月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

異伝ブルーメンリッター戦記 #98 目指すものは同じ

異世界ファンタジー小説 異伝ブルーメンリッター戦記

 街頭に立ち仲間を募ってきたカロリーネ王女。その成果があって、ウッドストック以外にも共に行動しようとする仲間が現れた。彼等の目的はカロリーネ王女のそれと異なるので、仲間と表現するのは微妙だ。それに目的が異なるというだけでなく、その彼等はもともとは臣下でもある。

「だから、妾とお主等の目的は違う。そうである以上、共に行動する必要はない」

「その目的が誤っているのではありませんか? キルシュバオム公爵家から王国を取り戻すのであれば、まずラヴェンデル公国を仲間とするのが正しい策だと考えます」

 同行を拒否するカロリーネ王女に自分の考えを説明しているのは、ワルター元ローゼンガルテン王国騎士団副団長だ。キルシュバオム公爵による簒奪を認めず、出奔した騎士の中では最上位者となる。

「妾は正しいと思わない。ラヴェンデル公国と組んで確実に勝てるのか? その確信がなければ、そもそもラヴェンデル公国は味方にならん」

「戦いに絶対はありません。しかし、勝ち目は十分にあります」

 勝ち目があるというより、それ以外に勝つ方法がワルターには思い付かないのだ。

「そうであれば自分たちでラヴェンデル公を説得するのだな」

「戦うには旗印が必要です」

「では兄上を担げ。兄上はまだ健在だ」

「王子殿下はキルシュバオム公に捕らわれております」

「つまり、人質に取られておるのだ。妾に兄上を見捨てろというのか?」

 王国奪回に立ち上がれば、捕らわれのアルベルト王子はどうなるのか。すぐに殺されることはなくても、戦い続ければ、そうなる可能性は高くなる。

「……では、キルシュバオム公爵家に王国を自由にさせるおつもりですか?」

 ワルターはアルベルト王子の死を回避することを考えていない。そうでなければ王国は奪い返せない。

「別に自由にされても妾はかまわん」

「王女殿下!?」

「声が大きい。自分たちが逃亡中の身であることを忘れたか? ただでさえお主等は目立ちすぎるのに」

 体格の良い騎士たちが集まっていれば、いくら変装していても目立つ。キルシュバオム公爵家の追っ手の目を逃れるのは難しくなる。
 ただこれはカロリーネ王女が求める仲間が集まっても同じだが。

「王国を自由にされても良いなど、冗談でも言ってはなりません」

「冗談ではない。妾の一番の目的は魔人との戦いを終わらすこと。民に平和をもたらすこと。キルシュバオム公がそれを実現してくれるなら、国王にでもなんでもなれば良いと本気で思っておる」

「……では何の為に仲間を集めているのです」

 キルシュバオム公爵に全てを任せるつもりであれば、カロリーネ王女は仲間を集めて何をしようとしていたのか。それがワルターは分かっていない。

「キルシュバオム公では無理だと考えているからに決まっている」

「そうであればキルシュバオム公爵家を倒して、魔人との戦いを主導しなければなりません」

「妾だって無理だ」

「諦めてしまっては、何にも変わりません」

 なんとかカロリーネ王女を説得しようとするワルターだが、これは無理だ。彼女には確たる目的がある。やるべきことは決まっているのだ。

「諦めてはいない。妾はそれを実現出来る男に頼ろうとしているだけだ」

「……それは誰です?」

「ジークだ。お主も知っているだろう? ジグルス・クロニクス。妾がもっとも信頼する友だ」

「……彼、ですか……しかし、彼は……」

 ジグルスのことはワルターも知っている。父親と同様に魔人戦で活躍を期待していた存在で、実際にワルターが考えていた以上の活躍を見せていた。だが、そのジグルスは、リリエンベルク公国に行ったまま帰らぬ人になった、というのがワルターの認識だった。

「あの男がそう簡単にくたばるか。それに、少なくともリーゼロッテはまだ戦っているはずだ。リリエンベルク公国はわずかな軍勢で魔人と戦い続けているのだ」

「……それは確かなのですか?」

 リリエンベルク公国は滅亡した。その領地は今、魔人の物になっている、ということになっている。

「それを確かめに行こうとしているのだ。それをお主等が邪魔しようとするから」

「邪魔しなければリリエンベルク公国に向かえるのですか?」

「それは……」

 方法はまだ見つかっていない。正しくは、まだアルウィンに見つけてもらっていない。

「……分かりました」

「そうか。分かってくれたか」

「同行しないという意味ではありません。我々もリリエンベルク公国に向かいます」

「はっ?」

「彼であればという思いは私にもあります。もし彼が無事でいて、今も魔人と戦っているのなら、その手助けをします。これであれば同行のお許しは頂けますか?」

 ジグルスであれば。これは魔人との戦いが始まる前から、ワルターの心にあった思いだ。当時は父親と共にという条件付きのものであったが、すでにジグルスは彼一人でもワルターに信頼されるだけの実績をあげている。
 そのジグルスが生きて戦っているのであれば、共に戦いたいとワルターは思う。その先に王国奪回が実現する可能性も十分にあるのだ。

「……そういうことであれば。しかし、お主等は目立つのだ」

「我々だってここまでキルシュバオム公爵家の追っ手から逃げてきたのです。隠れ潜む方法は持っております」

 騎士たちもゾンネンブルーメ公国からラヴェンデル公国との領境に近いこの場所まで逃げてきたのだ。移動距離だけで比べれば、カロリーネ王女より上だ。

「そうか……」

「味方を募ることも続けましょう。集結地点を確保した上で、いくつかのグループに分かれて人を集めるようにすれば、効率も良いはずです」

「そうかもしれないが……」

 仲間を集めるという点では効率的だ。ただワルターは、カロリーネ王女が街頭で演説するのには、アルウィンに自分を見つけて貰うという目的もあることが分かっていない。

「まずは隠れ処、そして集結地ですか……これについては我々に任せて下さい。いくつか心当たりがありますので、皆で当たってみます」

「あ、ああ」

「よし。では手分けして拠点の確保だ。どこを当たるかは分かっているな?」

 これまでも隠れ処等については話し合ってきた。騎士たちは皆、どこに向かうべきかは分かっているのだ。

「次の集結地点はカスパだ。では、健闘を祈る」

「「「「はっ」」」」

 いくつかのグループに分かれて、この場から離れていく騎士たち。素早い行動は感心すべきことであるが、そのせいでカロリーネ王女は自分の考えを伝えるタイミングを失った。
 伝えたとしても彼等の行動は変わらないだろうが。ただアルウィンという商人を探すという目的が追加されるだけだ。

 

◆◆◆

 リリエンベルク公国は平穏な時を迎えている。あくまでも戦闘が行われていないというだけであり、それも一時的な状態であることは誰もが分かっている。中央から北部は未だに魔王軍の占領下にあるのだから。
 だがその魔王軍も占領地の民を殺すことは、よほどのことをしでかさない限りない。魔族が占領地に求めるのは食料供給地としての役割。その為の労働力である民を意味なく減らすわけにはいかないのだ。
 この停戦状態はリリエンベルク公国側にとって実にありがたいことだ。長く続いた戦闘で痛んだブラオリーリエの修復を行うことが出来るだけでなく、新兵を鍛える時間も与えられたのだ。

「……偵察の結果、すぐに敵が現れることはないという結論が出ました」

 もちろんブラオリーリエを守るリーゼロッテたちに油断はない。盛んに飛竜を飛ばすなどして魔王軍の動向を探り続けている。

「そう。それは良かったわ。求めていた時間が手に入ったわね?」

 フェリクスの報告を聞いて、リーゼロッテは安堵の表情を見せている。

「はい。新兵を鍛えるだけでなく、再訓練を行う予定でおります」

「再訓練? それはどのような目的で行うのかしら?」

 兵を鍛え直すことは悪いことではない。だがブラオリーリエの修復にはかなりの人手が必要だ。再訓練に時間を割く余裕があるとはリーゼロッテには思えない。

「防壁の内にこもっているだけでは敵を追い払えません。外に出て戦う力が必要です」

「……ブラオリーリエを守り切るだけでなく、攻勢に出ようと言うのね?」

 これまでの戦いはとにかくブラオリーリエを守り切るというもの。後方のグラスルーツを堅牢な城塞都市に造り替える時間を稼ぐ為だった。だがフェリクスが考えている再訓練は積極的に敵を討ち払う力を得ることを目的としている。

「はい。目指すのはシュバルツリーリエの奪回です」

 リリエンベルク公国の中心都市シュバルツリーリエを奪い返すこと。目標をそれに変えようとフェリクスは考えている。

「……成功すれば良い。でも危険性も高いわ」

 シュバルツリーリエを奪回するとなれば、今度はこちらが城攻めを行うことになる。リリエンベルク公国においてもっとも堅牢な城を。それはかなりのリスクが伴う試みだとリーゼロッテは思う。

「承知しております。ですから無理をすることは考えておりません。あくまでもそれを目指して鍛錬を行うということです」

「そうであれば問題ないわ。ただ拠点の修復作業を優先することは忘れないで」

 まずは守ること。その為の備えは十分にしておかなければならない。

「もちろんです。それと……偵察範囲を広げることの許可も頂きたいと思います」

「それも何の為かしら? 無理をさせては飛竜も偵察の騎士も失うことになるわ」

 空を飛ぶ飛竜も魔族相手では安全ではない。地上からの攻撃で撃ち落とされる危険があることをリーゼロッテは知っている。

「……東に送ろうと思っております」

 リーゼロッテの目的を問う質問にフェリクスは方角を答えた。これで十分なのだ。

「……危険がないとは言い切れないわ」

 東はブラオリーリエ攻めを行っていた魔王軍に戦いを挑んでいた軍勢が現れる方角。その軍勢が何者か、ジグルスの存在を確かめる為の偵察だ。
 だがそうであると分かれば尚更、リーゼロッテは否定的な答えを返すことになる。自分の個人的な問題の為に味方を危険に晒すわけにはいかないと思ってしまうのだ。

「相手の素性を知ることは、この先の戦いにおいて大切なことです。共闘出来るのであれば、シュバルツリーリエ奪還の可能性は一気に高まります」

 フェリクスはあえてジグルスの名を出さない。リーゼロッテに気を使っているだけでなく、自分自身もジグルスの生存に期待しすぎないようにしたいのだ。名前を出さないからといって期待が薄まるわけではないのだが。

「……絶対に無理はさせない。これを約束するのであれば許可します」

「分かりました。ありがとうございます」

 リーゼロッテの許可が出て、東方にも偵察が送られることになった。だがリーゼロッテたちの期待は残念ながら裏切られることになる。
 ジグルスはリーゼロッテに真実を知らせるつもりはない。ジグルスに偵察を迎え入れる意思がない以上は、アイネマンシャフト王国の周辺には、常に有翼族や鳥人族が飛び回っている状態だ。無理をしないリリエンベルク公国の偵察がそこに近づくことはない。
 ただ、その残念な報告を聞く前に、それ以上の衝撃をリーゼロッテは受けることになる。

「グラスルーツより急使が来ました!」

 その衝撃はグラスルーツからもたらされた。

「急使? 何かありましたか?」

「それが……いえ、直接、話をお聞き下さい」

「……分かったわ。すぐに通しなさい」

 急使から直接話を聞くように部下は言った。それを告げる部下の様子で、リーゼロッテは良い内容ではないと分かってしまった。
 扉を抜けて急使が入ってくる。リーゼロッテも良く知るリリエンベルク公国の重臣の一人、ゲラートだ。

「……お久しぶりでございます。リーゼロッテ様」

「そうね」

 リーゼロッテとゲラートが会うのは久しぶり。彼は使者としてブラオリーリエにやってくる立場にはないのだ。その彼がわざわざブラオリーリエに現れた意味をリーゼロッテは考えた。

「……何があったの?」

 だが特別な何かが起こったのだろうくらいしか分からない。

「お父上がローゼンガルテン王国の都に向かわれました」

「えっ……? どうして?」

 今、この状況でローゼンガルテン王国に行かなければならない理由がリーゼロッテには分からない。

「援軍を求めに」

「そんな、今更……」

 ローゼンガルテン王国は援軍を送るどころから領境を封鎖した。その意図は明らかで、リーゼロッテはもう援軍は来ないものだと思って、戦っている。

「ローゼンガルテン王国にて政変が起きたようです」

「政変?」

「国王が討たれ、今、王国の実権はキルシュバオム公が握っております」

「何ですって……?」

 驚きの事実。何故そのような事態になったのかリーゼロッテにはまったく分からない。

「キルシュバオム公であれば援軍を送ってくれるかもしれない。そうお考えになられての行動です」

「そう……交渉が上手く行けば良いわね?」

 ゲラートの説明にリーゼロッテは納得した。決断者が変われば、結果も変わる可能性がある。交渉することには意味がある。

「はい。ただ、マクシミリアン様が二ヶ月経っても戻らない時は殺されたものとして扱えとのことです」

「えっ?」

「もともと王家とキルシュバオム公爵家の間には密約があった可能性があります。キルシュバオム公爵家もまた当家の敵である可能性が」

「それが分かっていて……どうして、父上は自ら王都に向かったのです!?」

 何故自ら危地に飛び込むような真似をするのか。父親の身を案じる気持ちと、この大事な時期にという思いがリーゼロッテの声を大きくした。

「当家はもう敵味方の判断を誤るわけにはいかない。そう申されておりました」

「……だからといって」

 当主であるマクシミリアンが行く必要はない。当然の思いだ。

「誰が敵で誰が味方か。それを公国の民に知らしめる必要があるとも」

「……分からないわ。父上は何を考えているの?」

「私にも分かりません。ただ、いずれ分かる時が来るそうです。その時はリーゼロッテ様の判断に従えと命じられております」

「私の? 兄上ではなくて?」

 父であるマクシミリアンに万一のことがあれば、テーリング家の当主は兄であるヨアヒムだ。判断はヨアヒムが行うべきだとリーゼロッテは思う。

「万一の時、テーリング家をお継ぎになるのはヨアヒム様です。ただ味方とする者の判断はリーゼロッテ様が行わなければならないと仰いました」

「……父上は他に何か言っていましたか?」

 ようやくリーゼロッテは父親が何を考えているのか分かってきた。

「……幸せになれと」

「…………」

 リーゼロッテの瞳から涙がこぼれ落ちる。父が残した「幸せになれ」の言葉を、死を覚悟しての遺言だと受け取ったのだ。
 キルシュバオム公爵家は敵。マクシミリアンは自らの身を犠牲にしても、それを公国の民に知らしめようとしているのだ。いずれ現れる真の味方の存在を民が受け入れやすいように。