合宿所で一晩を過ごした後は、いよいよ本格的な調練が始まる。
初日は山頂に向かっての登山。いくつかの集団に分かれて、それぞれが決められたルートで山頂のゴールを目指すのだ。登山と言ってもそれなりに整備された道を進むことになるので、体力のある生徒にとっては遠足に少し毛が生えた程度のものでしかない。初日の行程とこれは体慣らし、と各生徒の体力を再確認する為のものなのだ。
他のグループも合わせて総勢三十名ほどになったジークたち一行が進んでいるのは、山頂に向かって最も左側のルート。三つの中では一番高低差の大きい山道だ。
それなりに幼い頃から体を鍛えているジークにとって何ということもないルートだが、歩く彼の表情は暗い。
(このルートは主人公が進むルートのはずだけどな?)
ジークの表情を暗くしているのは、これが理由だ。さらに公爵家の令嬢であるリーゼロッテには、もっとも楽なルート、右端が割り当てられるはずなのだ。
ゲームで主人公が一番辛いルートを割り当てられるのはリーゼロッテの小さな嫌がらせによるもの。そういった工作を何も行っていない現実では、ルートが異なるものになってもおかしくはない。ただ、それによってイベントがどう変化するかがジークの心配事なのだ。
まさかゲームシナリオ通りに、このルートを魔物が襲うことになってはイベントは全く異なるものになってしまう。現れる魔物はゴブリンの集団。しかも百体を超える、学生が相手をするには、大集団だ。
ゴブリンそのものは、それほど強い魔物ではない。冷静に対処すれば学生であっても倒せる。だが数が多い上に、ほとんどが実戦を経験したことのない生徒ばかり。混乱の中で、多くが我先にと逃げ出そうとしてしまう。
主人公たちがいれば、彼女らが怯える生徒たちを叱咤激励し、見事に撃退に成功するのだが、今この集団には主人公はいない。
(戦うとすればリーゼロッテ様を中心にしてだが……戦えるのか?)
集団の中で、もっとも実家の爵位が高いのはリーゼロッテ。ジグルスを始めとした取り巻きたちもいる。一度は去った取り巻きたちだが、幾人かは戻ってきている。ジグルスが頑張っているのを見て自分の行いを恥じ、戻ってきたのだ。そういう生徒たちだけなので、以前よりもずっとまとまりは良くなった。
他方、リーゼロッテのグループ以外は平民がほとんど。学院への入学を認められるくらいだ。実力はあるのだろうが、統率という面では適任者はいそうにない。
(今のウッドストックでは無理だろうしな)
この集団にはウッドストックという主人公の攻略対象者がいる。精神的に成長した後のウッドストックであれば、余裕で魔物に立ち向かうことが出来るだろうが、今はまだそうではないことをジークは知っている。気の弱さを克服してこその、主人公のパーティー候補なのだ。
さらにジグルスを悩ませているのはシナリオを知っているはずの主人公が何故、イベントを避けるような真似をしたのか。
(イベントで得られるのは……ただの経験値といえば、そうだけどな)
イベントの中には、特別な武器などを手に入れられるイベントもあるが、育成イベントである今回は、魔物との実戦という経験値を手に入れるだけのもの。それはそれで重要なのだが攻略という点ではクリアは必須ではない。ゲームとは異なり、現実世界で経験値がどれだけ大きな意味を持つのかも疑問だ。
そうだとしても他の生徒が魔物に襲われるかもしれない可能性を放置して、主人公が別ルートを選んだのだとすれば。やはり主人公に、近い将来に呼ばれる英雄には相応しくない人格だとジグルスは思う。
「……ク……ジーク……聞いているのですか? ジーク!」
「えっ? あっ、すみません。少し考え事をしていました」
「……きっとジークにはこの程度の山登りはなんともないのでしょうけど、それでも気を抜くのはいけないと思うわ」
「はい。反省します」
山登りに対してリーゼロッテは普段の、かつてのと言うべきかもしれないが、言動からは想像出来ない生真面目さを発揮している。ただ、性格だけが理由ではない。魔法においては希有な能力を見せるリーゼロッテだが、体力については常人よりも劣っている。こういうところはお嬢様なのだ。
「この先の予定はどうなっていますか?」
「そうですね……少し休憩を入れましょう」
予定を聞いてきたのは疲れている証拠。リーゼロッテは休みたいのだと判断したジグルスは休憩をとることにした。
「……もしそれが私だけの為であるなら気遣いは無用です」
だがリーゼロッテはそれを見抜いてしまう。見抜いた上で、それを口にしてしまう。
「そうですか……ではもう少しだけ頑張って下さい」
これで休憩をとっては、周囲はリーゼロッテの我が儘だと思ってしまうかもしれない。ジグルスは周囲の目をかなり気にしている。主人公やその取り巻きたちが何を騒ごうと、その他大勢である生徒たちにはリーゼロッテの真実の姿を知ってもらいたいのだ。
リーゼロッテの疲労を気にしながら、他の生徒にも気を配る。リーゼロッテ同様に疲れている生徒もいるかもしれない。そういった生徒には無理をさせるわけにはいかない。
気をつけて見ていると実際にそういう生徒はいる。登り降りが多いこのルートは女子生徒にはやはり辛いのだ。
「……大丈夫ですか?」
「えっ?」
突然、ジグルスに声を掛けられて女子生徒は驚きの声をあげた。
「あっ、驚かせてすみません。リーゼロッテ様が疲れている人がいないか気をつけるようにと」
「……だ、大丈夫です」
そう言われても疲れていますとは口にしづらい。
「そうですか……あまり無理はしないように。まだ先は長いですから、気を張らずに行きましょう」
「……ありがとうございます」
不思議そうな表情で御礼を告げる女子生徒。彼女は平民でジグルスは貴族だ。こんな低姿勢に出られる理由が分からない。
ジグルスはこの女子生徒以外にも声をかけていく。他の女子生徒の反応も同じようなもの。違いがあるとすれば、頬を赤く染めているくらいだ。
(……あの人、近くで見るとかなりの美形。どうして気付かなかったのかしら?)
ジグルスの姿はこれまで何度も見ている。リーゼロッテと主人公のやり合いは注目の的なのだ。その結果、常にリーゼロッテを庇い、その為には上級貴族相手でも立ち向かっていくジグルスは有名人になっている。特に女子生徒は「自分にも彼のような騎士(ナイト)が欲しい」などといって気にしている。
だがそのジグルスの容姿を褒める声を女子生徒は今まで聞いたことがない。表情に乏しく、少し冷淡な印象を与えるが、間違いなく美形であるのに。
「……あ、あの、クラーラさん。遅れるよ」
立ち止まっていた女子生徒、クラーラに掛けられた声。
「あっ、ウッドくん。そうね。行きましょう」
声を掛けてきたのはウッドストック。主人公の攻略対象であるはずの一人だ。ウッドストックに指摘されて、立ち止まっていたことに気が付いたクラーラはまた歩き出した。その隣に並ぶウッドストック。
「な、何かあった?」
「少し……彼が気になって」
「彼?」
「リーゼロッテ様の」
「あ、ああ。あの人か」
ウッドストックが視線を向けた先では、ジグルスがまた別の生徒に声をかけている。ウッドストックもジグルスのことは知っている。今はもう知らない生徒のほうが少ないのだ。
「……凄いよね、あの人」
ただウッドストックはジグルスに特別な、というと大袈裟だが、思いを持っていた。
「凄い? えっ、何のこと?」
「だって……あの人、エカード様相手でも引かない。貴族の頂点である公爵家に、こんな言い方したら怒られるけど、一番下の男爵家のあの人が反抗するなんて……勇気があるよね? 僕には絶対に無理」
ウッドストックはジグルスの勇気に憧れを抱いている。臆病であることを恥じている彼にはジグルスの強さが羨ましかった。
「そうね……でも、きっとそれはリーゼロッテ様の為だから出来ることよ。ウッドくんもそういう人を見つければ勇気を持てると思うな」
「ぼ、僕は……だって僕なんかじゃあ」
「あれ? ウッドくんはリーゼロッテ様にも憧れているの?」
「えっ? い、いや、違うよ! 僕はそんな……」
クラーラの問いに必死に否定を返すウッドストック。照れているのではない。クラーラの誤解を解きたくて必死なのだ。
「そんなにムキにならなくても。恥ずかしがることないよ。それに私も憧れているから」
「そうなの?」
「初めは嫌いだったの。でも彼がどうしてあそこまでリーゼロッテ様を大切にするのか不思議に思って」
「……それで?」
ジグルスが上級貴族に刃向かってまでリーゼロッテを守ろうとする理由は、ウッドストックも気になる。
「観察していて分かったことがいくつかある。たとえば傲慢に見えるリーゼロッテ様の態度は、実は規律を重んじているだけなの」
「規律……どういうこと?」
「上下関係をきちっとするってこと。秩序が乱れれば世の中が乱れる。大人になってから領主に逆らったらどうなる?」
「そうだけど」
問答無用で殺されることも珍しくない。だがそれもまた貴族の横暴。貴族が行いを改めれば良いことだとウッドストックは思う。
「リーゼロッテ様は決して平民である私たちに嫌なことはしないわ」
「えっ? だって、それは」
主人公には嫌がらせをしている。今はそういった行いがなくなったとしても、それは主人公にコテンパンにやられたからだとウッドストックは思っている。
「前からなの。ユリアーナという女子生徒の件は友達と調べてみたわ。結果分かったのは、揉め事の原因は彼女。彼女のほうからリーゼロッテ様に喧嘩を売ったのよ」
「嘘?」
「ほんと。リーゼロッテ様は確かに厳しい人だった。でもそれは秩序を乱すような真似をした女子生徒に対してだけ。貴族の女子生徒に対してだけよ。近寄りがたいのは誰に対してもだけどね」
「……他には?」
どうやら自分は思い違いをしていたとウッドストックは考えた。クラーラの話を全面的に受け入れるわけではないが、少なくともリーゼロッテに対して誤解があったのは間違いない。
「すごく照れ屋」
「はっ?」
「彼のおかげか、近寄りがたさが薄れているじゃない? あの女子生徒に負けちゃったのもあるかもしれないけど。とにかく、リーゼロッテ様をからかった男子がいるの」
「ひどいな」
かつては恐れていた相手に対し、自分が何かをした結果でもないくせに、態度を変えるのはウッドストックには納得がいかない。
「そうだけど、そのからかったネタが彼との関係で。それを聞かれたリーゼロッテ様は真っ赤になってしまって、それが凄く可愛かったって。からかった生徒がリーゼロッテ様のファンになるくらいに」
「それもどうかと思うけど……」
「とにかくリーゼロッテ様は思っていたよりも遙かに魅力的な女性ってこと。この機会にお近づきなりたいけど……」
クラーラにはリーゼロッテをからかった男子生徒のような図々しさはない。ましてジグルス以外の貴族の生徒に囲まれているリーゼロッテには近づきにくい。
「……そうだね。話す機会があると良いね」
クラーラの話だけでなく、自分自身で何を誤解しているのか確かめたいとウッドストックは思った。その機会はこの合宿中に訪れるのか。クラーラ以上に消極的なウッドストックでは、ただ待つことしか出来ない。
◆◆◆
適度に休憩を取りながらジグルスたち一行は山頂を目指して進んでいる。全体的にかなり疲労が溜まってきている。平地であってもこれだけの距離を歩くのは滅多にない。昨日の疲労も抜けきっていないところでの、これは生徒たちには厳しかった。
ジグルスもかなり疲労感を覚えてきた。ただ彼の場合は肉体的な疲労ではなく精神的なもの。いつ魔物が現れるかと、緊張状態を維持し続けてきたジグルスだが、さすがに辛くなってきていた。
「出てくるなら、さっさと出てこい」と内心で毒づくジグルス。すぐにこれを後悔することになった。
「あ、あれは?」
前を進む男子生徒が何かに気が付いた。
「……学院の生徒か? えっ、山頂から降りてきたってこと?」
そんなはずはない。高低差など難易度は異なっていても、そこまでの差は出ない。他の生徒の到着を待たずに下山するはずがない。
「来たか……」
ジグルスは他の生徒のような誤解はしない。人影が見えたのであれば、それは魔物だと判断した。そう思ってみれば、まだ距離は離れているが人間というにはかなり小柄であることが分かる。
「後ろに下がって」
「えっ?」
「早く下がって! あれは人間じゃない! 魔物だ!」
「なっ!?」「はっ!?」「なんだって!?」
ジグルスの言葉を受けて、あちこちから驚きの声があがる。すぐに指示に従おうとしないのは、事実だと受け止められていないから。
「ジーク! 今のはどういう意味ですか!?」
リーゼロッテもジグルスが発した言葉の意味を尋ねてきた。リーゼロッテもまた状況を理解出来ていないのだ。
「近づいてきているのは人間ではありません。魔物の集団です。よく見ればそれが分かるはずです」
「……魔物って……あの人影が全てそうなのですか?」
ジグルスの言う通り、近づいてくる黒い人影は人間のものではない。視認出来る距離まで近づいて来ているというのもあって、リーゼロッテにもそれが分かった。
「……リーゼロッテ様。後方に下がってください。リーゼロッテ様の守りを! 隊列を整えて後退しましょう!}
無理して戦う必要はない。そう判断したジグルスは他の取り巻きの生徒にリーゼロッテの守りを固めるように指示を出す。
「逃げるのであれば全員で逃げます! 皆の周囲を固めなさい!」
だがリーゼロッテはジグルスの指示を変えてしまう。他の生徒を取り巻きたちに守らせようとした。
「……リーゼロッテ様を連れて下がって! 早く!」
さらにジグルスが指示を改める。その理由をリーゼロッテはすぐに理解した。
「ジーク!」
「早くお逃げ下さい!」
「なりません! 逃げるのであれば全員で! 難しいのであれば私たちが殿を務めるのです!」
「リーゼロッテ様!」
リーゼロッテは「私たち」と言った。それは彼女もまた殿を務めるつもりだということだ。それを許すわけにはいかない。
「ジーク! 民を守るのは貴族の責務です! 私にその責務を放棄しろというのですか!?」
だがリーゼロッテも譲らない。貴族としての義務を果たそうとしている。
「しかし……」
「これは命令です。ジーク、戦えない生徒を守るのです。そして私には戦う力があります」
「……分かりました」
ジグルスは折れることになった。このまま言い合いを続けていれば、全員が逃げるチャンスを失うだけ。リーゼロッテの命令に従うしかなかった。
「皆には悪いけど死を覚悟してもらいます。良いですか? 必ず平民の生徒たちを守るのです。自らの命に代えてでも」
「「「……はい」」」
ここで嫌だと言うような生徒はリーゼロッテの下に戻ってきていない。死を恐れていないはずはない。本心ではすぐにも逃げ出したいと思っている。やせ我慢をしているだけだ。
「私たちも戦います!」
後ろから聞こえてきた声。クラーラの声だ。
「……貴女たちは早く逃げて下さい。ここは私たちが食い止めます」
「私たちも戦えます! 学院に戦えない生徒なんていません!」
クラーラの言う通りだ。平民の生徒は武力を認められたから学院に入学出来ているのだ。戦闘力という点でリーゼロッテの取り巻きに劣るものではない。
「でも」
「では一緒に戦いましょう。魔法が得意な生徒は後方に。剣が得意な生徒は前に出てきてください」
躊躇うリーゼロッテを遮って、ジグルスは生徒たちに指示を出す。ここまでくればもう戦うしかない。戦うのであれば少しでも戦力は多いほうが良い。
「第一陣は俺たちで。良いですね?」
取り巻き仲間たちに決意を求めるジグルス。もっとも危険な第一陣を担うのだ。命の保証は出来ない。ジグルス自身も含めてだ。
ジグルスの問いに仲間たちは大きく頷くことで応えた。
「では魔法での攻撃と同時に突撃をかけます。ご武運を」
「「「ご武運を」」」
「あ、あの……僕も行きます」
いざ前に出ようとしたジグルスたちに声を掛けてきたのはウッドストックだった。ウッドストックにとっては、これまでの人生の中でもっとも勇気を振り絞った瞬間だ。
「……貴方はここにいて下さい」
「で、でも……僕は……」
ジグルスの言葉に落ち込むウッドストック。勇気を振り絞って同行を志願したのに拒否された。自分は必要とされていない。そう受け取ったのだ。だがそれは間違いだ。
「貴方にはお願いがあります」
「えっ?」
「今、貴方が立っているその場所。その場所から後ろに一匹の魔物も通さないでください」
「……い、一匹も?」
頼られていないどころか、ウッドストックにとってはかなり無理な要求。役割を与えられた喜びよりも動揺のほうが強かった。
「後ろにいる仲間を守って下さい。貴方がいると思えば、俺たちも余裕を持って戦える。貴方が頼りです」
主人公の攻略対象者であるウッドストックだ。これを任せられるくらいの力は、余裕であるとジグルスは考えている。
「ぼ、僕は……」
だがウッドストック本人にはそんな自信はない。任された役割の重さに怯えている。
「……貴方なら出来ます。いえ、貴方にしか出来ない仕事です。ウッドストックくん、俺は貴方を信じています」
「僕の名を……分かりました。やってみます、いえ、やります!」
「任せます! では、行きましょう」
ハッとするような笑顔を向けたあと、仲間たちと共に駆け出していくジグルス。そのジグルスの背中をウッドストックは見つめている。
自分に向けてくれた笑顔は信頼の証。それ以前にジグルスは自分の名を知っていてくれた。彼の信頼に応えなければならない。決して裏切ることは出来ない。
いつもであれば追い込まれて萎縮する心が、今はなぜか高揚している。重い責任を負わされたことに喜びを感じている。
「……う、うぉおおおおおっ!」
雄叫びをあげて、ウッドストックは近くに立っている中では細い木を選んで、力任せにへし折る。武器として使う為だ。それを両手で持ち、左右を見て自分の立ち位置を確かめる。ここから先へは一歩も行かせない。心の中でそう誓った。
◇◇◇
後方集団から一斉に魔法が放たれる。中でもやはりリーゼロッテの魔法は突出している。放たれた巨大な火の玉は魔物に向かって飛んでいく。そのまま魔物の群れに直撃するのではなく、空中でいくつにも分裂した火の玉が頭上から降り注いでいく。
「そんな……」
だが魔物は止まらない。それを見た前衛の生徒たちに動揺が走る。
「冷静に。あれは倒せなかったのではなく、倒さなかったのです」
そんな彼等を落ち着かせようとジグルスが声を掛ける。
「どういうことだ?」
「良く見て下さい。魔法を受けた魔物の動きはかなり鈍くなっています。あれなら目をつむっていても勝てます。そこまで余裕を見せる必要はないので、普通に戦うことをお薦めしますけど」
「……なるほどな」
ジグルスの冗談交じりの説明を聞いて、生徒たちは少し気持ちが落ち着いてきた。
「魔物はざっと百。こちらは全員で三十います。一人、三匹。楽勝だと思いませんか?」
「三匹……そうか、それだけか」
さらに一人当たり三匹の魔物を倒せば良いのだと聞いて、気持ちに余裕が生まれる。実際にそうなのだ。後方の生徒を含めて考えれば驚異となるような数ではない。冷静になれば対処出来る。
「集団に囲まれなければ大丈夫です。距離を広げないようにして、固まって戦いましょう。少しくらい後ろに逸らしても大丈夫です。ウッドストックくんがなんとかしてくれます。リーゼロッテ様の魔法もありますし」
「「「分かった」」」
お互いの距離を縮めて、臨戦態勢に入る生徒たち。そうしている間にも後方から飛来した魔法が、魔物たちにダメージを与えていく。後ろの生徒たちも落ち着きを取り戻したのだ。命中率があがっている。
「……さあ、来い!」
目前に迫ってきた魔物の群れ。それに向かって一斉に剣が振り下ろされた。