月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

悪役令嬢に恋をして 第74話 揺れる気持ち、変わらぬ気持ち

異世界ファンタジー小説 悪役令嬢に恋をして

 リオンが去った後の謁見の間は、国王夫妻がその場に居るにも関わらず、大騒ぎになった。行方不明だった王族が見つかった。しかも王女ではなく王子であったとなれば、騒がずには居られない。これがリオンでなければ、この場に居る者たちも、もう少し落ち着いていられただろう。
 リオンに悪意を向けていた者は多い。そういった者たちは、自らの行いを思い出し、それがリオンに知られる事を恐れている。そしてリオンを好意的に見ていた者たちも、複雑な思いを抱いていた。リオンの能力を評価するのは、その力が王国の役に立つと考えているからであって、それが災いになるとなれば話は別だ。リオンがアーノルド王太子に良い思いを抱いていないのは周知の事実だ。臣下であれば逆らいようはないが、弟となるとどうなのか。彼らはこれを心配してしまう。
 それ以外にも様々な思惑が、それぞれの頭の中を駆け巡っている。
 この状況を収拾する事は困難だと考えた国王は、一旦この場を解散させる事にして、それを命じた。臣下たちも望むところだ。国王のいない場で話したい事は山程ある。謁見の間から人々はあっという間に消えていった。
 残ったのは、頭を抱えた姿勢で玉座に座る国王と、その隣に座る泣き顔の王妃。それを複雑な表情で見つめる近衛騎士団長。そして、アーノルド王太子だ。
 アーノルド王太子も今にも泣きそうな顔をしている。

「……父上」

 アーノルド王太子の呼び掛けにも国王は顔をあげようとしない。呼び掛けられたから、尚更、顔は上げられない。アーノルド王太子の口から次に出てくる言葉は分かっているのだ。

「リオンは俺の弟なのですか?」

 案の定、思っていた通りの言葉が発せられた。誰でも分かることだ。

「……違う」

 顔をあげる事なく、国王は一言で返す。

「母上?」

「……アーノルド」

 王妃の口からは、アーノルド王太子の名以上は出てこない。肯定も否定もしたくない。これが王妃の気持ちだ。これでは肯定していると同じなのだが、リオンを息子でないとは、王妃はどうしても口にしたくなかった。

「どうして教えてくれなかったのです?」

 王妃の態度で、アーノルド王太子はリオンが弟であるかを問うことを止めた。

「何の話だ? お前に話すことなどない」

 国王はあくまでも白を切るつもりだ。父としてではなく、国王としての立場を優先させている。国王のこの態度を批判する事は出来ない。
 王太子であるアーノルドは、その事を良く分かっている。自分も同じ立場になるのだ、こういった心得は学んでいた、だが。

「俺は……俺は弟の主を、弟の友を殺したのですか!?」

 今のアーノルドは王太子ではなく、息子として話していた。

「お前に弟など居ない!!」

 それでも国王は、リオンの事を認めようとしない。継承争いを恐れてだけではない。リオンを行方不明の王子と認める事は、王妃による、生まれたばかりの赤子を捨てたという残酷な所業も又、事実だと認める事になる。国王としてだけでなく、夫としても認めるわけにはいかないのだ。

「……分かりました」

 納得などしていない。だが、いくら話しても父親の口から事実が語られる事はないと、アーノルド王太子は分かった。母親に聞こうにも、あまりに辛そうな表情に、少なくとも今はこれ以上、聞く気にはなれない。
 アーノルド王太子は力ない足取りで、謁見の間を離れていった。

「噂が広まるのは防げませんな」

 アーノルド王太子の姿が見えなくなったところで、近衛騎士団長が口を開いた。

「分かっている。だが、最小限に抑えさせる。絶対に民衆の耳に入れてはならん」

 国民の間に広がっているリオンの絶大な人気と、それに比例するアーノルド王太子の悪評。この状況でリオンが王子であるなどと知られれば、どんな機運が盛り上がるか分かったものではない。それは国を治める者として、絶対に防がなくてはならない。

「どうやってですかな? 今、諜報部を指揮する者はおりません」

 裏に回っての情報統制は諜報部の仕事だ。そして今回の件は、表立っての緘口令など発せられない。それでは逆に事実であると知らせ、話を広めるだけだ。

「……すぐに後任の選定、など出来る訳がないか」

 諜報部長が魔人だった。そうなれば、組織全体の汚染を考えなければならない。新しい部長の選任どころではない。全員を取り調べるのが先だ。

「考えなければならない事は、フレイ子爵の件だけではありません」

「分かっている……主だった者を集めろ。魔人対策についての会議を行う」

「御意」

 諜報部の調査と立て直しだけではない。他の部署も疑ってかからなければならない。それどころか、これから会議に集める者の中にも魔人が居るかもしれないのだ。
 グランフラム王国は、これからしばらく身動きが取れなくなるだろう。メリカ王国も又、同じような事態にならなければ、どうなった事か。そういう意味では国王はリオンに感謝しなければならない。今はとても、それが出来る状態ではないが。
 物事が大きく動き始めている。この結末がどうなるか、今となってはゲームを知っているマリアにも見当はついていないだろう。ストーリーはもう、全く異なるものになってしまっているのだから。

 

◆◆◆

 謁見の間を飛び出したリオンは、そのまま城を出て、王都に出た。向かう先は宿舎ではない。何か考えた訳ではないが、自然に足がそこに向いていた。
 辿り着いた場所は処刑場。リオンにとっては、ヴィンセントの墓所だ。
 処刑台の階段を昇ったところで、その場に膝をつく。その時にはもう、リオンの目からは涙が零れ落ちていた。リオンもアーノルド王太子と同じ事を考えているのだ。
 ヴィンセントを殺したのは、自分の家族だったのかと。
 自分が王族である事などリオンは認めるつもりはない。本心から間違いであって欲しいと思っている。そうでなければ、自分の気持ちをどうにも整理出来そうになかった。
 ヴィンセントを殺された恨みは消えていない。これは間違いない事実だ。
 では、自分の兄であるかもしれない男を殺すことが出来るのか、と考えると胸が苦しくなる。兄だけではない。リオンは出来ることなら、ヴィンセントに冤罪を着せたグランフラム王国そのものを滅ぼしたいと思っていたのだ。自分の両親が治めるこの国を。
 それが出来るのか。国を滅ぼせるかではなく、その為の行動をこの先も続ける事が出来るのか、と考えた時に、以前のような強い決意が湧いてこなかった。
 もしかしたらエアリエルは知っていたのかもしれない。ふと、こんな考えがリオンの頭に浮かんだ。だから、復讐を捨てても良いなどと、言ったのではないかと。そうであったとしても黙っていた事を恨む気にはならない。自分を気遣っての事だとわかるからだ。エアリエルも又、この事実を知って悩んだに違いないと思えるからだ。
 エアリエルの事を考え始めて、リオンは少し気持ちが楽になった気がした。結局、自分が一番大切な人は、エアリエルである事に変わりはない。誰よりも優先すべきは、エアリエルなのだ。
 ゆっくりとその場から立ち上がるリオン。その瞳には少し力が戻っていた。処刑台を降りて出口に向かうと、そこには待っている者が居た。ソルだ。

「……何か用か?」

「それは……その……自分は、貴方に仕える事になっていました」

 躊躇いながらも、ソルは言いたいことを口にした。

「……そんな話は知らない。お前が仕える相手は第一王女だろ?」

「それは……どうして、そんな話になったのか分かりませんが、行方不明になった方は、貴方であって」

「何の話だ? 俺は貧民街育ちだ。両親が誰かなんて知らない」

「やっと見つけたのです! どうして、そんな事を言うのですか!?」

 リオンの態度に思わず、ソルは声を荒げてしまう。
 ソルにとって、リオンはずっと探し求めていた主だ。それがようやく見つかったというのに、こんな風に誤魔化されてはたまらない。

「仮に俺がその行方不明になった子供だとしても、お前に仕えてもらおうとは思わない」

「……どうして?」

「前に言ったはずだ。俺はウィンヒール侯家のヴィンセント様に仕えたのではなく、ヴィンセント様、その人に仕えたのだ。相手の肩書で主を選ぶような部下は要らない」

「……違う。そうじゃない。自分は」

 ソルの気持ちの中にはリオンに仕えたいという思いが生まれていた。だが、近衛騎士の立場ではそれは出来ない。仕えるはずだった王女を裏切るような気持ちにもなって、本心を言葉に出来ないでいた。
 だが、リオンが本人であれば、自分の思いのままに仕える事が出来る。今回の件をソルだけが心から喜んでいた。 

「とにかく。俺の家族はエアリエルだけだ。それ以外に家族なんて居ないし、必要もない」

 だが、リオンはソルの説明など聞く気がない。 

「ちょっと待ってくれ!」

 足を速めて、この場から去ろうとするリオンを、慌ててソルは引き止めるのだが。

「悪いけど一人にしてくれ。今は誰の相手もしたくない」

 リオンに、こう言われてしまっては、これ以上、引き止める事は出来なくなった。真実を知ったリオンが真っ先に、ヴィンセントが殺されたこの場所に来た意味を、ソルは分かっているのだ。
 だが、この事をソルは後に悔やむ事になる。
 処刑場を去ったリオンが宿舎に戻った事は、ソル以外にも多くの者が確認している。リオンに注目している者は、一人二人ではないのだ。だが、その多くの監視の中、リオンは見事に行方を眩ませてしまう。近衛騎士団長へ宛てた置き手紙だけを残して。

 

◆◆◆

 大会議室には、魔人討伐に関わる主だった者たちが集まっている。軍関係者だけではなく、宰相を筆頭とした文官も居る。元々は、別の会議をしていたところに、魔人討伐関係者が呼ばれたのだ。
 その理由は、国王の前に置いてある近衛騎士団長宛の手紙にある。リオンが書いたものだ。
 近衛騎士団長は、リオンからの手紙を封を切ることなく、会議の場で国王に差し出した。リオンが置き手紙を残した事は多くの者が知っている。リオンが王族であると知られた以上は、余計な疑いを持たれないように、という慎重な対応だ。
 国王は封を切って、内容を確認した。その上で、魔人討伐関係者を呼んだのであるから、魔人について書かれているのは間違いない。国王は中身を読み上げるような真似をしなかった。何が書いてあるかは、国王以外は誰も知らないのだ。

「揃ったな。では、まずは俺の口から説明しよう」

 全員が揃った事を確認して、国王が会議を始めようとする。

「少しお待ち下さい」

 だが、宰相がそれを止めた。

「どうした?」

「会議に参加する資格のない者たちが居ります」

「……構わん」

 宰相が誰の事を言っているのか国王は分かっている。その存在を分かっていて、会議を始めようとしていたのだ。

「これは重要な会議になるのではないですか?」

 国王の言葉にも宰相は引こうとしない。宰相の立場では、当然と言えるものだ。何といっても、その者たちは、カシスたちなのだから。

「魔人討伐に関わる者の招集と聞いた。彼らには資格がある」

 そのカシスたちをこの場に連れてきた張本人であるアーノルド王太子が、宰相の指摘に反論する。

「魔人討伐の関係者であっても、彼らは陪臣です。この場に参加する資格どころか、陛下にお目通りする資格もないのではないですか?」

 リオンの臣下であるカシスたちは、国王からみれば陪臣となる。あくまでもリオンを、ただの子爵として扱いたい宰相は、ある意味、カシスたちの参加を利用している。
 そして、アーノルド王太子は逆に、リオンの臣は直臣だという、無言の主張としてカシスたちを連れて来ていた。

「彼らは、俺がリオンから預かっている。つまり、今は俺の臣だ。それでも参加資格がないと宰相は言うのか?」

 さすがにリオンの臣は直臣だとはアーノルド王太子も言葉にはしない。その代わりに、こじつけと言われるような理由で、宰相に答えた。

「しかし……」

「アーノルド。彼らは知っているのか?」

 アーノルド王太子に一歩も引く様子も見えない事で、国王が話に割り込んできた。こんな事で時間を潰すのが無駄だという気持ちが国王にはある。

「リオンからの言付けがあったそうです」

「……それは何と?」

 いつの間に、という思いと、あのリオンなら、という二つの思いが国王の心の中に浮かんでいる。

「王都でどんな噂を聞いても、それに惑わされる事なく、自分たちの為すべき事を終えろ。これだけです」

「なるほど」

 これだけでは何とも判断が付かない。王族である事をリオン自身が認めるつもりがない、と受け取るべきなのだが、本当にそうなのかという疑いの気持ちもわずかに生まれる。リオンの能力を高く評価している分、国王には恐れも生まれているのだ。

「帰ろうとは思わんのか?」

 今度は近衛騎士団長だ。近衛騎士団の問いは、直接、カシスたちに向けられている。

「……ご領主様のご意向は、魔人討伐任務を全うする事だと理解しております」

 カシスが代表して、問いに答えた。

「ふむ。噂についてはもう聞いておるのか?」

「……聞いております」

「どう思った?」

 これを平気で聞くところが近衛騎士団長だ。無神経という事ではない。これを聞くことが、この件を治める近道だと考えての事だ。

「……リオン様が何者であろうと、我らは何も変わりません。初めから、何とも得体の知れない御方で、そうでありながら、我らはリオン様に惹かれたのですから」

 ご領主様ではなく、リオン様とカシスは言った。肩書など関係ないという事をはっきりと示す為だ。

「ふむ……」

 近衛騎士団長にとっては少し誤算だった。この先も自分たちの主で在り続ける事を望む、くらいの言葉を求めていたのだ。それはリオンがバンドゥ領主で在り続ける事に繋がる。だが、カシスは、そんな政治的な頭は回らない。自分の気持ちに真っ正直に答えてしまった。これでは、リオンが何事を起こそうとも、それに従うと聞こえてしまう。実際にそうなのだから、当然だ。

「もう良い。事は急を要するのだ、会議を始める」

 どうにも埒が明かないと、国王が強引に会議の開始を宣言した。実際に事は急を要する。今、それを知っているのは国王だけだ。

「フレイ子爵が魔人についての情報を伝えてきた。あくまでも推測に過ぎないが、これについて意見を聞きたい」

「それは?」

 リオンからの魔人についての情報を聞いて、会議の開始を渋っていた宰相が真っ先に反応した。魔人についての会議はすでに何度も行っている。だが一向にこれといった対応策が出てこないのだ。
 今はただ、地道に一人ずつ調べている。全員の調べが終わるのがいつになるかも分かっていない。国政が滞っているこの事態に最も不満を抱いている一人が、文官のトップである宰相なのだ。

「魔人の本拠地は王都近くにある可能性を言ってきている」

「何ですって!? そんな馬鹿な?」

「まあ、聞け。理由もいくつか書いてある。まず一つ目は、魔物の襲撃が国境付近に集中している事。これにより、我が国は中央を手薄にしてしまい、メリカ王国の侵攻を招いたのだが、本来は魔人がこれを狙っていたのではないかという事だ」

「魔人がそんな戦略をですか……」

「メリカ王国と戦いの中で、策略の類をしてみせた。戦いの中で、我らの裏を付くような戦術も見せている。これくらいの事はするのではないか?」

 これもリオンの手紙に書いてある事だ。それを自分の考えのように話すのは、国王の狡さでもあり、巧妙さでもある。全てがリオンの進言では、それに反発する者も出てくると考えているのだ。

「……確かに」

「二つ目。諜報部長であった魔人は、四天王と名乗る以上は、魔人の中でも高位なのだろう。諜報部長が自ら任務に就くのは余程の時だけで、ほとんど王都に居た。魔人どもも、我らと同じようにこうした会議を行っているとすれば、それは王都に近い場所であるはずだ」

「……転移魔法陣を使った可能性があります」

 さすがにグランフラム王国の宰相を任されるだけの者だ。すぐに推測の不備を指摘してきた。

「転移魔法陣には膨大な魔力を使う。それを同じ場所で何度も使う事は出来ない。場所をその都度変えていた可能性はあるが、それはひと目に付く可能性を高くする」

 リオンが転移魔法陣の可能性に気付かないはずがない。その上で、それはないと結論付けている。

「確かにそうです。それに転移魔法陣の捜索は王都でも何度か行っております。その調査では見つかっていない」

「王都の外で転移した可能性はあるのではないですか?」

 宰相は納得したが、王国騎士兵団の副団長が指摘してきた。騎士兵団長は未だに謹慎の身だ。しかも、辞任が決まっている。王国騎士団長の現在のトップはこの副団長になっている。

「王都を出入りした記録が残ります。頻繁にそれが行われれば、必ず、不審な行動として報告があがってくるはずで、それは諜報部長であっても例外ではありません」

「しかし、魔人は見事に王都から姿を消しました。諜報部長という立場であった事で、我らが知らない王都への出入り口を知っていたのではないですか?」

「それはありますね」

 副団長の指摘はもっともだ。そもそも相手は魔人なのだ。馬鹿正直に城門から出入りするとは思えない。

「それについては、別の可能性を示している。いや、王都に近いというのは同じか」

 そして、副団長の指摘も、リオンの想定の範囲内。本人が会議の場に居なくても、リオンの手紙が指摘の答えを語っている。

「どういう内容でしょう?」

「魔人の本拠地は地下にあるのではないかと書いてある」

「……地下? えっ? それはまさか王都の地下と言っているのですか?」

 魔人が消え失せた理由が、本拠地が地下にあるという推測に繋がるとなると、こういう事になる。

「そのまさかだ。王都の地下というか、繋がっているのではということだな」

「そう考える根拠は?」

「まず、魔物はどこに居るのかという疑問だな。何十万という魔物の存在が見つからないとなると、それは人の目に付かない所に居るとなる。国境付近の山や森はない。そうであるなら、転移魔法陣など必要ないはずだ」

「他には?」

 地下の可能性はある。だが、そうでない可能性もある。山や深い森は、国境付近にしかないわけではないのだ。

「王都の近くに廃城がある。そこで魔物に襲われた時、その魔物たちは突如、地下から現れたそうだ。だから本拠も地下だと言い切れないが、一度、きちんと調べてみるべきだと言っている」

「しまった……」

 アーノルド王太子たちも居た廃城のイベントは、カシスたち、バンドゥの者たちを除いて、この場に居る全員が知っている。当然、調査に人を送っている。だが、全ての魔物、アンデッドが砂に変わっている事を確認しただけで、調査は終わっている。
 何故、そのような不手際が起こったのか。それはそうでないとストーリー上、都合が悪いからだ。

「そして、最後の理由、というか、結論だな」

「結論ですか?」

「この推測が事実かどうかは、マリア・セオドールに聞けば分かる。魔人との最後の決戦がどこで行われるか、必ず知っていると書いてある。ああ、この期に及んで恍けるようなら、拷問にかけろともな」

「何と?」

「それでどうなのだ? マリア・セオドール、素直に話してもらえるか? 事は王国の危機だ。我らには、女性であろうと手段を選ぶ余裕はないのだ」

「……知ってます」

 国王の厳しい視線は、拷問が冗談では済まない事を物語っていた。その恐怖に抗えるようなマリアではない。マリアの証言でリオンの推測が事実である事が証明された。
 いよいよ、魔人との最終決戦、というわけにはすぐにはいかない。マリアの証言では、地上と地下の両方から王都を攻めてきた魔人を迎え撃つ事になっているのだ。
 こちらから攻め入るとなると、魔人に知られないように地下を探り、場所を突き止める必要がある。更に敵の戦力を探り、それと戦うのに必要な戦力を決め、ようやく行動を起こせる。決戦までにやることが山程あった。
 それでも魔人との戦いが終盤を迎えている事は間違いない。物語のエンディングはもう間もなくだ。