月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

異伝ブルーメンリッター戦記 #24 物語はどこに向かっているのか

異世界ファンタジー小説 異伝ブルーメンリッター戦記

 ジグルスは忙しい。合宿に向けた準備、その計画部分はほぼジグルス一人で行っているのだ。
 他の生徒たちがサボっているというわけではない。彼等には彼等でやることがある。個人として、今よりももっと強くなること。部隊として連携した動きを身につけること。これだけでいくら時間があっても足りない。合宿までにこれで完璧という域に達することはないのだ。
 その上でジグルスは気が付いたことがあれば、それに取り組んでいる。その結果、それが意味あるものであれば、チームに展開することになるので、他の生徒たちもさらに大変になる。自分とチームを鍛えること以外に、目を向ける余裕などない。ジグルスが異常なのだ。
 今日は一人、図書室にこもって戦術の練り直し。自分のやり方が正しいという自信がないので、専門書を読んで、検証してみようと考えたのだ。

(……やっぱり、難しいな。独学では完璧に理解するのは無理か)

 役に立ちそうな本を読んでみたものの、その内容はかなり高度なもの。戦術を検証するどころか、本の中身を理解するのも大変だった。

(王女殿下に誰か教えてくれる人を紹介……は、さすがに無理か)

 困った時のカロリーネ王女、と思ったが、さすがに軍人を動かすことまでは無理だろうとジグルスは判断した。リーゼロッテのチームだけに支援を行う理由は軍にはないのだ。
 もう一度、気持ちを入れ直してジグルスは本をめくる。完璧に理解出来なくても、ヒントのようなものが得られればそれで良いと考え直したのだ。

(……結局は数の問題になるのかな)

 ジグルスにはすでに自チームの欠点のいくつかは分かっている。その中でもっとも影響が大きく、分かりやすいのは数の問題だ。
 リーゼロッテのチームは数が少ない。その為にあえて犠牲にしている部分がある。

(……魔法頼みじゃなぁ)

 ジグルスは守りを重視している。前衛は敵を倒すというよりも、足止めが主目的。攻撃は後衛の魔法に頼ることになる。それを実現する為に、後衛は魔法の精度を高める訓練を行っているが、それが上手く行っても足りないものがある。継戦能力、戦いを続ける力だ。魔法は魔力切れとなれば、回復までしばらく使えなくなる。チームとして攻撃力を失ってしまうのだ。

(そこまで長く戦うことにはならないか……いや、可能性はなくはない。機動力を高めることで補えないかな……でも、それを行えば防御力が……)

 近接戦闘での攻撃部隊を編成するには数が足りない。前衛に機動性を持たせることで、その役割を担わせることが出来ないかと考えてみたが、盾を使うなど重装備で守りを固めようという基本方針と合わない。
 中途半端では強みまで失うことになってしまうだけだ。

(……主人公みたいな圧倒的な存在がいればな)

 答えを見つけられない思考にやや疲れて、ジグルスは無い物ねだりをしてしまう。実際にはリーゼロッテのチームにもいないわけではない。ウッドストックだって、ゴブリン程度が相手であれば無双出来るはずだ。
 ただウッドストックだけにリスクを負わせる気にはなれなくて、別の方法を考えているのだ。

(防御陣地を構築して……さすがに大袈裟か……いや、でも禁止されているわけじゃない)

 防御力は陣地を構築し、そこにこもって戦うことで高める。人数の不足を補う方法としてはなくはないが、陣地を構築する方法がジグルスは分からない。

(無理か……ずっと陣地を作り続けているわけにもいかないだろうからな)

 陣地を構築出来たとしても、魔物がそこを襲ってくるとは限らない。向こうから現れることがなければ、せっかく構築しても無駄に終わってしまう。

(簡易的なのは作れるかな? 資材をあらかじめ用意して、それを……さすがに文句が出るか。う~ん。難しいな)

 陣地を構築する為の資材をあらかじめ用意して、それを運ぶ、ところまで考えたところで、さすがに生徒から文句が出るだろうとジグルスは思った。すでに盾を背負って移動することが決まっている。さらに重い荷物を追加となれば必ず不満が生まれる。役立つか分からないのに、その不満を無視して押し通す気にはジグルスもなれない。

「魔物というのは、そこまで考えて戦わねばならないほど強いのか?」

「はい?」

 不意に掛けられた言葉に驚くジグルス。

「ずいぶんと悩んでいる様子だった。それほど難しい戦いになるのか?」

 ジグルスの戸惑いを気にすることなく、相手は問いを重ねてきた。初老の男性。初めて顔を見る相手であるが、どういった人物かは想像がつく。がっしりとした体格、険しい表情、そして何よりも男性が纏う騎士服が何者であるかを示している。

「……失礼致しました。王女殿下には許可を得ているのですが」

 立ち上がって非礼を詫びるジグルス。

「軍籍にない君が畏まる必要はない」

「そうであっても場所をお借りしている立場です」

 軍事に関する専門書が置いてあるこの場所は、王国騎士団の図書室。ジグルスはカロリーネ王女に頼んで、入室を許してもらっているのだ。

「ふむ……そう思うのであれば、私の問いに答えてもらえるか?」

「はい……魔物が強いかどうかという問いであれば、数によると答えます」

「当たり前だな」

「今回……あの、学院の合宿についてご存じなのですか?」

 相手は軍人、おそらくは王国騎士団にて、それなりの地位にある人だ。そのような人物が何故、学校行事について気にするのか、ジグルスは疑問に思った。

「知っている。王国騎士団が封鎖している危険な場所に、学生を送り込もうなんてふざけた行事のことはな」

「……そう思われるのであれば、中止にして頂けませんか?」

 ふざけたイベントという思いはジグルスも持っている。

「残念ながら、それを決める権限は私にはない」

「そうですか……」

「それで? 何かを言いかけていたようだが?」

「ああ、今回の合宿は小数で多数を討つというものですので、強い敵を相手にすると考えています、と言おうとしていました」

「……しかし君はすでに一度、魔物と戦っている。その時は見事に敵を打ち倒したのではないか?」

 男性は前回の合宿の話まで知っていた。だがジグルスはそれを不思議に思うことはなかった。考えてみれば軍の上層部にいるであろう人が、魔物についての情報を知らないはずがない。自分以上に情報を持っているはずだと考えたのだ。

「次は前回の倍、もっと多いかもしれません」

「何故、そう思う?」

 男性の視線が鋭くなった、ようにジグルスは感じた。

「何も知らないからです。魔物の総数はどれくらいか。ひとつの群れはどれくらいの規模で、合流したりすることは絶対にないのか。分からない以上は最悪を考えるしかありません」

 カロリーネ王女のおかげで得られた情報はある。だがジグルスはそれが全て正しいとは受け取っていない。絶対にそうだと言い切れるほど調べ切れていないと考えている。

「……慎重であることは結構だが、それが過ぎると逆に何も出来なくなるのではないか?」

「ああ、それは分かります。これで十分というものがないので、ずっと思考がさまよっていました」

 どこまで何を行えば良いのか。今のジグルスはこれが分からない。分からないので思い付く限りの可能性に対処する方法を考えているのだが、当然、それにこれだという答えはない。

「我々が調べた限り、それほどの脅威ではない。だからこそ学生を戦わせようなんて考えるのだ」

「失礼ですが、その調べたは、これ以上はどうしようもないと思うくらい調べた結果ですか?」

「それは……そこまでは言い切れないな」

 何故、都からそう遠くない山中に魔物が現れたのかが分かっていない。どこから、どのように来たか分からなければ、把握している以上には増えないと言い切れない。

「では、これ以上はどうしようもないと思えるくらいまで考えるしかありません」

「……そういった考え方は誰に教わったのだ?」

「特に誰かに教わったという覚えはありませんが」

「本当に?」

 疑わしげな視線をジグルスに向ける男性。この問いでジグルスは男性が何故、この場所に来て、自分に話しかけてきたのか分かった。

「貴方も俺の父親を、別の誰かだと勘違いしているのですか?」

「勘違いとは思っていない」

 この男性もジグルスの父親は、前回の戦いでの英雄だと思っている。だからジグルスに接触してきたのだ。

 


 こうなると、あまりカロリーネ王女に頼らないほうが良いのではないかとジグルスは思えてきた。軍の施設を使う許可を与えられたのは、こうして自分に接触する機会を作る為ではないかと考えたのだ。

「俺の父親が仮にその人物だとして、その力が必要ですか? その人物を超える力を持つ人は大勢いると思います」

「それは今後、評価されるものだ」

「評価というのは今回の合宿を指していますか? そうだとすれば結果は分かっています。いや、どうして分からないのですか?」

 魔物相手に不覚をとる主人公ではない。それどころか彼女の実力を測るには物足りない相手であるはずだ。授業中の彼女を見るだけで分かるそれが何故、分からないのか、ジグルスは疑問だった。

「……私は彼のことを良く知っている。その私が見る限り、合宿に参加する生徒たちは彼に遠く及ばない」

「えっ、嘘?」

「何故、驚く?」

「それは……やはり人違いだと思います。俺の父親が彼女より強いはずがありません」

 主人公より強い人がいるはずがない、なんて答えは返せない。返しても理解されない。

「君は相手の実力を見極められるだけの目を持っているのか?」

「それは……」

 父親と主人公のどちらが強いかの判断は間違っていないという思いはあっても、実力を見抜く目を持っているとは言えない。ジグルスは、自分は凡人であると思っているのだ。

「これからの成長次第で超えることはあり得ると私も思ってはいる。だが今現在の力で言えば、戦いを任せられるほどではない」

「……それほど魔人は強いのですか?」

 ジグルスは今すぐにでも主人公、そして仲間のメンバーたちは魔人に勝てると考えていた。だがこの男性はそれをはっきりと否定した。それはつまり、ジグルスが魔人の強さを間違って認識していたということになる。

「君に聞きたかったのだが?」

「俺にはない知識です」

 相手はジグルスが魔人の知識を持っていると考えていたことが分かった。父親から聞いて知っているのだろうと。これは完全に勘違い。ジグルスは父親から魔人のマの字も聞いたことがない。だからといってまったく知識がないわけではないが、この相手に話せるものではない。

「そうか……正直に言うと、私は直接その強さを確かめたわけではない。だが戦いに送り込んだ者たちのことは良く知っている。安心して任せられる者たちを選んだつもりだったのだ」

「……それでも勝ったのではないですか?」

 主人公の実力がどうかよりも、今は想像を超えるだろう魔人の強さがジグルスは気になる。今のままでは主人公は勝てないなんて設定は、まったく彼の頭になかったのだ。

「…………」

「……勝ったのですよね?」

 自分の問いに男性は答えようとしない。その意味を考えて、ジグルスの胸に不安が広がっていった。

「王国には一人でも多くの、魔人と戦える人材が必要なのだ。私が言えるのはこれだけだ」

「そんな……」

 男性は勝ったことを肯定しようとしなかった。

「何があったのか私は知らない。国を捨てるような行動だ。余程のことがあったのだろう。それでも言わせてもらう。今は私情を横に置いて国の為、いや、民のことを考えて行動して欲しい。こう君の父親に伝えてくれ」

「い、いや、俺の」

「今は化かし合いなどしている場合ではないのだ!」

「…………」

 ジグルス本人に化かし合いをしているつもりはない、というのは事実ではない。人違いではない可能性があると思っていながら惚けているのだ。

「少なくとも軍はこういう考えだ。私たちはなんとしても勝たなければならない。その可能性がわずかでも高まるのであれば何でも行うつもりだ。たとえ……いや、とにかくそういうことだ」

「……失礼ですが、貴方は?」

「ああ、名乗る間がなかったな。ローゼンガルテン王国騎士団副団長のワルターだ」

「そうでしたか」

 ローゼンガルテン王国も一枚岩ではない。良い悪いの判断は別にして、ワルター副団長の話は、王国と騎士団の意思が完全に一致していないことを匂わせるものだ。王国と騎士団ではなく、騎士団の一部である可能性のほうが高そうだとジグルスは考えているが。

「人違いであろうと構わない。君の父親に伝えて欲しい。助けてくれと」

「……父親がどう受け取るかは私には分かりません。それでも伝えることはお約束します」

 王国騎士団の副団長が「助けてくれ」と口にするなど余程のこと。断ることなど出来るはずがない。

「頼む」

「ただ、一つお願いが」

 父親に伝えるくらいはどうってことはない。それを受けて父親がどう動くかなどジグルスには分からない。都にいる自分に危険が及ぶような真似だけは避けて欲しいと願うくらいだ。
 そうであるのだが売れる恩は売っておこうと考えた。価値は買う側が判断することだ。

「……なんだろう?」

「前回の魔人との戦いについて記した資料はありますか? それに限らず、魔人がどれほどの強さが分かる資料を見たいのですけど」

 魔人がどれほどの強さなのか知る必要をジグルスは感じている。自分自身が戦うつもりはないはずなのに。

「魔人の資料か……」

「外には持ち出しません。この場所で見せていただければそれで結構です。写しも取りませんから」

 軍事情報、ただの軍事情報ではなく魔人に関するものだ。簡単ではないとジグルスも分かっている。だが、この機会を逃せば、情報を得る機会はもう二度とない可能性が高いのだ。

「……良いだろう。すぐには、それも一度には無理だな。ここには次いつ来る?」

「予定はそちらに合わせます。いつでもこの場所の利用許可を頂けるという前提ですけど」

「それは問題ない。では、まずは明後日にしよう。手続きはこちらで進めておく」

「分かりました。では明後日の同じ時間に」

「ああ。ではまた会おう」

 再会を約束する言葉を残してワルター副団長は図書室を出て行く。残ったジグルスは、引き続き戦術について考えるべきなのだが、気持ちが別のことに向いて、まったく集中出来ない。

(俺の知るゲーム世界。主人公が知るゲーム世界。それにさらに別の世界である可能性が加わったのか)

 主人公の力が魔人に通用しない。この事実は、ワルター副団長の言う通りであればだが、ジグルスには衝撃だった。主人公が負ける可能性、ゲームがバッドエンドで終わる可能性があるのだ。

(……それはそうか。プレイヤーが馬鹿であればゲームオーバーで終わるのは当たり前にあること。つまり、あの女がこの事実を分かっているか、分かっていて、何とかしようとしているか)

 ゲームは必ずコンプリートするわけではない。途中で終わってしまうこともある。どちらの結果になるかはプレイヤー、主人公次第だとジグルスは考えた。

(仲間を増やす勢いは異常。それだけ危機感があるということか、それとも……)

 ジグルスが知るゲームでは考えられないくらいの速さで主人公は仲間を増やしている。それは魔人との戦いに向けて、盤石の体勢を作ろうとしているから、であって欲しいとジグルスは思う。だが主人公からは驕りのようなものも感じられる。果たすべき役目を無視して、リーゼロッテに嫌がらせをしているケースもあるのだ。

(……邪魔しているのは俺か? でも何をすれば良い?)

 自分が主人公の邪魔をしている自覚はジグルスにもある。だが仲間集めに関しては一切、妨害したつもりはない。これは自覚がないだけなのだが。

(……何もしないことが一番か。でもな……)

 モブキャラである自分は目立つことを行ってはならない。きっとそうなのだろうとジグルスは考えている。だが、それは主人公は無用な挑発や嫌がらせをリーゼロッテに対して行うから。主人公が主人公として真面目に取り組んでいないせいだという思いがある。
 彼女の仲間集めはほぼ完了しているはず。残るメンバーはイベントなどなくても仲間になるはずなのだ。そうであるのに主人公は無意味なイベントを起こしている。

(……あれ? 今回の合宿の目的は何だ?)

 今回の合宿で主人公は何を得るのか。ワルター副団長は評価の一つだと言っていた。そうであればこの合宿で主人公は王国と騎士団にその力を認められることになるのか。

(あの女、真面目にやるのだろうな)

 ジグルスは主人公の考えに不安を感じる。自分と同じようにすでに魔人に勝てる力があると考えている可能性がある。そうであれば残りの学院生活は彼女にとって、ただ楽しむだけのものになっているかもしれない。

(……魔人の資料、頼んで良かった。なんとかあの女に魔人の強さを伝えて、本気にさせないと)

 主人公に事実を伝えなくてはならない。楽観視をしているのであれば、それを取り除き、強くなる為の鍛錬に集中させなければならない。
 ジグルスはまた一つ重たい、作業的にではなく気が重くなる仕事を増やすことになった。これは絶対にモブキャラの仕事ではない。