グレンがルート王国に帰国したのは国政の状況を確認する為だけではない。ゼクソン王国とウェヌス王国との交渉の場であるエステスト城砦は、ゼクソン王都よりもルーテイジの方が近い位置にある。交渉の状況によってグレンの判断が必要になった時の為に、より近いルーテイジにいることにしたのだ。
それだけゼクソン王国は交渉の早期終結を望んでいる。交渉の決着をみないと本格的に動き出せない事柄は多くあるからだ。
その交渉の状況を伝える使者が密かにルーテイジを訪れていた。報告の場にはグレンとソフィア、そしてハーバードが揃っている。
使者はシャドウだ。いち早く情報を伝達する為にシャドウとその配下が伝令の役目を務めている。
「わざわざお集まり頂きまして申し訳ございません。陛下には先に報告したのですが、事が事だけに王妃であるソフィア様にもお聞き頂いたほうが良いと私から進言させて頂きました」
シャドウの口からこの会議が開かれた理由が告げられる。
「何があったの?」
グレンがすでに聞いていて、更に自分に説明しなければならない事態がソフィアには思いつかない。
「それをこれから説明致します。エステスト城砦にウェヌス王国の交渉団が到着致しました。交渉団と申し上げましたが、実質は御一人でございます」
「全権大使ということですか? それとも」
交渉の場は複数で臨むのが一般的だ。交渉担当の独断を防ぐ為や交渉の公明さを確保する為だ。それが一人となると、その担当者が全て決める権限を持つか、逆にただの伝令かのどちらとなる。
「何とも申し上げられません」
「どうしてですか?」
「交渉の場に現れたのは、ウェヌス王国のメアリー王女殿下です」
「はっ?」「何と?」
メアリー王女が交渉担当だと聞いて、驚きの声をあげるソフィアとハーバード。その隣でグレンは頭を抱えていた。
「どういうことかな?」
その反応を見て、ソフィアは目を細めてグレンを睨んでいる。
「……シャドウの報告を」
「聞いているのよね?」
「そうだけど……俺の口からは言い辛い」
「……じゃあ、シャドウ。聞かせて」
訝し気な表情を見せるソフィア。メアリー王女絡みでグレンが話しづらいとなると、もうどんなことか分かった気がしている。
「はい。メアリー王女殿下が申されるには今回の交渉を始める前に、前回の講和の決着をつけるべきだと」
「決着? まだ何か残っていたの?」
「はい。実は講和の中で結婚の話が残っておりました」
「……それは誰と誰の?」
話はどんどんソフィアが考えている方向に進んでいる。
「講和条約上は、ゼクソン国王とウェヌス王国の相応しい誰かという曖昧なもので。これは明らかにウェヌス側の策略に違いありません」
「策略なの?」
「講和条件を詰めている時点ではヴィクトリア様は女性であることを公表しておりません。それでありながら婚姻の相手は、それ以前に婚約となっていたメアリー王女殿下ではなく、誰かです。ヴィクトリア様が女性であることを知っていて、何者かをゼクソン王国の玉座に座らせようという思惑です」
「よく、そんな条件が」
外交など知らないソフィアでも、どうしてそんな片方に都合の良い条件が通用したのかを不思議に思う。
「外交担当者は恐らくは銀鷹の関係者かと」
「でも、ヴィクトリア様はそれを認めたのではないの?」
国王であったヴィクトリアがその結果を知らないはずはないとソフィアは思ったのだが。
「偽造です。締結書面の署名が偽造されました。ただ、それを偽造と証明することが出来ません。それにそれを取り計らった外交担当は、ヴィクトリア様が署名したと言い張るに違いありません」
「ちょっと不用意ね。署名ってそういう偽造防止を図っておくものではないの?」
グレンの署名にはちょっとした工夫がされている。それがどの様なものか知るのはソフィアだけだ。
「図っておりました。ただ、それさえも漏れていたということです」
「最悪。それで決着って?」
ゼクソン王国のデタラメさを今更詳しく聞いても仕方がない。ソフィアは話を元に戻すことにした。
「……婚姻をと」
「誰と誰かな?」
「ゼクソン国王とメアリー王女殿下です」
「ゼクソン国王って?」
「それが微妙なところで……」
いざとなるとシャドウも口にすることを躊躇ってしまう。
「ヴィクトル王か、グレンね」
「はい……」
「そしてメアリー王女殿下の望みはグレンに嫁ぐこと」
「はい……さすがにまだ赤子であるヴィクトル王とは」
確かにその通りであるが、メアリー王女がグレンを選ぶ理由はこれではない。それはソフィアも分かっている。
「それで私が呼ばれたと……それは許せってことなの?」
「それは陛下に」
「げっ?」
「何よ、その反応? 何だか不愉快」
グレンの反応にソフィアは子供みたいに頬を膨らませて不満を示している。もう国王と王妃としての会話ではなくなっている。
「だってリアを側妃にして、すぐにもう一人って。さすがにどうかと」
「私が不愉快なのはヴィクトリア様の時は事後報告なのに、メアリー王女殿下の時は許しを求めることなの」
「……二人目だから」
「それだけ? メアリー王女殿下が特別なのじゃなくて?」
「……少し」
「あっ、認めた」
「そうじゃなくて、メアリー王女殿下はウェヌス王国の王女だ。ソフィアは王妃としての振る舞いとか気にしていただろ?」
「メアリー王女殿下なら完璧ね」
ヴィクトリアは男として振る舞っていたので、王妃としての心得など学んでいない。仮に知っていても本人には女性らしく振る舞う気持ちがない。
だがメアリー王女は違う。大国ウェヌスで、王女としてどこに出ても恥ずかしくない礼儀と教養を身に付けている。
「多分……」
「それだけ?」
「それだけ」
「……じゃあ良い」
「はい?」
あっさりとメアリー王女との婚姻を受け入れたソフィアに、グレンは驚いてしまった。
「別にそれだけじゃなくても良いの。そう言ったよね?」
「そうだけど」
ソフィアはグレンにはメアリー王女との婚姻を拒む気持ちがないと分かった。そうであれば反対をする気にはなれない。これがグレンは分かっていない。
「今の嫌味はヴィクトリア様の分よ。ヴィクトリア様の方は大丈夫なの? ウェヌスの王女が同じ側妃として来るのよ? それをどう思うか」
「……交渉がうまく進むなら平気じゃないかな? 思いっきり怒るだろうけど」
「それは平気と言うの?」
「ゼクソン王国の為となれば受け入れると思う。それでも少しは怒らないとリアも気が済まないだろ?」
ゼクソン国王ヴィクトルの母としてのヴィクトリアは受け入れる。だが、グレンの妻としてのヴィクトリアは間違いなく癇癪を起す。そして、最後は母であるヴィクトリアが優先されるとグレンは考えている。
「そうでしょうね。それでゼクソン王国の為になるの?」
「それはこれから聞く。最初にメアリー王女殿下の話を聞いて、それどころじゃなかった」
「じゃあ、シャドウ」
「はい。メアリー王女殿下が申されるには、講和条約は婚姻をもって一切の不備は無くなると。そうなって初めてゼクソンはウェヌスの非を問えるのではないかと申されております」
「……さすがというべきか。ソフィアの意見を聞くまでもなく受け入れるしかないかな?」
「そうなの?」
「ゼクソンの立て直しには金が要る。捕虜の返還金、それと交易であがる利益がその当てだからな」
これは先の講和条約を破ったウェヌス王国の非を問うという名目で提示したもの。講和条約が無効だとされれば、一旦は引き下げざるを得ない。そこからの再交渉だ。時間がかかる上にウェヌス王国側が条約締結そのものを拒否する可能性だってある。
「そういうことね。じゃあ講和が成立した。その後は?」
「捕虜の返還については提示条件を受け入れる。返還金も前回同様で良いとのことです」
「それは問題なしか。家族は?」
「いくつか条件を出されました。呼び寄せるにあたっては名簿をウェヌスに提出すること。家族への連絡はウェヌス側で行うとのことです」
「それは仕方がないな。移動は?」
「国境での引き渡し。国境までの手配はウェヌス側で行う」
「……好条件だ」
グレンは喜んでいるのではない。好条件過ぎることを怪しんでいるのだ。
「ただし、家族の範囲を制限されました。兵の配偶者、子供、両親、祖父母まで。兄弟姉妹は認められないとのことです」
「そう来たか」
さすがにウェヌス王国は甘くない。悪条件ではないが、ゼクソン王国側の思惑は外された。
「駄目なの?」
「家族を呼び寄せるのは兵の為もあるけど、労働力の確保という思惑もある。兄弟は欲しかったな。それに祖父母は労働力にならない。兵の養う家族が増えるだけだ」
「そういうことね」
「……交渉が必要だな。弟妹で未成年者は対象にしたい。あと怪我や病気で働けない兄妹姉妹もだ。そういった家族がいては、両親は絶対にゼクソンに移ってこないからな」
この件に関しては、グレンは慎重だ。ゼクソン王国に残る兵にはウェヌス王国に対する郷愁を残させたくない。ゼクソン王国こそ母国と思わせないと将来、何か問題が起こる可能性が高いのだ。
「分かりました。そう伝えておきます。交易所の設置についても問題はない。ただし関税や扱う品目は調整が必要。これは当然ですね」
「ああ。色々と決めなければいけないのは最初から分かっている。エステスト城砦は?」
「ゼクソンの所有であることを認めると」
「本当に?」
この条件は正直、グレンは期待していなかった。エステスト城塞は軍事上の要所だ。それを簡単に手放すとは思えない。
「聞いた限りでは最初からそう提示してきたそうです」
「……アシュラムに攻め込むつもりか。いや、そこまでもう?」
「えっ、どういうことよ?」
「アシュラムをウェヌスが領土に組み込めば、エステスト城砦の存在価値はなくなる。アシュラム側から幾らでもゼクソンに攻め込めるからな」
「ウェヌスはまた戦争する気なの?」
まさかの敗戦を経験しながら、まだ戦争を続けようというウェヌス王国の考えがソフィアには理解出来ない。理解出来るはずがない。ソフィアとウェヌス王国上層部、その一部だが、との間では根本的に考え方が違うのだ。
「アシュラムを取るのは前から決まっていたことだ。ただ、もう具体的に決めているとは思わなかった。メアリー王女殿下は本当に権限を持っているのか?」
「今申し上げたことは、全てジョシュア王太子は了承していると申されております」
「……国王が引っくり返す可能性は?」
「それは交渉が失敗ということです」
最終決裁権限は国王が持つ。それは当たり前のこと。誰が使者であっても同じことだ。
「それもそうか。まだ条件交渉だった。あとは五年間の相互不可侵か」
「それですが、相互不可侵ではなく同盟としたいと」
「何だって?」
関係としては一歩深いもの。だが、ゼクソン王国とウェヌス王国の間に真の友好関係などない。近づき過ぎることは問題だ。
「期間は五年。期限到来の前に両国の合意により、更なる延長もありうる形に」
「それはそうだ。五年後に必ず破る同盟なんて変だからな。実際はそのつもりだけど」
「これはどうされますか?」
「目的は何だ? アシュラムとの戦争に引き込むつもりか……」
「その可能性は高いです。ただ、必ずしもそうでないような」
「どういうことだ?」
「メアリー王女殿下はこの件については陛下との直接交渉を希望しております」
「それって?」
「陛下にしか話せないと。どうしてもそれが無理であれば、陛下が絶対に信用が置けるという人を遣わせて欲しいと申されておりました」
「クレインでは駄目ということか」
クレインはグレンが信用している臣下の一人。もちろん、メアリー王女にはそれは分からないだろが、それでもあえてそれを言う意味をグレンは考えた。
「はい。こう申されました。ご自身が信頼されている兄であるエドワード大公と同じくらいに信用出来る人をと。具体的なような曖昧なような。とにかく陛下にこう伝えて判断を仰ぐようにと」
「……それをメアリー王女殿下が?」
「はい」
「そういうことか」
答えは実に簡単だった。メアリー王女のヒントが簡単過ぎたのだ。
「何か意味が?」
「まあ。でもちょっと安易。分かる人には分かるな。注意しとかないと」
「つまり?」
「俺が行く。ウェヌス王国に人を割いてくれ。探るのはジョシュア王太子の周辺に何か変化はないか。そこまでの深入りが難しければジョシュア王太子と勇者もしくは聖女との最近の関係だけでも良い。彼らへの接触も許す」
「はっ、承知しました」
「グレン?」
いきなりシャドウに指示を出し始めたグレンに、ソフィアは戸惑っている。
「俺がいかないとまとまらない」
「それは話を聞いていれば分かるけど」
「それと詳しい内容は他の人には、まだ知らせることが出来ない」
「……分かったわ」
ただの交渉ではない。それは分かったが、そこまでだ。それでもソフィアは、それ以上詳しい説明を求めなかった。
グレンは必ず教えてくれる。今はその時ではないだけだ。そう信じている。
「じゃあ、行ってくる」
「気を付けてね」
グレンのルート王国への帰還は、こうしてあっという間に終わってしまった。その出立さえ極一部の者しか知らないままに。
◆◆◆
ルート王国を発って半月も経たないうちにグレンの姿はエステスト城砦にあった。城砦内の一室を借りて、そこにメアリー王女を招く。
二人にとっては久しぶりの再会だ。白いドレスを身にまとったメアリー王女が部屋に入ってくるなり、グレンの心に抑えきれない思いが込み上げてくる。
「やっと……やっと会えたわね」
それはメアリー王女も同じ。グレンを見るなり瞳には涙が溜まっている。
「随分と強引な再会です。貴女が交渉の使者として現れたと聞いた時は驚きました」
こう言いながらグレンはメアリー王女をソファにいざなうと、自分も正面に座った。
「……こちらのお願いを聞いた時は?」
これを聞くメアリー王女の表情は少し強張っている。グレンがどう受け止めたのか分かっていないのだ。
「……もっと驚きました」
「……馬鹿な女でしょ? グレンに嫁げる可能性があると知って、王女であることも忘れてこんな場所まで来てしまったわ」
これが最初で最後の機会。そう思うとメアリー王女は居ても立ってもいられなくなった。はしたないなどと考えて自分の気持ちを抑えてしまっては、もう永遠にグレンに会う機会はなくなると分かっていた。
「貴女はどこにいても王女ですよ」
「それは褒め言葉かしら?」
「もちろん」
「……貴方が死んだと聞いた時、世の中が真っ暗になったわ」
表情を改めて、その時を思い出すように遠い目をしてメアリー王女は自分の想いを語り始めた。
「すみません」
「何日も正気を失って、何日も眠れなくて」
「…………」
メアリー王女の言葉にグレンは息をのむ。そこまでのことになっていたなど考えていなかったのだ。
「そのせいで貴方の妹まで救えなかったと聞いて、また落ち込んで」
「……それは貴女のせいでは」
「もう一生を喪に服そうと思って」
「…………」
常に王女としての自分を忘れなかったメアリー王女が、自分のことでそこまで思いつめていた。それを知ってグレンは胸が苦しくなった。
「でも貴方は生きていて、ゼクソンの将としてウェヌス軍を打ち破った」
「……それも……すみません」
「嬉しかったわ。私はウェヌス王国の王女なのに、自国の敗戦の悲しみよりも貴方が生きていてくれたことの喜びが勝ったの」
「メアリー様……」
メアリー王女の頬を涙が伝っていく。どんな想いでこれを語っているのか。どんな想いからの涙なのか。グレンには分からない。分かっているのは、メアリー王女は今、ただの女性として語っているということだけ。
「恋愛ごっこではなく、本当に貴方が好きなのだとはっきりと分かったわ。王女であることよりも貴方を好きであることを優先してしまうくらいに。それは凄く後ろめたいことで……それでも……嬉しさは消えなかったわ」
「…………」
「グレン」
「はい」
「私を……貴方の妻にしてもらえるかしら? それともこんな行き遅れの女では嫌?」
勇気を振り絞っての願い。だがメアリー王女は返事を聞くのが怖くて、すぐに冗談っぽい言葉を続けてしまう。
「今の王女殿下は初めて出会った頃と少しも変りません。いくつになっても王女殿下は、俺にとってウェヌス王国一の美女です」
「……ありがとう」
グレンが口にした「いくつになっても」そして「俺にとって」という言葉にメアリー王女の気持ちは震えた。
「俺には妻がいます。ローズ、今はソフィアと名乗っています」
「……知っているわ。ウェヌスにいた時からの貴方の恋人ね」
「はい。ソフィアだけでなく、ゼクソン国王であったヴィクトリアとも結婚しています」
「知っているわ。子供がいるのね?」
「はい。そんな俺が貴女を妻にして良いのですか? しかも貴方を正妻にすることは出来ません」
「……私がそれを望んでいるのよ。私は貴方の側にいたいの」
グレンの側にいられる。自分の願いが叶うと知ってメアリー王女の瞳からはまた涙が零れ始めた。
グレンはソファから立ち上がるとメアリー王女の側に跪き、手を伸ばしてそっと頬の涙を指で拭う。そんな自分の行為が、さらにメアリー王女の涙を誘うことがグレンには分かっていない。
「あちこち飛び回っている俺です。二人きりの時間は多く取れません」
「これまでの時間よりはずっと良いわ。いつか貴方が来てくれる。そう思って待っていられるのよ」
「……実はソフィアに秘密にしていることがあります」
「それって?」
不意に転じられた話題にメアリー王女は少し戸惑っている。ここでソフィアの名を出すグレンの気持ちが分からないのだ。
「ヴィクトリアには絶対に言えません」
「そう……」
さらにヴィクトリアの名まで出てきたことで、メアリー王女の心は沈んでしまう。
「食事室での貴女との別れを、俺はずっと忘れられませんでした」
「えっ?」
「出陣式で貴女にもう一度会えた時。思わず泣きそうになりました」
「……私は泣いてしまったわ」
「ソフィアのことが大切なのに、それは間違いないのに、貴方との思い出を忘れられませんでした」
「…………」
少し沈んでいた気持ちが、また大きく高揚していく。期待で胸が膨らみ、メアリー王女はどうして良いのか分からなくなる。
「あの頃は、こんな日が来るなんて思ってもいなかった」
「……私も」
「どうすれば良いのか悩んでいて。俺に資格があるのかとずっと悩んでいて。女性である貴女の口から言わせるような真似をしてしまいました」
「グレン……」
「立ってもらって良いですか?」
「え、ええ」
グレンに言われてソファを立つメアリー王女。何がしたいのか分からなかったメアリー王女だったが、グレンが跪いたままであるのを見て、すぐに意図が分かり、自分の手をグレンの顔の前に差し出した。
グレンは差し出された手を取って、その甲にそっと口づけをする。初めてメアリー王女と出会った時と同じだ。
「メアリー王女殿下。俺は貴女が好きです。こんな俺ですが、妻になってもらえますか?」
「はい。喜んで」
メアリー王女の返事を聞いて、その場で立ち上がるグレン。メアリー王女がグレンの胸に体を預けてくる。その体をグレンは優しく包み込むように抱きしめた。
「グレン……」
「メアリー様……」
お互いの名を呼んで見つめ合う二人。
触れ合うことを躊躇うように、それでもゆっくりと二人は口づけを交わす。結婚を約束してもまだ、二人の心には秘め事のような思いが残っていた。