月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

悪役令嬢に恋をして 第41話 重なる想い、異なる行動

異世界ファンタジー小説 悪役令嬢に恋をして

 カマークに戻ったリオンは忙しく働いていた。魔物への対処は急がなければ、全てが終わってしまう事態になる。それが分かっているリオンは、緊急課題として、考え得る全ての対策を推し進めようとしていた。そして、それで終わらないのがリオンだ。
 魔物の件があろうと、復興に向けての施策は止める事はしない。リオンの部下たちは、そして食客として働いている元学院生たちは、リオンに仕える事の大変さを、更に思い知る事になった。城内は、慌ただしく駆けまわる者たちで、ある意味、活気に満ちていた。
 そんな状況の中、バンドゥ六党の残りの二人、白の党のルジェ・ヴァイス、黒の党のブラヴォド・シュヴァルツが城に現れた。ルジェ・ヴァイスは、カマークでリオンが出会う初めての女性の部下だった。

「侍女頭?」

「ええ。城内の侍女の取りまとめ役を任されています」

「侍女なんていないだろ?」

 カマークの城内には侍女はいない。元々居た侍女たちは、侍女という名目で、役人が側に置いていた愛人がほとんど。役人が引き上げたと同時に居なくなっていた。

「新しい侍女をお城に入れようと思っています」

「要らないな」

「えっ?」

「侍女は必要ない。だから侍女頭も不要」

 こう言い切ると、リオンは又、机に積まれている書類に視線を戻した。もうこの件で話すことは無いという意思表示だが、これで終わられては、ルジェは堪らない。

「……あの、奥方様のお世話もありますので」

「エアリエルは今、自分で何でも出来るように練習している。それが面白いらしい」

「しかし、全くいないと言うのはどうでしょう?」

「金が勿体無い。今は金が出て行く一方だ。無駄な出費は抑えなければならない」

「……侍女が仕事を失います」

「居ないだろ?」

「ご領主様がいらっしゃるという事で、侍女に相応しい者を探してきております。その者たちに、やはり不要だとは……」

「……それはお前の責任だろ?」

「はい。ですが、彼女たちの気持ちを考えると……家族の期待もありますし……」

 ルジェは伏し目がちに、憂いを帯びた表情を見せている。いわゆる泣き落としというものだ。

「……分かった。エアリエルに聞いてみる」

 それが分かっていても、連れてこられた者たちの事を考えると、リオンは冷たくしきれなかった。仕事を得て、涙を流して喜ぶ貧民街の住人の様子をリオンは何度も見ている。そして、選ばれなかった者の悲しむ姿も。

「ありがとうございます」

 なんとか押し切る事が出来て、リジュは満足そうだ。

「ずっと、どこで何をしていた?」

 ここで、急にリオンがこれまでの話とは関係ない問いを投げかけてきた。

「ですから侍女を探していました」

 それにリジュは答えたのだが。

「お前じゃなくて、もう一人の方。お前が何をしていたかは聞いている」

「……はい」

 リオンの言い方に、わすかにリジュは不審を覚えた。聞いている、の相手が、自分であるようには思えなかったのだ。
 そして実際にリオンが聞いた相手はリジュではなかった。

「ああ、侍女は検討するとして侍女頭は不要だ。必要だとしてもお前ではない」

「……何故ですか?」

「この街にフォルスという商人が居る。お前の職場はそのフォルスがやっている娼館だ」

「何ですって!?」

 いきなり娼婦になれと言われて、怒気を表すリジュだったが、これはリオンに対する油断からだ。リオンが何の考えもなく、このような事を言い出すはずがない。

「フォルスの娼館は、王都の娼館の支店だ。お前、王都で雇われただろ? その契約はまだ残っている」

「……どうして?」

 リオンの言葉を聞いたリジュの顔色が一気に真っ青に変わった。まさか、リオンの口からこの話を聞かされる事になるとは、全く思っていなかったのだ。

「人のことを色々と探っていたみたいだな。しかも娼婦として潜り込むなんて事までしている。お前、間者か、何かか?」

「…………」

 リジュたちの正体はリオンに完全にバレている。諜報の仕事にたずさわる者として、有ってはならない失態だ。

「だとしたら、随分と未熟な技だ。大方、貧民街の悪党程度と、舐めていたのだろうけどな」

 情報の秘匿、これはリオンが組織に徹底させている事だ。その為の対応も色々と考えてある。それにリジュはまんまと引っ掛かった。リオンの言う通り、甘く見ていたのだ。

「自分の事を探ろうなんて者を近くに置くはずがない。二度と俺の前に顔を出すな。男の方もだ。顔は割れていないが、男の間者も居たと聞いた。お前の事だろ?」

「…………」

 ブラヴォドの答えはない。リオンも答えは求めていない。認めようと認めまいと、結論を変えるつもりはリオンにはない。それを示すつもりで、話題を別の事に変えてきた。

「カシス、馬が必要だ」

「……馬、ですか」

「そうだ。ここと各村や耕作地、国境近くに設ける兵の駐屯地の間の伝令の為だ。魔物が現れた時にすぐに対応出来るように、他にも色々と。とにかく情報伝達の時間を少しでも短くしたい」

 騎馬による伝令は、当たり前に行われている事だが、リオンは領地全体に網の目のように張り巡らせようとしている。それ専門の部隊も作るつもりだ。

「……難しいと思います」

「領内に馬は居ないのか?」

「全くとは言いませんが、数を揃えるのは……」

「そうか……では、他から仕入れるしかないな。馬に乗れる兵士はどれくらい居る?」

「……多くはありません」

「この地では騎馬による戦いは一般的ではないのか?」

「はい」

「……そうか。じゃあ、仕方がない」

 カシスへ向けていたリオンの視線が、ジャンに移った。

「放牧地の候補については、二箇所に絞り込んだ。人員の目処は付いているので、二箇所で同時に始める事も可能だ。馬が手に入ればの話だがな」

 ジャンの口から、スラスラと馬の放牧地についての説明が為される。少し前から進めていた酪農業についての施策の一つだ。初めからカシスを当てにしていなかった事が、これで明らかになった。

「具体的な予算の算出を。仕入れ先については、こちらで当たっておく」

「馬であれば!」

「ん?」

 声をあげたのは青の党のキールだった。余程の用件がない限り、カシス以外が発言をする事は珍しい。周りの者たちも少し驚いた表情をしている。

「多くを揃えられるか分かりませんが、心当たりがあります」

「……そうか。じゃあ、当たってみてくれ」

「はっ」

「ついでに馬に乗れる兵士も。最低でも一人は、それなりの技量を持つ者にして欲しい。理由は、俺が習いたいからだ」

「はっ。適任者を揃えます」

 やれるという者には任せてみる。貧民街の時から、リオンのやり方はこうだ。貧民街で皆に高い能力を求めても、それは無理というものだ。そうなると、やる気が重要になってくる。

「ジャン。放牧地の件はこのまま進める。育てるのは馬だけではないからな」

「ああ。分かっている」

「馬の件はこれで。騎馬なしでも警備の強化は進めなくてはならない。領軍を幾つかに分けて、各村への駐屯を。あと、街道の警備も」

 リオンの視線は、今度は初めからキールに向いていた。

「承知しました。しかし、領軍の兵士の数を考えますと、どこまで広げられるか疑問です」

「分かってる。カマークの守りを捨てろ」

「はい?」

「前回程度の魔物であれば、この場に居る面子で何とかなるだろ? 城を落とされるくらいの魔物が出てきたら、その時は逃げれば良い。逃げるにも、少人数の方が混乱はない」

「……城を捨てて逃げるのですか?」

「城は何も産んでくれない。守るのは建物ではなく、そこに居る人だ」

「……はい」

 武人であるキールには、城を捨てるというリオンの発想は少し抵抗がある。だが、守るべきは建物ではなく人、という言葉は間違いなく正しい考えであると分かった。

「という事で、万一の時の避難計画も。幸いにもこの領地には逃げこむ砦がいくつもある。城を落とされた場合の集結地点も予め決めておこう」

「はっ。承知しました」

 これでもう、キールは対魔物全般の責任者という事になる。特に定めなくてもリオンの気持ちの中では、そうなっているのだ。
 この後も、色々な施策で、状況を確認しながら、細かな指示をリオンは出していく。当然、その相手にはキールも含まれていた。

 

◆◆◆

 城での執務が終わった後でバンドゥ党の面々が、こうして集まるのは何度目だろうか。ただ今日はこれまでとは少し違う。今までは参加していなかった、ルジェとブラヴォドの二人も同席をしている。
 当然、話題はこの二人の事から始まる事になった。

「大失態だな」

 カシスは忌々しげに、ルジェとブラヴォドの二人に向かって、こう告げた。リオンの情報を探りに行っていたのがバレた事を言っているのだ。

「ごめんなさいね」

 悪びれない様子でルジェが言葉だけは謝罪を口にした。

「謝って済む問題ではない。これでますますフレイ男爵は我らに不信感を持った。いざ本気で仕えようと思っても、これでは受け入れてもらえない」

「……それ私達だけの責任かしら?」

「何だと?」

「キールがどうして口を挟んだのか、まさか分かっていないの?」

「それはキールが抜け駆けを」

 つまり、分かっていないという事だ。これには、それを行ったキールが呆れてしまった。

「カシス殿。私は抜け駆けなどしたつもりはない」

「では、どうして馬の話を受け入れた? 我らが山中で多くの馬を養っている事は、守るべき秘密の一つではないか?」

「秘密というのは、それが知られていないから秘密というのではないか?」

「何?」

「あのご領主様が、この地の事を調べていないとでも? バンドゥ党がどういう戦いを行うか知っていれば、カシス殿の言葉が嘘であることはすぐに分かる」

「それは……」

 バンドゥ党の強さは、カシスがリオンに向かって否定した騎馬戦にある。騎馬の機動力、突進力を利用した戦い方で、王国を翻弄したのだ。
 当時の戦いの情報をリオンが知っていれば、カシスが嘘を言っているのは分かっていたはずだ。
 もちろん、当時程の力はバンドゥ党にはない。それでも、いつかの独立を夢見て、バンドゥ党は王国にその力を隠してきた。白の党と黒の党という間者集団の存在も隠してきた事の一つだ。

「それに仮に調べていなくても、情報は間違いなく入っている」

「何故、そう思う?」

「放牧地で働く馬飼いはどこで雇ったのでしょう? 私はバンドゥの地で生まれ育った元盗賊あたりだと考えています」

「……仲間が裏切ったというのか?」

 信じられないという表情でこれを口にしたカシスだが、それを聞いたキールも又、似たような表情をカシスに見せている。

「仲間、それを言う資格が私たちにあるのでしょうか? 困窮した彼らに私たちは何もしてやらなかった。一方でご領主様は、盗賊に堕ちた彼らを引き上げ、元の、それよりも良い暮らしを与えようとしている」

「それはそうかもしれないが。事に当たるにおいて、一致団結がバンドゥの地に住む者たちの守るべき約束ではないか」

「敵に対しては、です。ご領主様は敵ですか?」

「それは……」

 この結論が出ないから、彼らは悩んでいるのだ。これまで代々隠してきた力をリオンに知らせて良いのか。それを知ったリオンがどう出るかが分からない。

「判断するのに情報が足りなければ、まずは報告を聞きましょう」

 キール自身の気持ちはかなり固まっているのだが、一致団結を崩すつもりはない。そして全員が納得して、リオンに仕えると決めるには、リオンを知る事が必要だと考えていた。

「そうだな。では、ルジェ。報告を頼む」

「やっと本題ね。待ちくたびれたわ」

 話題を遠回りさせた一因はルジェたちにもあるのだが、そんな事はもう忘れたかのような態度だ。

「いいから話せ」

「ええ。話すわよ。まずは素性からね。リオン・フレイ男爵は元ウィンヒール侯爵家の従者よ。そして奥さんは、ウィンヒール侯家のご令嬢で、しかも王太子の元婚約者」

「何だと? つまり、侯家の回し者か?」

 王国を支える三侯家の関係者となれば、独立を目指すバンドゥ党にとって明確な敵となる。そう考えたカシスだったが、早とちりもいいところだ。

「結論早すぎ。まだ何も話してないわよ」

「違うと?」

「とにかく続きを聞いて。フレイ男爵が仕えていたのは嫡子であったヴィンセント・ウッドヴィル。奥さんのお兄さんね。そのお兄さんは、国家反逆罪で処刑されたわ」

「なっ!?」

 バンドゥは王国の辺境。そうでなくても、ヴィンセントの話は、あまり広まって欲しくない王国によって情報統制が行われている。それでも人伝いに噂は広まっているのだが、バンドゥは他領との交流がほとんどない為に、全く伝わってきていなかった。

「ちなみに奥さんも罪に問われて奴隷にされたらしいわね。でも、何故か男爵夫人としてここに居る。侯爵家から男爵家だから相当な格落ちだけど、それでも奴隷とは大違いよ」

「罪を許してもらう為に取引を?」

 このような事実はないが、あり得ない話ではない。事情が分からなければ、カシスのように考えてもおかしくはない。

「可能性はある。でもね……」

「何かあるのか?」

「フレイ男爵の事は自分で調べても、どうにも信じられないの。それくらいに奇想天外なのよね」

 こう考えているのはリジュだけではない。隣のブラヴォドも頷く事でリジュの言葉への肯定を示していた。

「……とにかく聞こう」

「そうね。まずはこれから。仕えていたヴィンセント・ウッドヴィルが処刑となる当日。フレイ男爵はたった一人で処刑場に乗り込んで助けようとしたそうよ」

「……そうか」

「あれ? 驚かないの?」

 カシスの反応はリジュの思っていたものではなかった。王都に行っていたリジュは、リオンがカシスたちに見せた力を知らないのだ。

「驚きだが、それくらいの事をやる力はあると思う。魔法に限定してだがな」

「もしかして、何かしたの?」

「ああ。盗賊が篭っていた砦の防御柵を一撃で吹っ飛ばした。魔物との戦いでは、複数の属性魔法をほぼ無詠唱で使ったそうだ」

「……やっぱり」

「知っていたのか?」

「処刑場でもやらかしたそうよ。人の背丈の三倍はある柵を飛び越えて、処刑場に侵入。討とうとした警備の騎士たちはロクに近づく事も出来ないままに、目的の人物との接近を許した。それから……」

 それからリジュは、王都で話に聞いた処刑場での出来事を、順を追ってカシスたちに報告した。ヴィンセントとのやり取り、攻撃してきた魔法をことごとく受けきってみせた事。最後は近衛騎士団長が自ら動いた事で捕らえられたのだが、国王の温情で命は助かった事。
 そして、市井には実はヴィンセントは無実で、悲劇の公子の物語として、吟遊詩人の歌にまでなっている事。
 聞き終わった後も、しばらくカシスたちは無言で考えにふけっていた。リオンとヴィンセントの話は、リジュが言った奇想天外というよりは、胸を打つ話だった。
 命を賭して主人を助けようとした忠義の臣。とても今のリオンからは想像出来ない姿が、リジュの話の中にあった。

「……結局どうなのだ?」

 ようやく問いかけてきたカシスにリジュは。

「それは私には判断出来ないわ。間違いなくフレイ男爵は王国を恨んでいる。でも、そんなフレイ男爵をどうして王国は男爵にしたのか? フレイ男爵はもともと王都貧民街の出身よ。あり得ないわ」

「やはり取引はあったという事か」

「取引をしたからといって、恨みが消えるわけではない。膝を屈しておいて、時期を待っているのかもしれない」

 これはバンドゥ党の面々も同じだ。同じではあるが、間違いなくリオンの想いのほうが強い。リオンが直接、深い恨みを抱く経験をしたのに対し、バンドゥ党の面々は数代前の恨みを引きずっているに過ぎないのだから。
 結局、リジュの報告を聞いても、カシスたちは結論を出すことが出来なかった。あくまでもバンドゥ六党としての結論は。ある者はすでにリオンへ忠誠を向ける事を決めている。
 バンドゥ六党は、一致団結は叶えられず、それぞれが思う道に進むことになる。

 

◆◆◆

 バンドゥ六党の面々が頭を悩ませている頃、リオンはエアリエルと二人きりの時間を楽しんでいた。寝室のベッドに横たわるエアリエルの、透き通るような白い背中を、リオンが愛おしそうに撫でている。

「くすぐったいわ」

「あっ、ごめん」

「嘘よ。続けて、リオンにこうされていると、とても落ち着くわ」

「俺も。エアリエルの綺麗な体を見ていると、とても安心する」

「……そこはドキドキするじゃなくて?」

「そうか。でも落ち着くのも本当だ」

 あれほど嫌いだった女性の裸、行為の時の悶える姿なのだが、エアリエルだと、リオンの心にそんな気持ちは微塵も湧いてこない。結局は自分の気持ちの問題とリオンは知った。当たり前の事だ。

「今日はどうだったの?」

「相変わらずだな。こっちが隠すことなく色々と見せているのに、嘘ばかり」

「そんなに彼らは秘密を持っているの?」

「王国に対する叛心は隠す必要があるけど、それ以上はどうだろう?」

 詳細までは掴んでいないが、それほどの事ではないのではないかと、リオンは考えている。今の王国は、たかが辺境の豪族の力では、全く揺らぐことはないはず。バンドゥ党が隠しているのは、その程度のものだ。

「抱いている気持ちは同じなのに、なかなか味方になれないわね?」

 リオンたちはもっと力がない。同じ叛意を持つ者として、普通は力を合わせるべきだが、リオンはそう考えていない。

「別に構わない。優れた敵よりも愚かな味方のほうが危険だから」

「それも異世界の知識?」

「多分そうかな? 何で読んだのか覚えていないような知識だ」

「そう」

「大きな力を手に入れるよりも、今は隙を見せない事。大きな変化を起こす時はまだ先だ」

 世界の流れを大きく変えようとすれば、必ず世界に潰される。同じ失敗を繰り返さない為に、今はじっと堪えて、密やかに動く時とリオンは決めている。

「魔人は動き出したわ」

「動き始めたばかり。復活までには、まだ間がある。焦る必要はない」

「でも……」

 倒す相手を考えれば、いくら準備期間があっても足りない。リオンに言われても、エアリエルは、やはり焦らないではいられない。

「失敗はもう出来ない。もう大切な人を失いたくない」

「……私より先に死ぬのは許さないわ」

「エアリエルを死なすことは許さないと奥方様に言われている」

「だから死ぬ時は一緒よ」

「ああ」

 二人が望むのは、与えられた生を楽しむ事ではなく、復讐の為に命を捨てる事。
 リオンは世界に抗うことを諦めたわけではない。本気で世界に勝とうと決心し、その為に全てを捨てようとしているのだ。