してからもジグルスたちは数え切れないくらい話し合いを重ねてきた。戦術だけではない。お互いの考え方を理解し合えるだけの時を共に過ごしてきた。

「アイネマンシャフト王国の国是は種族融和。だがその実現は簡単ではない。長い時間を、自分たちの代だけでは足りない長い時を必要とするはずだ」

 ジグルスという存在がいて、戦時という特殊な環境下であるからアイネマンシャフト王国は一つにまとまれている。だがそれは本当の意味での種族融和ではないとジグルスは考えている。平和の時代に長く共存出来てこそ、それどころか共存という意識さえ必要なくなった時が、本当に融和が実現されたと言えるのだと。

「だが軍は違う。種族が何であろうと無駄死にしたくないという気持ち、大切なものを守りたいという想いに変わりはないはずで、その為であれば協力し合えるはずだ」

 戦争において味方同士の利害にずれが生じることは、よほどおかしなことを考えていない限りは、ないはず。種族が異なっていてもそれは同じはずだとジグルスは考えている。

「もっとお互いを理解しなければならない。お互いを尊重し合わなければならない。それが出来た時、俺たちはもっと強くなれる」

 種族や部族の垣根を取り払い一つにする。それがジグルスの考えているアイネマンシャフト王国軍の形だ。

「お前たちが国民の手本となれ!」

「「「ははっ!!」」」

 

◆◆◆

 ゾンネンブルーメ公国の中央都市ゼーンズフト。そこは既に魔王軍の占領下にある。ユリアーナが率いる軍の勢いが凄まじい、というだけではない。領境を封鎖された形になり、孤立したゾンネンブルーメ公国軍。いつ来るか分からない増援を期待して籠城するよりは、ゼーンズフトを放棄しても戦力を温存したほうが良いと判断されたのだ。ゾンネンブルーメ公爵とその家族の命が大事という理由のほうが大きいかもしれないが。
 ゼーンズフトを陥落させたユリアーナは一旦そこで進軍を止めた。中央都市を落としたことで満足したわけではない。戦況の変化を確認する為だ。

「領境の防衛線が突破されたのは事実みたいだ」

 その変化について報告しているのはフェンだ。

「あら? 魔王軍って案外もろいのね?」

 ユリアーナはブルーメンリッターを過小評価しているわけではない。その強さを正しく認識しているから、二軍で構築していた防衛線が突破されたのが意外だったのだ。

「上手く弱点を突かれた形だね」

「弱点?」

「防衛を担当していたのが闇王軍と巨王軍であることは知っているね?」

「ええ。見たことはないけど」

 軽い嫌味を付け加えるユリアーナ。魔王軍に寝返ったユリアーナだが、未だに魔王にも大魔将軍の誰とも会っていない。軽く見られていると不満に思っているのだ。

「闇王軍のほうは混成軍でね。エルフ族やドワーフ族、それに魔族も貴族ばかりだ」

「貴族? 魔族に貴族なんているの?」

 ユリアーナが持たない情報。ゲームにそんな設定はなかったはずなのだ。

「人族の貴族とは少し違う。魔族の歴史でも太古といえる昔から続く一族がいくつかあって、真偽は定かでないけど遙か昔は神族と呼ばれていたなんて話もある」

 他のどの種族にも属さない極小数の一族内だけの固有の種。そういった人々が魔族の間では貴族とされている。実際のところは血が繋がっているというだけで、どの一族も混血が進んでいるのだが、公には認められていない。

「……強いの?」

「強いね。現魔王も、そして前魔王もその貴族の一人だ。ただ多くはプライドが高くてね。闇王軍に属していても大魔将軍に従う気なんて微塵もない」

「それじゃあ、弱点にもなるわね」

 魔族は強い。だがそれはあくまでも個の力。十の力は十以上にはならない。人族は数の力で個の力の差を補っているが、ただ一の力を十集めるだけでなく、連携させることで、さらにそれを二倍三倍にしているのだ。

「協力し合おうなんて気持ちもないからね。まあ、今回はそれだけでなく、かなりの戦力が寝返ったのが大きいかな?」

「寝返った? そんな魔族がいるの?」

 人族、実際は異世界人だが、の自分が魔族側に寝返ることだって驚かれること。まして魔族が寝返るなどあり得ないとユリアーナは思う。人族の側が受け入れると思えないのだ。ただこれは勘違いだ。

「いる。ただ多くはエルフ族だけどね。それに寝返った先はローゼンガルテン王国ではないよ」

「……じゃあ、どこ?」

 問いを口にするユリアーナの頭には、すでに一つの可能性が思い浮かんでいる。

「アイネマンシャフト王国。ジグルス・クロニクスの国だよ」

「彼の国……」

 思っていた通り、正確には思っていた以上の答えだった。ジグルスは王になった。どのような国かは分からないが、無名であったはずの彼が王にまで成り上がったのだ。

「嬉しそうだね?」

「……そんなことないわ」

「ふむ。君とは本音で話をしたいのだけど……すぐには無理か。じゃあ、まずは私の気持ちを伝えておこう。私にとって彼の両親、バルドルとヘルはとても大切な人だ」

「だから何?」

「……何と聞かれても困るね」

 ユリアーナの反応はフェンの思っていたものではなかった。彼女はジグルスに好意を向けている。そうでありながら魔王軍に寝返った理由は分からないが、その点では共感出来ると考えていたのだ。

「……じゃあ、聞いて良い? 二人を同じくらいに大切に想っているの? その大切って同じ意味かしら?」

「それは……」

 想定外の問いにフェンは動揺を隠しきれない。

「本音で話をしたいのではなかった?」

 フェンの目をじっと見つめて問い掛けるユリアーナ。

「……ああ、分かった。君の思っている通り、同じ意味じゃない。だからといってバルドルを恨んではいないからね? 私は二人の幸せを心から願っていた」

 その視線を受けたフェンは、正直に自分の気持ちを語ることにした。誤魔化しても意味はない。そんな風に思ってしまったのだ。

「彼女の幸せをね?」

「……認める」

 バルドルに嫉妬がなかったと言えば嘘になる。その気持ちをフェンはヘルが幸せなのであれば、という想いで押さえ込んでいたのだ。

「良いわ。貴方の想いについては信じてあげる。なるほどね。まったく無反応なのは精神力の強さだけが理由ではなかったのね?」

 フェンはユリアーナの魅了にまったく反応しない。精神力の強さだけが理由ではなく、他に強く想う女性がいるからだとユリアーナは考えた。ジグルスと同じだと。
 実際のところはやはり精神力の強さが大きいのだが、そう思いたいのだ。

「話が逸れたね。リリエンベルク公国軍は領境を超えて、ゾンネンブルーメ公国領内を進んでいる。その相手をするのは君だ。巨王軍も麾下に入る」

「いきなりの抜擢ね。会ったこともない私をよく信用出来るわね」

「魔王はそんなに甘くない。巨王軍は実際には監視役だ。元の仲間と君が本気で戦うか試そうということだと思うよ」

 会ったこともないユリアーナを信用するはずがない。信用していないから会おうとしないのだ。

「無駄なことを。まっ、彼等と戦うことに文句はないわ……巨王軍って私の邪魔しない?」

「どうだろうね? 魔王軍では当たり前にあり過ぎて、しないとは言い切れないな」

「ねえ。魔王って本気で勝つ気あるの?」

「……どうかな?」

 ローゼンガルテン王国軍の本格的な反攻が始まっている。ジグルスのアイネマンシャフト王国も多くの魔族やエルフ族を取り込み、確実にその力を強めていっている。
 この状況で未だに無能な大将軍たちに軍を任せているヨルムンガンドの考えがフェンには理解出来ない。ユリアーナが軽い気持ちで口にした疑問は、フェンもずっと持っていたものだ。
 ただそれもようやく変わるかもしれない。ユリアーナに、たとえ試しであっても軍勢を任せたことが、そのきっかけになるかもしれない。それを喜ぶ気持ちはフェンにないとしても。