月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

逢魔が時に龍が舞う #20 分析

異世界ファンタジー小説 逢魔が時に龍が舞う

 天宮から甘さを指摘された尊への尋問だが、実際にそれで終わるはずがない。
 相手に肉体的、精神的苦痛を与えて真実を追究するという手段は、前時代的なものだ。今の時代にそれを行えば、絶対に弾三者に知られない状況であれば別だが、かなりの確率で職を失う。
 それを恐れた国家権力は、そういう危険を冒さなくても、真実に辿り着く方法を研究した。残念ながら現時点では、証拠として採用されるまでの価値は認められていないが。

「脳波分析の結果、細かい部分を除いて、彼は嘘をついておりません」

 分析結果を報告しているのは、情報部の職員。

「その細かい部分が大切なのではないのか?」

 職員の報告に対して、上司である情報部長が文句を言ってくる。事前に報告を受けていれば、このような指摘をすることにはならないのだが、今回はそれが出来なかったのだ。同席している公安調査庁の邪魔によって。

「はい。ですが今回の場合は、その細かい部分における反応は沈黙だけです」

「どういう意味だ?」

「彼は答えに困るような質問を受けた際、何も言いません。言いませんでは嘘になりますか。『秘密』という言葉を用いることが多いが正確です」

「話さないから、嘘はついていない……下らん。こんなことしか分からない研究に、どれだけの金をつぎ込んでいるのだ?」

 第三者に知られない状況を作る権限を持つ情報部長は、このような手法を認めていないのだ。

「……過去に嘘をついていることは分かりました」

 少しムッとして言葉を返す職員。上司であっても、上司だからこそ自分の仕事を否定されたことに腹を立てているのだ。それを表に出すことが正しいかは関係なく。

「それはなんだ?」

「記憶を失っているは嘘です」

 嘘であると断言する職員。実際にそうであるので問題はないのだが、職員がそうしたのはただの意地だ。

「そう考える根拠は?」

「立花防衛技官が行った過去に関する問いに対して、彼は答えを返すべきか考えています。記憶がなければ考える必要はありません」

「……記憶がある時期についての問いではないのか?」

 他部署がいる会議の場で、部下の見解を上司である情報部長が否定するのはおかしな展開なのだが、事前のレビューがなかったので、それを行っているような気持ちになっているのだ。

「彼が言う記憶がある時点で、すでに彼と妹は今の力を身につけているのではないですか?」

「……そうだな」

「ただこれは詳細に分析しなくても分かることです。問題は彼が何故、記憶があることを隠したか」

 情報部長を納得させたところで職員は、今話した内容がそれほど重要なことではないと話し、別件の説明を始めようとしている。まず間違いなく情報部では、彼は出世しないだろう。

「……都合が悪いからに決まっている」

 また情報部長は否定的な発言を始めた。職員のやり方に腹を立てているのだ。

「彼にとって何が都合が悪いかまで分かったのですか?」

 上司と部下の喧嘩で話が進まなくなっては困る、と思って葛城陸将補が割り込んできた。

「特定までは……かなり隠し事が多いようですので」

「そうですね。では分かったのは?」

「重要なのは彼が何故、隠そうとしているかです」

 情報部長に文句を言った部分を、また職員は口にした。彼にとっては、これこそが重要なのだ。

「何故ですか?」

 葛城陸将補にとっても多いに興味を引く部分だ。尊が事実を隠そうとしている動機。それが様々な秘密を解き明かすことになると考えているのだ。

「彼が口にした『大勢の人』と『驚く』。この二つの主語は同じだと考えています」

「……それは」

「もう一度、録音を流します」

 会議室に尋問の時のやり取りが流れる。立花分隊指揮官の「誰の為に秘密を守っているか」の問いに尊は「大勢の人」と答え、「それを知ると自分たちはどうなる」に「驚く」と答えた。この二つの答えの主語が同じということは。

「古志乃くんは、我々の為に秘密を守っている? そういうことですか?」

「はい。注目すべき言葉は『為に』です。『誰の為に』という問いに対しては、漠然としていますが答えを。そのあとの『誰が口止めをしている』には沈黙。答えが違うのだと判断しています」

「そうですか……」

 こういう分析結果を聞くのは初めてなので少し感心した葛城陸将補だが、だから何という思いもある。

「本題はここからです。彼は我々を何から守る為に、話さないのでしょうか?」

 葛城陸将補の反応をみて、職員は話はこれからだと言ってきた。実際に話をしたいことは、まだ話せていない。

「それが何か分かったのですか?」

「……残念ながら。さすがに情報が少なすぎます」

「そうですか」

「ただ注目すべき言葉はあります。『僕は預言者ではない』という言葉。『預言』という言葉を使うほどの大事と考えるべきでしょう」

 話したかったのはこれ。具体的なことは分かっていなくても、大変なことが起こる可能性があることは分析の結果、分かっている。

「……たとえば震災のような?」

「はい。『大勢の人』の大勢は、そういうことである可能性があります。問いは『それを知るとどうなる』ではなく、『そうなるとどうなる』であって欲しかったです。いや、それだと沈黙の可能性が高いですか」

「そうですか……」

 予想はしていた。だが職員の言うような大事が起こるとしても、それを止める力は葛城陸将補にはない。

「分かったような分からないよう。はっきりしているのは古志乃尊に対する監視を強化するべきということだな」

 情報部長が結論を出そうとしている。これは意識してのことだ。

「……彼が言った『斑尾所長には気をつけて』についてはどうされるのですか? 彼は嘘をついていません」

 それを職員は許さなかった。大変なことが起きる。そしてそれに斑尾所長が絡んでいる可能性があるのだ。そして情報部長が話を終わらせようとしたのは、これが分かっているから。

「……もともと要注意人物だ。担当者に気合いを入れて仕事をするように言っておこう」

 特別なことを行うつもりはない。情報部長はそう言っている。止める力がないのは、葛城陸将補だけではない。この会議に参加している全員がそうなのだ。
 そういう意味では分析結果を報告した職員は報われない。仕方がない。彼に求められていたのは、危機感を煽ることではなく、精霊エネルギー研究がより発展する為の情報だったのだから。

 

◇◇◇

 旧都トキオも北西部は震災の被害が少なく、町並みは以前とそれほど変わっていない。それでも官公庁はもちろん、多くの企業が旧都心から新都心に移転した結果、それとともに引っ越した人はかなり多く、住む人の数はかなり減っている。働き口も遊ぶ場所もなくなってしまっては、新たに移住してくる人もほとんどいないのだ。
 建物の数は変わらないのに、人だけがいなくなったという状態は、湾岸地区とはまた異なる寂しさを感じさせる。それがさらに人を遠ざけることになる。それが都合の良い人は別にして。 
 一面ガラス張りのマンションの窓から眺める景色。かつてに比べれば光はかなり減っているが、それでも全くなくなったわけではない。治安の都合もあって、ある程度の灯りは確保されているのだ。

「……あっ……あん……あん」

 その窓のガラスに両手を付き、あえぎ声をあげている女性。

「景色見てるか? 良く見えるようにしてやってるんだから、ちゃんと見ろよ」

 その女性を、わざと大きな音がするように、後ろから激しく責め立てている男。

「その女は見るよりも、見られるほうが好きなんだろ?」

 その二人の様子をソファに寝転がって見ていた男が声をあげる。その男の足の間には、また別の裸の女性。男の下半身を口にくわえて、頭を上下に動かしている。

「じゃあ、もっと見てもらうか。ほら、動け」
 
 女性を窓から引き離し、四つん這いにして移動させようとする男。向かう先はソファだ。

「お前……なんだよそれ。みっともねえな」

 女性と繋がったまま、移動しようとしている男。女性を辱めて喜んでいるつもりなのだが、端から見ていると、男のほうもかなり無様だ。 

「うるせえ。ほら、さっさと歩けよ」

 仲間にからかわれて不機嫌になった男は、その怒りを女性にぶつけようとする。

「……ほんと格好悪い。なにそれ? 気持ち悪いから消えてくれる?」

 その男に向かって、女性の声で罵声が飛んだ。

「えっ?」

 不意に聞こえてきた女性の声に驚く男。この部屋にいる女性は二人。だが声はその二人から発せられたものではない。

「消えるのが無理なら、せめて服着てくれる?」

 入り口の扉の前に立っていたのはショートカットの小柄な女の子。もともと大きな瞳を、わざと細めて、男を睨んでいる。

「……ミズキ」

 現れた女の子は顔見知り。組織の仲間の華原《かはら》水樹《みずき》だ。

「はあ? 馴れ馴れしく呼ばないでよ。あんたら見たいな気持ちの悪い男と、友達になった覚えはないの」

 ただミズキのほうは仲間だと思っていないが。

「……何の用だ?」

 抱えていた女性を離して、床に転がっていたパンツをはく男。大人しくミズキの言うとおり、にしているのではない。

「命令を伝えにきた」

「ふうん。それはご苦労だったな。冷たい飲み物でも飲むか?」

「そうね。眠り薬とか入っていなければ、飲んであげても良いわ」

「…………」

 ミズキの言葉に動揺している男。

「うわっ。図星ってやつ? いつもそういう手を使ってるの? キモッ!」

「てめえ、調子に乗ってるとやっちまうぞ!」

 もう一人の男がソファから立ち上がり、怒鳴り声をあげる。二対一であれば勝てる。そう思っているのだ。

「きゃあ、助けて! ド○エモン!」

 わざとらしい叫び声をあげるミズキ。それに応えて出てきたのは。

「お前、それ大丈夫か?」

 小柄なミズキが背伸びしても肩までしか届かない大柄な男。

「えっ? ドザエモンって問題?」

「……問題だな。俺はドザエモンじゃない。土門《どもん》だからな」

 彼の名は|土門《どもん》龍平《りゅうへい》。ミズキが仲間と認める組織の一員だ。

「あっ、そう。助けて、ドモン」

「……助けがいるのか?」

 この問いはミズキに向けたものではない。現れたドモンに動揺している男たちに向けてのものだ。

「……い、いや。俺たちは別に何もしてない」

 ドモン相手では二人がかりでも勝てない。男たちは一気に大人しくなった。

「それが良い。作戦の前に怪我をしては困るからな」

「……その作戦って?」

「誘拐だ。良かったな。どうやら、お前たちは得意そうだ」

 部屋にいる二人の女性。自ら望んでこの部屋にいるのではないとドモンは考えている。正解だ。

「……相手は?」

「それはこの場では話せない。俺は無駄な殺生は嫌いだ」

 話を聞かれれば、二人の女性は殺さなければならない。それをドモンは嫌がった。女性を解放させようという思惑もある。

「分かった。集合場所は?」

「CC-1」

「えっ?」

 CCのCはセントラルのC。旧都心の中央にあるアジトという意味だ。その場所を使うことはまずない。旧都心の中央には軍の施設がある。彼等にとって危険な場所だ。

「すぐに集合だ。少し面倒な作戦らしいからな」

「……分かった。すぐに準備する」

 かなり危険な任務だと理解したからには、攫ってきた女性を気にしている場合ではない。気持ちを引き締めて、男たちは出発の準備を始めた。

「ミコトに会えるかな?」

 その二人に聞こえないように、小声でドモンに尋ねるミズキ。

「……今回はないはず。会ったら作戦は失敗だ」

「そっか……複雑」