月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #51 新居へのお引っ越し

異世界ファンタジー小説 四季は大地を駆け巡る

 いよいよ新しい拠点への引っ越しの日。といっても荷物はほとんど運び終わっていて、エアルやハンゾウたち、ブロンテースはとっくに新拠点での生活を始めている。当然、先生も一緒。引っ越しの為に長く鍛錬を休むわけにはいかない。ヒューガも当然、鍛錬については向こうで皆と一緒に行っている。
 ヒューガは新拠点に同行するエルフたちとの調整は長であるカルポに任せており、この場所にいるのはセレネとの打ち合わせの時くらいだ。
 つまり、今日は同行するエルフたちの為の引っ越し。それぞれ自分たちの家財をまとめて、扉の部屋の前に集まっている。

「えっと……人数が多くないか?」

 秋の部族は二十人とヒューガは聞いていた。だが部屋の前に並んでいるエルフの数はどうみてもそれを超えている。

「はい。秋の部族から二十人。それ以外に十人、正確には十一ですね、同行を希望しています」

 ヒューガの問いに答えたのはカルポだ。

「正確には? まあ、細かい人数はいいか。今、初めて聞いたよな? 秋の部族以外のエルフが同行することを許可した覚えがない」

「はい。同行を許可するかはヒューガ様と話をした後ですね。セレネ様とそういうお約束をなさったと聞いています」

「まあ」

 確かにセレネとはそういう約束をしている。だが当日まで放っておく必要はない。
 そんな思いはあるが約束は約束。とにかく話を聞いてみようと考えてヒューガは、後ろで固まっているエルフの集団に向かう。そこにいたのは。

「あっ……」

 思わず伸びそうになる手をヒューガは堪えた。カルポの言った「正確に」で追加された一人は子供。今回のきっかけとなった外縁部でヒューガを待っていたエルフの中にいた子供のことだと分かった。

「お前たちが?」

 子供だけでなく、その時のエルフたち全員がこの場にいる。

「はい。名乗りがまだでしたね? 私はシエンと申します。後ろにいるのは私と気持ちを同じくする者たち。全員の意思を確認するのに時間をとってしまい、直前でのお願いとなってしまいましたが、是非我等も同行を許していただきたいと思っております」

「……分かってるのか? 僕はお前達の仲間を殺した人間だ」

「はい。我等は一部始終を見ておりますから」

「それは知ってる。だからこそ何故と思うんだ」

 ここに移ってきたエルフの中にはヒューガが何をしたのか分かっていない人もいる。事が終わってから移ってきたエルフも大勢いるからだ。
 だが、このエルフたちは違う。彼等は最初からヒューガのやることを見ていた。ヒューガがエルフを騙したことも。それを見ていて何故同行しようなんて考えるのかヒューガには分からない。

「一部始終を見ていたからです。ヒューガ様のご様子をずっと見ていました。あのエルフを送り込んだ時のヒューガ様の辛そうな顔も。あの男に最後に言われましたね? 僕も覚悟を決めると。私はその言葉の意味を分かっているつもりです」

「そうか」

「我等はヒューガ様が辛い決断をしたことを知っております。事が終わったあとに、それに悩んでいる様子も見ております。自らこの拠点を離れるのが、ヒューガ様がそれを罪に思い、我等エルフの気持ちを考えての決断だということも。自らを害しようとした者に対して、そんな気持ちを持てるヒューガ様は優しい御方。我等はそんなヒューガ様に心より仕えたいと思っております。何卒、同行をお許しください」

「……決して楽な暮らしじゃない。新しい拠点はここよりももっと厳しい場所だ。子供のことを考えればここに残ったほうが良い」

 自分はシエンが考えているような人間ではないという思いがヒューガにはある。シエンの言葉はヒューガにとって褒め言葉ではない。

「なればこそヒューガ様のお力になりたいのです。我等がどれほど力になれるか分かりませんが、出来るだけのことはやらせてください」

「……子供は? 子供にまで苦労をさせるのか?」

「子供の分は他の者で頑張って補います。ご迷惑をおかけするつもりはありません。子供を連れて行くのはそんな我らの苦労する姿を見せてやりたいからです。この子が大きくなる頃には、これから行く拠点を暮らし良い場所にしたいと思っております。でも、その暮らしを手に入れる為に我らがどれほどの苦労をしたか、それを知っていると知らないとでは、この子の将来は違ったものになるでしょう」

「なるほど……話は分かった。物好きだな。自ら苦労を望むなんて」

「その物好きもヒューガ様ほどではないのではないでしょうか?」

 こう言うと、シエンはニヤリと笑った。彼等なりに覚悟は決まっている。何を言っても無駄だという意味だとヒューガは受け取った。

「……良いだろう。同行を認める」

「「「ありがとうございます」」」「ありがと」

 ありがとうの言葉の中に子供の声が混じっている。この子が大きくなる頃には暮らし良い場所に。そんな思いがヒューガの胸に浮かんできた。
 総勢四十四名、先生も加えると四十五名。一気に大所帯となったヒューガたちの新しい生活が始まる。

 

◆◆◆

 新しい拠点は活気に満ちている。金槌の音や人々の掛け声が拠点中に響き渡っているのだ。
 拠点そのものについてはルナたちが準備をしてくれていたが、それは結界が張ってあるというだけのこと。建物などの整備は一から始めなくてはいけない。材料をかき集めて、色々と手を入れていく。まだまだ十分とは言えないが、それでもようやく形になってきた。
 これについてはブロンテースの活躍が大きい。なんといっても力仕事や造作について、ブロンテースの右に出る者はいないのだ。
 最初はブロンテースを恐れていたエルフたちも、今では普通に接するようになった。それにはエルフの子供がブロンテースに懐いたのが大きかった。
 種族がなんであれ、子供というのは見た目に関係なく本能で相手のことを見極めるようで、ブロンテースのいかつい姿にもなんら臆することなく、足元にまとわりついて離れなかった。ブロンテースも子供は好きなようで、抱きかかえて高い高いをやってあげたりして、それがまた子供を喜ばせた。
 そんな様子を見て、始めはハラハラしていた親たちも今では安心してブロンテースに子供を任せるようになっている。
 とにかく今のところは新しい拠点での生活は上手くいっている。ヒューガはある程度、形になったところで、これからのことを一度話しあうことにした。
 集まったのはエアル、カルポ、ハンゾウとシエンだ。シエンは秋の部族以外のエルフの代表者に任命されている。

「これからのことを話しあうなんて大げさな議題だが、とりあえず何でも良い、気になることがあったら言ってくれ」

「では早速」

「あれ?」

「いかがなされた?」

「いや、ハンゾウさんが真っ先に口を開くとは思わなかった」

 ハンゾウたちは先生から課せられた鍛錬を消化するので精一杯。拠点については考えている余裕などないとヒューガは考えていた。拠点作りについての役目も与えていない。

「皆から必ず伝えてくれとうるさく言われたでござる」

「そう……それだけ問題が大きいってことだな。わかった」

 ハンゾウ個人ではなく、間者たちの総意。かなり重要な問題だとヒューガは考えた。

「では、現在の一番の問題は居住地の件でござる」

「居住地に何か問題が?」

 居住地の整備はプロンテースの尽力のおかげで順調に進んでいる。ヒューガには、問題があるという認識はまったくない。

「男性と女性の居住地をもう少し明確に分けて欲しいでござる。いや既婚者についても一定の考慮が必要ですな」

「……えっと、それが重要?」

「独り身の我等にとっては重要でござる」

「……それはつまり」

 独り身の彼等が男女の居住について問題を感じている。それが具体的にどういう問題かとなると、ヒューガには一つしか思い付かなかった。

「我等とて忍びのはしくれ。人並み以上の忍耐力は持っているつもりでござる。しかし、例えば風呂上りの女性の姿、それも見目麗しいエルフの女性に目の前を行き来されては中々に刺激が強く……」

「風呂上りって……今は冬、別に薄着で歩き回ってるわけじゃないだろ? それくらい我慢できないか?」

「だからこそ今の内に対処が必要なのです。これが夏になって……まあ、それは置いておきましょう。問題はそれだけではござらん」

「まだ他にあるのか?」

「はい。夜になれば男女の営みの声も聞こえます。さすがにそれまで加わっては、中々に忍耐も厳しいものがござる。エルフの方々には何組か既婚者がおり、その営みは頻繁なようでござるな」

「……聞こえるのか?」

 ヒューガがまったく認識していなかった問題、というだけで焦っているわけではない。

「古い建物は。ここは元砦でござる。そのような配慮はなきものと推察いたす」

 それは元の拠点も同じであったはず。ヒューガはつい視線をエアルに向けてしまうが、彼女も同じことに気が付いたようで恥ずかしそうに下を向いていた。

「……それって今に限ったことじゃないよな?」

「……申し上げづらきことなれど。それでもまだ以前は、影響は少なかったでござる。今は独身の女性の数もそれなりにおります。目の前にその……手が届くかもしれない女性がいるというのは……」

 つまりエアルには手出しが出来ない。そう思って我慢出来たが、今はもしかしたら付き合えるかもしれない女性がいる。そう思うと我慢が出来ないということ。
 まさかこの問題を真っ先に議論することになるとはヒューガは思っていなかった。頭の片隅にもなかったことだ。

「参ったな……」

「頑張って口説けば良いんじゃない?」

 悩むヒューガにエアルが軽い調子で言ってきた。

「それはそうかもしれないけど……この狭い場所で風紀の乱れは……」

 風紀のことなど、これまでの人生でもまったく考えたことはなかったのだが、欲求の存在を知ってしまい、この拠点を統べる立場として考えると、いきなり気になってしまう。

「今更じゃない? 人族の常識で考える必要ないわよ」

「どういうこと?」

「私たちエルフは割と自由なの。あっ、もちろん個人差はあるわよ。エルフの女性全員が、腰が軽いってことじゃないから誤解しないで欲しいわね。ただ男性も含めて全体として寛容なのよ。貞操に拘ることに意味なんてないから」

 長命のエルフだ。人族では考えられない年齢差での恋愛など当たり前。以前、誰と結婚していたか、付き合っていたかを考えることに意味はないのだ。

「なるほど、そういう話ですか。気付かずにすみません。エアル殿の言うとおりです。気にする必要はありません。当人同士が了承していれば、仮に一夜限りのことであっても、誰も文句は言いません」

「おお!」

「いや、ハンゾウさん。そこで喜ぶなよ。だからって自由にってのは……あちこちで女性を口説いている姿を見かけるってどうなんだ?」

「それは、確かに……いや、しかしこれを皆に伝えてしまっては……」

 皆、大喜びで気になっている女性を口説きにかかる。この場で議題としてあげるくらいだ。そうなってしまうことがハンゾウには想像つく。

「いや、伝えないで。歯止めがきかなくなるのは困る」

「では変わらず忍耐の日々を……しかし、それは……」

「……無理、これについて僕は良い案が出せない」

 解決策など見つかるはずがない。男女の関係など自然の流れでそうなるべきもので、考えてどうにかするものではない。

「ひとつ方法がありますよ」

「先生!」

 いつのまにか先生が部屋に入ってきていた。気配を感じさせない、感じ取れないのは相変わらずだ。

「それについては私に任せてもらいましょう。いつまでもというわけにはいかないですけどね。当面の問題は解決出来ますよ」

「どうやって?」

「簡単です。そんな煩悩が頭に浮かばないくらいに絞り上げればいいのですよ。とりあえず鍛錬の量を倍くらいにしましょうかね。そうすればそんなことを考える暇もなく、ぐっすりと眠れるでしょう」

「そんな……」

 ハンゾウは先生の話を聞いて茫然としている。すでにかなり厳しい鍛錬を行っている。それをさらに倍にするというのだ。といっても煩悩が浮かぶくらいには耐えられるようになってきているのだ。

「ヒューガくんも他人事ではありませんよ」

「えっ、僕? 僕はそんな煩悩なんて……」

「思い付いたのですよ。ヒューガくんとエアルくんをこれ以上近づけない為にどうすればいいか。考えた結果、結論が出ました。間違っても夜そんな気が起きないくらいにヒューガくんを絞り上げればいいのです。どうです? 妙案でしょう?」

「反対! ただでさえ、ヒューガはずっと……」

 先生の提案にすかさずエアルが反対を訴える。ただでさえヒューガは体を求めてこないのに、そんなことをされてはますます機会が遠のいてしまうと考えてのことだ。ヒューガの気持ちの整理、もしくは割り切りの問題なので、体の疲れは関係ないのだが。

「貴女の意見を聞くつもりはありません。そもそも貴女もそんな気にならないようにしてあげても良いのですよ? うん、そうしましょう。貴女もいい加減鍛え上げる時期にきています」

「そんな……」

「はい。これで当面の問題は解決しました。次の議題をどうぞ」

 先生は全く聞く耳を持たない様子だ。登場したタイミングといい、始めから企んでいたことだとヒューガは考えた。

「……じゃあ、次は?」

「そういう面では我等についても鍛錬について考えてください。いつまでもヒューガ様たちに任せきりっというわけにはいきません。自分たちでも狩りくらいは出来る様にならなくては」

 鍛錬の話を聞いて、シオンが自分たちも行いたいと申し出てきた。少しでも早くヒューガに自分たちが役に立つところを見せたい。そういう思いからだ。

「そうか。でもな、同じ鍛錬は無理だと思う」

「我等の中にも何人かは腕に自信のある者がいますが……」

「それは……じゃあ、一度試してみるか。無理しない程度に」

 自信があるというのを完全に否定するのも悪い。そう考えて、ヒューガは参加を受け入れた。合格すると思っていないのが見え見えの態度で。

「それほどですか?」

「まあ、ここに来たことを後悔するくらいにはきついかな?」

「……それほど?」

「いや、実際はこれでも控え目。死んだ方がましだと思うくらいにはかな?」

「…………」

「やっぱり止めておく?」

「……いえ、やらせてください」

「じゃあ、いきなり先生の鍛錬は無理だから、カルポ、指導してあげてくれ」

「えっ? 僕も自分の鍛錬が……」

 カルポは一人称を本来の僕に改めた。ヒューガが自分の言葉で話せと言ったことを人伝に聞いて、そうすることにしたのだ。ただヒューガにはそんなことを言った覚えがなく「自分と被るな」なんてことを考えていたりする。

「とりあえずは最初だけだ。それに多分そんなに時間はかからないだろ? 短い時間だろうから僕たちが鍛錬の開始を遅らせても良いし」

「そうですね。分かりました。じゃあ、僕が担当します」

「……あの、そんなに?」

 ヒューガとカルポのやり取りを聞いて、シオンはさらに不安になっている。

「やっぱり止めとく?」

「……いえ、一応は」

「そう。じゃあそういうことで。後は何かある?」

 鍛錬についての話は終わり。他に話がないかヒューガは皆に尋ねる。

「私からもう一つ。許可を頂きたいことがあります」

 手を挙げたのはまたシオンだ。

「許可? 何の許可?」

「畑を作る許可を頂きたいのです」

「畑? 食料にそんなに困ってるのか?」

 そんな報告をヒューガは受けていない。元の世界のように色々な野菜があるわけではないが、大森林には木の実とかが豊富にある。それで十分に賄えているはずだった。

「食糧としてではなく服の材料としてです。服を作るとしても材料となるものがなくては。今は冬なので毛皮等で十分ですが、暖かい季節になればそうはいきません」

「ああ、なるほどね。どれくらいの広さが必要なんだ?」

「まずは小さく始めるつもりですので、他に建物を建てる予定がなければ今現在の空き地で十分かと」

「じゃあ。許可する。それを担当する人は?」

「女性陣に任せます。責任者は出来れば私の妻に」

「分かった。あとで細かいことを教えて。僕はそういう知識がないから。あっ、でも服を作る場所は? その場所も必要にならない?」

「それも含めて今の空き地で十分かと。詳細をお伝えする時にその辺も説明させます」

「分かった」

 衣食住のうちの衣。それを忘れていたことにヒューガは気付かされた。これまでは手持ちの服で十分だったが、それらもいつまで着られるか分からない。実際、鍛錬の時に着ている服はかなり傷んでいる。そういったことが気にならなくなっていただけなのだ。

「他には?」

「僕から報告があります」

 手を挙げたのはカルポ。

「何?」

「ちょっと西の拠点で問題が起こっています」

「もう? 何が起こったんだ?」

 ヒューガの顔がしかめられる。自分たちの拠点整備で今は一杯一杯。正直、西の拠点になど構っていられないのだ。

「もめごとが起こっているというわけではありません。今のところは実害もないのですが、ちょっと誤解が広まっていまして」

「誤解って?」

「ここに来たエルフは選ばれた者たち。そんな風に思われているみたいです」

「……まあ、そう思われても仕方ないけどな。でも、それのどこが問題なんだ」

 実際に選ばれている。ヒューガが同行を許した人たちだけが、この拠点にいるのだ。

「それが、その選ばれた者だけが良い暮らしをしているって思われているようです」

「……何だと?」

 カルポの話を聞いて、呆れた様子だったヒューガの表情が一気に険しくなる。
 秋の部族、そしてシアンたちはここに来てから拠点の整備の為にずっと忙しく働いている。狩りなどについてはヒューガたちに頼り切りであるが、だからこそそれ以外では力になろうと寝る間も惜しんで働いているのだ。
 そんな彼等の苦労も知らず、楽をしているなんて勝手な思い込みで文句を言う人たちがヒューガは許せない。

「怒らないでください。今のところ、そんなことを言っているのは極わずかな者だけです。でもそんな勝手な想像が広がっては、二つの拠点の間に余計な軋轢を生むことになるかと思いました」

「……そうだな。良く報告してくれた。しかし……なんでそんな風にしか思えないかね?」

「実態を知らないからでしょう。西の拠点に比べてここは拠点の整備もまだまだ大変だし、周りの魔獣も強い。狩りをするにも一苦労です。でも、そんな苦労が彼らには見えていない。自分たちの知らない所で楽をしている。そんな風に思っているのです」

「じゃあ、簡単だ。実態を知らせてやればいい」

「どうしますか?」

「そうだな……エルフの人たちの鍛錬の様子を見てもらうか? そうすればここが地獄だって分かるだろ?」

「ああ、そうですね。それが良いと思います」

「あの……そんなに?」

 その地獄を体験させられることになっているシオン。何もしていないのに、すでに気が遠くなってきている。。

「ごめん。もう止められない。皆に頑張って耐えろって言ってくれ」

「……はい」

「しかしな……」

 何故、そんな気持ちが生まれるのか。隣の芝は青い、なんて言葉があるが、比べる以前に何も見ていないのだ。
 西の拠点のエルフについては勝手にやれば良いという思いがヒューガにはある。だが自分たちの拠点内では、そういった意識を持たせないようにしなければならないと思った。
 この拠点を何とか暮らしやすい場所にしようとしている。それが実現した時、ここの人たちに変な選民意識が生まれないようにしなければならない。差別意識を許してはいけない。
 その為にどうするかをヒューガは考えることにした。彼は王なのだから。