月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #35 エルフたちの選択

異世界ファンタジー小説 四季は大地を駆け巡る

 拠点の扉が開いた。そんなものがどこにあるのかと思っていたら、寝泊りしている一番大きな建物に地下に通じる隠し階段があった。ルナは良くこんなの知ってたな。
 早速、それを使ってエルフの都に行ってみることにした。行くのは僕とルナ。カルポは……先生から禁止された。どうもエルフってのは基礎体力に問題があるようだ。カルポは午前中のトレーニングに全然付いてこられない。という事でカルポは居残りで鍛錬を続けることになった。
 なんだか僕のほうを羨ましそうに見てるけど、鍛錬を続けられるんだから残ったほうが嬉しいと思うけどな。

「じゃあ、行ってくる」

「お気をつけて」

「……ふむ」

「なんだ、先生は扉にも興味あるの?」

「私は何にでも興味を持ちますよ。まあ転移門は魔族も使ってますから、それ自体は珍しくないのですけど、仕組みがね。恐らく魔族のものとは違うのでしょうね?」

「そうだろうね。これはルナたち精霊の力。魔族が使ってるのは魔法だろ?」

 精霊魔法と呼ばれているが、通常の魔法とは異なっている点は多い。最近は別物だと考えることにしている。

「そうです。転移門は魔石によって動いています。魔石というのは魔力を込めた石の事です。その魔石に術式も埋め込んであってそれを選択する事でどの転移門に行くかを決めるのですが……ここにはそれがない。どうなっているのかと思いましてね」

「精霊たちにお願いすれば選べるんだろ?」

「……なんだか、精霊に依存しすぎですね?」

「依存というよりは信頼だ。どこに飛ばされるかは精霊次第なんだから、信頼していないと怖くて使えない」

「信頼……そういう言い方もあるわけですね」

「じゃあ、行くけど、本当に必要なもの他にない?」

 せっかくエルフの都に行けるのだから、ただ行って帰ってくるだけでなく物資の調達も考えている。

「ありませんね」

「私も必要なものはお願いした通りです」

「わかった。行ってくる」

 扉の前に進む。言葉の通り、見た目は普通の扉だ。それを開くと、目の前に広がるのは宇宙ってこんな感じかと思えるような、果ての見えない漆黒の闇とそこに浮かぶ小さな光。
 かまわず足を前に進めると、すぐに床の感触。そのまま体を前に出すと、そこは薄暗い小さな部屋だった。

(なんか凄いな、これ。もしかして一歩で都に着いたのか?)

 目の前にある扉。そのすきまから光が漏れている。その扉を開くと、その先には……大きなテーブルを囲むように座っているセレたちがいた。

「あれ?」

「はあっ?」

「久しぶり……で合ってる?」

「久しぶりじゃないわよ。貴方、何処から出てきたのよ?」

「この部屋にある扉」

「……開いたの?」

「ルナが開けてくれた」

 かなり慌てた様子で立ち上がるセレと長老たち。それ以外のエルフたちも席を立ってこちらに向かってきた。
 その場から押しのけられて、小部屋に入る扉の脇に立って見ていると、セレたちは僕が出てきた扉を、懸命に開けようとしている。

「開かないわよ!?」

「うそ!? もしかして、俺戻れないのか?」

 セレの言葉を聞いて扉の前に急いで向かいノブを回すと……目の前には夜空のような光景があった。

「……何だ、脅かすなよ。扉使って帰れないのかと思っただろ?」

 扉を閉めて、後ろにいたセレたちに文句を言うと彼女たちはまた俺を押しのけて、扉のノブを回し始めた……開かないな。

「開かないわ……もしかして貴方しか使えないの、これ?」

「そんな馬鹿な!? セレネ様、扉はエルフの財産です! それを人族が奪うような真似を許して良いのですか!?」

「そう言われても……」

 エルフの一人の言葉にセレは困惑した様子だ。しかし、この言葉はちょっと聞き捨てならない。

「エルフの財産? 何言ってんだ、お前? この扉はエルフのものじゃない。精霊たちのものだろ?」

「そうだとしても同じことだ! 精霊のものは我等エルフのものだろ!?」

 こいつ何を言ってんだ。セレたちはきちんと他のエルフにも話すって言ってははずなのだけど。まだ、こんな考えを持っている奴がいるのか。

「セレ、どういうこと? こいつの言っていることは、この前話したことと全然違っている」

「……話したわよ」

「長老?」

「我等からも話はした。だがな……」

「はっ! 人族の戯言など聞けるか! お前は我等エルフを惑わすためにやってきたのだろ? いいからとっとと扉を我らに返せ!」

 自分のものでもないのに返せ。しかもこんな傲慢な態度で。苛立ちが心に広がっていくのを感じる。

「……これがここにいるエルフの総意?」

「それは違うわ」

 セレは僕の言葉を否定するけど。

「セレネ様! つい先ほどまでこの人族について話をしていたところではないですか? 良い機会です。本人がいる前で、はっきりさせましょう。この大森林は我等エルフのものです。それを人族に勝手に明け渡すなど、いくらセレネ様や長老のお二人でも許すわけにはまいりません。そうだろ、皆!」

「ああ、そうだ。大森林はエルフのもの。人族はとっとと出て行け!」

「そうだ!」「そうだ!」

 セレと長老以外のほとんどのエルフが同調して騒ぎ出す。僕のことを話していた結果がこれ。人族は出て行け。エルフたちはそういう考えなんだ。なんか面倒くさい。

「……じゃあ良い」

「なんだ、分かったか? ではさっさと、そうだな。まずは扉の使い方を教えろ」

「知りたければ精霊たちに聞け。僕が良いと言ったのは、もうお前等に関わるのは止めたって意味だ」

「じゃあ、今すぐ出て行け」

 言われなくても出て行く。お前に従うわけじゃない。自分の意思で出て行くんだ。

「おい、扉は?」

「使えることは分かったのだ。使い方など、このガキの言うとおり、精霊に聞けば良い」

「そうか」

 教えてもらえるなら。お前たちみたいな傲慢なエルフに、精霊が従うとは思えない。

「じゃあ、もう良いな。出て行くからそこをどけ」

「なんだと?」

「僕が大森林にいることを精霊たちが認めないのであれば、この扉に入った途端に大森林の外に追い出されるだろう」

 僕の滞在を許すかどうか決めるのは精霊たちだ。この場にいるエルフたちではない。精霊たちに受け入れられないのであれば、それは仕方がない。

「そんなことを言って、我らの先人が築いた拠点に帰るつもりだろ?」

「なんだったらお前が試してみるか? 精霊たちが認めるならお前はちゃんと転移できる。そうでないなら……どうなるんだろうな?」

「なんだと……」

 顔色が変わった。つまりこいつは精霊を信頼出来ないということだ。

「出来ないのか?」

「なんでそんな真似をする必要がある?」

「扉、使いたいんだろ? だったらいつか試すことになる。今、試しても同じことだ」

「…………」

「出来なのであれば、そこをどけ! 邪魔だ!」

 先頭に立って僕に文句を言っていたエルフは、よろけるように扉の前から退いた。どうやら、はったりが効いたみたいだ。今日初めて使った扉のことなんで僕が詳しく知るはずないのに。

「おい、待て!」

 それでもまた別のエルフが絡んでくる。相手にするのは面倒だ。その声を無視して、扉に手を掛けようとしたところで、詠唱の声が聞こえた。

「風の精霊よ。我と汝との契約に基づき我は命じる」

「ちょっと何してるの!」

 ここで精霊魔法を使うつもりか? さすがにまずいかな?

(大丈夫)

 急いで扉に入ろうとしたところでルナの声が聞こえた。ルナが大丈夫だっていうから大丈夫なんだろう。安心して精霊魔法を唱えている男に、真正面から向き合った。

「我の求めに応じて我の元に集い、我に汝の力を与えよ」

 長いな。敵は待ってくれないと思うけど。

(ルナ、信用はしてるけど、さすがに少し怖いな)

(大丈夫。ヒューガは私が守る)

(じゃあ、頼む)

「その力を風の刃に変えて敵を切り裂け!」

「やめなさい!」

 セレ、止めさせたければその男を気絶させるなりなんなりしろ。声だけで止まるはずがない。男は最後まで詠唱を終えた。結果…………何も起こらない。

「そんな馬鹿な!?」

「うそ!?」「馬鹿な!?」「精霊魔法が?」「こんな……?」

 精霊魔法は発動しなかった。精霊たちが力を貸さなかったってことか。ルナが大丈夫って言ったのはこういうことなんだな。

(ルナ)

(何?)

(あいつの精霊たちに御礼を言っておいて。攻撃しないでくれてありがとうって)

(……わかった)

「じゃあ、僕は行く。セレ、ここまで面倒をみてくれてありがとう。この御礼は……」

 返す方法が思い付かない。何を返せば良いかも分からない。

「お礼なんて良いわよ。元々は私のほうが貴方に助けられたのよ。これまでのことなんて大したことじゃないわ」

「そっか。じゃあ、またいつか」

「そうね。会いに行くわ。もうここには来ないのでしょ?」

「ああ、そのつもりだ」

 二度とこの場所に来ることはない。当然だ。わざわざ自分に悪意を向ける奴等に近づく馬鹿はいない。

「ヒューガ! 待ってくれ! もう少しだけ話を!」

「長老さんたちも元気で。ただもう一度だけ、僕が言ったことを良く考えて欲しい」

 長老さんたちの頼みを受け入れて、この場に残っても何も変わらない。僕はもうどうすべきかを話したつもりだ。それを受けて、どうするかはエルフが決めることだ。

「……すまん」

 長老さんたちもそれは分かっている。謝罪の言葉を背中に聞いて、扉のノブに手を掛ける。

「お前たちは終わり」

 背中から聞こえてくる物騒な言葉。でもこの声は?

「ルナ?」

「ヒューガは大森林の多くの精霊たちに愛されている人。そのヒューガに見放されたお前たちは」

「ルナ、怒ってるのか? でもそれはちょっと言い過ぎだ。もう良いから帰ろう」

「でも……」

「良いから」

「……分かった」

 了承を口にしながらもルナはエルフたちを睨みつけたままだ。こんなことになるなら、ここに来なければ良かった。ルナのこんな姿は見たくなかった。
 背後からルナを抱き上げて、そのまま扉を開けて足を踏み出す。一歩足を踏み出せばそこは僕たちの拠点だった。

 

◆◆◆

 とりあえず都で起きた出来事は、カルポには隠しておけない。ルナに頼んでゲノムスを通じて、鍛錬を切り上げて拠点に戻ってくるように伝えた。
 それに応えて、すぐに拠点に現れたカルポと先生。

「どうしたのですか? 随分と早いお戻りですね。しかもすぐに戻って来いなどと」

「問題が起きた」

「問題? 都で何か起こったのですか? それであれば私もすぐに戻らないと」

「いや、都が危険ということじゃない」

(危険だよ)

(ちょっとルナ、まだ怒ってるのか?)

(別に)

 「別に」なんて言って、明らかにルナは拗ねている。その理由は気になるが、今はカルポへの説明が先だ。

「どういうことでしょうか?」

「セレと長老以外の多くのエルフは、僕がここにいるのを認めたくないみたいだ」

「それは……」

「出て行けと言われた。大森林はエルフのものだと言っていた」

「それは違うのでは? 大森林はエルフのものではなく、精霊たちも含めて皆のものです」

「意外。カルポはいつの間にそんな風に考えるようになったんだ?」

 カルポも奴等と同じエルフ。性格は別にして、考え方はそう変わらないと想っていた。少なくとも出会った最初はそうだったはずだ。

「ゲノムスと話しました。とにかく色々なことを。言葉の伝達にはまだ苦労していますが、何となく精霊たちがそう思っていることを感じられるようになりました」

「そう。それは良かった」

 言葉ではなく感情が伝わるようになっていることのほうが良いことだと僕は思う。

「まだまだです。確信を持てるほどではありません。ただ何となくですから」

「それでもこの短期間でそこまでの関係になったんだ。大したものだ」

「そう言ってもらえると嬉しいです。でも今は私のことは良いです。出て行かれるのですか?」

「いや、そのつもりはない。この場所は精霊たちに許されている場所だ。精霊たちが出て行けというなら仕方がないけど、そうじゃないから」

「そうですね。それで正しいと思います。では問題は何でしょう?」

「カルポのこと。僕と一緒にいるとカルポはエルフの中で孤立する。下手すれば都に戻れなくなるかもしれない」

「……そうなりますか?」

「多分。奴らはエルフ以外が大森林にいることを認めるつもりがない。どこまでのエルフがそう考えているのか知らないけど、少なくとも会議に参加していた、セレと長老を除く全員がそういう考えみたいだ。会議に参加するってことはそれなりの地位なんだろ?」

 エルフのお偉いさんたちの意思がそうだということ。それがそのままエルフの意思になると僕は思っている。セレと長老さんたちには、その意思を変えられないと。

「地位……実際にはそんなものはないのですけどね? 王国があるわけではないのですから。ただ声の大きな人が自ら積極的に前に出てきているだけです」

「多くの場合、声の大きな人の発言が全体を決める。エルフの総意になるのも時間の問題だ。セレもそれが分かっているから何も言わなかったのだと思う」

「そうですか……」

「だからカルポは都に戻ったほうが良い。僕と同類と思われる前にね。今なら人族の世話をするのが嫌になった、で通じるはずだ」

「それは……」

 困惑した表情を見せるカルポ。この反応だけでカルポの誠実さが分かる。だからこそ迷惑をかけてはいけないと思う。

「巻き添えにしたみたいでゴメン。で、も今なら問題なく戻れるはずだ」

「いえ、ヒューガ様のせいではありません。でも、これからどうなるのでしょう?」

「さあ? それは相手次第だ。放っておいてくれるなら何事も起こらないだろうけど、あくまでも僕を追い出すつもりなら……」

 この場所に現れるはずだ。話し合いで済めば良いけど、さっきはいきなり攻撃してきたからな。

「ここには来られないよ」

 あまり自分から話すことのないルナが会話に入ってきた。

「それはどういう意味でしょうか?」

「ここはヒューガの為の結界。ヒューガに許されない者が近づける場所じゃない。近づこうとしたらルナたちが許さない」

 やっぱりルナはまだ怒ってる。可愛い顔で過激なことを言うルナってのは何と言うか……かえって凄味を感じる。でも……。

「ルナ、もう良いから。怒りに囚われてるルナを見るのはあまり気分が良いものじゃない」

「でも……あいつ等はヒューガを攻撃した」

「あいつ等なんて言葉は使わない。放っておけば良いんだよ」

「でも、向こうが攻めてきたら?」

「……その時は僕が戦う」

 無抵抗でいるつもりはない。僕はそんなに人間が出来ていない。

「ルナたちも戦う」

「ルナたちはエルフを攻撃するような真似をしちゃダメだ。精霊たちとエルフの仲が気まずくなる。それに実際の戦いは精霊同士になるじゃないか」

 エルフの攻撃手段は精霊魔法。それは精霊が攻撃してくるということだ。精霊同士が戦う場面なんて僕は見たくない。

「でも」

「そうだな……ルナたちは僕を守って。盾の役割と思ってくれれば良い。ただし、守るだけだ。エルフを倒すのは僕の役目」

「ルナたちは盾……じゃあヒューガが剣?」

「そういうこと。僕はルナたちがエルフを傷つけるのを見たくない。守ることに徹するってのも大変だと思うけど……僕の為だと思って我慢してくれないか?」

「……分かった」

 本当に分かってくれたかな?
 精霊であるルナたちがエルフに対して過激な考えを持つなんて、ちょっと驚きだ。僕の為……そういうことなんだと思う。そうであるなら、なおさらルナたちをエルフと戦わせたくない。僕のせいで精霊同士が戦うなんて事態になって欲しくない。

「じゃあ、そういうことで。カルポは……扉を使えるかな?」

「ヒューガが許せば」

「そっか。じゃあカルポが扉を使って都に帰ることを許可する。これで良いのかな?」

「……うん。でも片道だけ」

「……ルナ、結構用心深いんだな? そういうことだ、カルポ。準備が出来たらいつでも戻っていいから。元気で」

「……あの……残ると言う選択肢はありますか?」

「……カルポがそうしたいと言うのなら。でも、そんな選択したら他のエルフに会えなくなる。一人ぼっちじゃあ、色々と大変だ」

 まさかの言葉。正直嬉しい。でも今の僕に、カルポの人生を背負うことが出来るのかという思いもある。

「そうですね。でも、少し考える時間をいただきたいのです。ゲノムスとも話をしてみたいので」

「……それは良いけど。じゃあ僕たちは席を外すから」

「いえ、それは……」

「二人っきり、二人ってのは正しくないか。とにかく僕たちがいたら話しづらいこともあるだろうから」

「すみません」

「僕に気を遣わなくて良いから。カルポはカルポ自身のことを考えろ。じゃあな」

 最後にカルポにこれを告げて部屋を出た。先生はさっきから何も言わない。自分が関与することではないと思っているのだろう。
 恐らくカルポは出て行く。エルフは同族意識が強いって聞いてるからな。元々一人で鍛錬する予定だったのだ。何の問題もない。

(……ルナ、盗み聞きはダメ)

(……ちぇっ)

 なんか性格変わってきてないか?

◆◆◆

 自分のことを考えろ。ヒューガ様はそう言って部屋を出て行った。自分のことを考えるのならエルフの都へ戻るべきだ。なんといっても私はエルフなのだから。しかし、何故考える時間を下さいと言ったのだろう。その答えはきっとゲノムスが持っている。そう思ったのですけど……。

「ゲノムスはどう思いますか?」

「ん……」

「答えてくれませんか……でも、戻れとも言わないのですね?」

「ん」

「私が自分で決断すること。そう思っているのですか?」

「ん」

「そうですね。確かにその通りです。でも……私は迷っているのです。普通に考えればエルフの都に戻るのが当然です。あそこには仲間たちがいますからね? それなのに、私はその決断がすぐには出来ない。それはどうしてなのでしょう?」

 どう考えても変えるべきなのだ。仲間を捨てて、この場に残るなど本来あり得ないこと。でも、私は悩んでいる。悩むということは、そのあり得ない選択を求める気持ちがあるということ。

「……正しいから」

「正しい? ヒューガ様が正しいと言うのですか?」

「ん」

「ゲノムスはそう思うのですね。精霊たちにとってはヒューガ様のほうに大義があるということですか?」

「たいぎ?」

「言葉が難しかったですか? 精霊たちはヒューガ様を支持しているのですか?」

「ん」

 ゲノムスは肯定した……私はすごく大変なことを確認してしまったのではないでしょうか?
 精霊たちはヒューガ様を支持している。そうであるなら精霊たちの支持を持たないエルフはどうなるのでしょう?

「……精霊たちの支持を持たないエルフはどうなるのですか?」

「…………」

「答えられない? それは分からないのではなくて、答えると私が困るからですか?」

 なんとなくゲノムスが困惑している感じが伝わってきたので、聞き方を変えてみた。

「ん」

 それに対する答えは肯定。それはエルフにとっては良くないこと。

「エルフは……エルフはどうなってしまうのですか?」

「分からない。でも……」

「でも? その先を教えてくれませんか?」

「ルナたち怒ってる」

「ルナたちが何かすると……エルフを攻撃するという意味でしょうか?」

「それはしない。ヒューガがそれは駄目と言った」

「ああ、そうでしたね」

 ヒューガ様に駄目と言われれば、ルナたちは従うはず。少なくとも直接的な争いにはならない。

「ルナたちは守るもの。ヒューガは正しい」

「えっと……ちょっと意味が分かりません。でもルナたちがエルフを攻めることは間違いなくないのですね?」

「攻撃はしない」

「攻撃はしない……でも他の何かは行うのですね?」

 攻撃以外に何があるのか。恐らくゲノムスはそれが何であるかを知らない。

「ヒューガを守る為」

「そうですか……ヒューガ様はルナたちに深く愛されているのですね?」

 精霊たちが自ら結んだ相手の為に何かする。そんな話は聞いたことがない。私が若輩だから知らないだけなのか……かつての精霊たちはそういう存在だったのか……私はどうすれば良いのか……

「ヒューガ様は精霊たちにとってどんな存在なのでしょう? エルフではないヒューガ様が何故こんなに精霊たちに愛されているのか。ヒューガ様のお話を聞いていると分かるような気もしますが、それだけでここまで……」

「照らす者。明るく、暖かい」

「それは?」

「ヒューガは光。それに精霊たちは惹かれる」

 ゲノムスの言葉が妙に私の心を刺激する。すっと求めていて止まなかったもの。そんな想いが心の中に広がっていく。何故、自分にこんな思いが湧いてくるのか。

「……それがどんな意味なのか今の私には分かりません。でも……ゲノムスは私がどんな選択をしても、私に付いてきてくれますか?」

「ん」

「では私は……ここに残ることにします。ここに残ってヒューガ様を正式に主として仕えようと思います」

「いいの?」

「はい。それがエルフとして正しい在り方だと私の中の何かが訴えています。その感覚に素直に従おうと思います」

「カルポは正しい」

 ゲノムスが何故かこの私の決断に対しては、はっきりと断言した。言葉にしながらも、やはり不安に思っていた気持ちが晴れたような気がした。

「そう言ってもらえると少し安心します」

「ゲノムスたちも守るもの。カルポはヒューガを守るもの」

「私がヒューガ様を……そうですね。そうなれるように頑張ります」

 今の私にはとてもヒューガ様を守るだけの力はない。でもゲノムスがこう言うのだ。私はそうならなければいけないのでしょう。

「ゲノムスたちも頑張る」

「そうですね。では一緒に頑張りましょう」

「ん」

 仲間から離れることをこんな簡単に決めて良いのだろうか。長年一緒にいた仲間を捨てて、出会ったばかりのヒューガ様に仕えたいと思った。それが正しいことなのか。
 でもゲノムスは私の判断は正しいと言ってくれた。ゲノムスの言葉を信じよう。ゲノムスを信頼して、決して裏切らない。それが私の決めたことだから。