月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #34 魔族の視点

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 ヒューガくんの鍛錬を始めて一週間。鍛錬の内容は変えていません。土台をしっかり作らないと本当の意味での強さなど手に入りませんからね。
 ヒューガくんは文句を言いながらも、地味な鍛錬を黙々とこなしている。本質的に努力というものが好きなのかもしれませんね。それに楽しみを見つけるのも得意な様です。教えられた方法だけでなく自分なりに考えて色々と工夫をしている。それにしても、やはり異世界人というのは……

「こんな感じかな? ……もう一度確かめてみるか」

 基礎体力はともかくとして、たった一週間でヒューガくんの技術はかなり進歩している。普通では考えられない早さで。
 その理由はヒューガくんが今やっている方法のおかげですね。魔力を循環させる事で体内の動きを確かめている。
 見えない部分もこうすれば分かる、とヒューガくんは言いました。言われて初めて理屈が分かりました。魔力を使って自分自身の体を探査している感じなのでしょうね。しかも最初の内は、特定の部分を確認していたのが、徐々に広い範囲を一度に確認する術を身につけているようです。
 おかしな所を魔力で見つけて修正していく。それを繰り返すことで無駄な動きがどんどんそぎ落とされている……恐ろしいですね。たった一年では、と思っていましたが、技術だけなら十分な期間かもしれません。
 これは魔王様に報告をしておかないとですね。今回召喚された異世界人が皆こんな真似が出来るなら、勇者の成長はこちらの想像以上のものになるはずです。魔王様の予測を上回る事態。時代のせいなのでしょうか?
 それだけではありません。ヒューガくんはこのやり方を鐘の二刻の間、連続ではないにしろ続けている。魔力の絶対量は私が見た感じそれほど驚くものではないはず。
 ではどうして、こんなに長い間。身体強化の魔法を使い続けていられるのか。これもパルスとの戦いを行う上で重要な情報ですね。仕組みを確かめておく必要があります。

「さて今日はこのくらいで良いでしょう」

「もう?」

「すでに鐘の二刻は経っているはずですよ。十分です。それにまだやる事が残ってるでしょ」

「そんなに? 分かった。じゃあルナ。始めようか?」

「分かった」

 ルナちゃんも成長していますね。短期間の間に随分と体が大きくなりました。これはどういう理屈なのでしょう。精霊が鍛錬をするわけではないでしょうし……。
 しかし髪の色は違うにしても本当に姫に似てますね。もう少ししたら、出会った頃の姫くらいに成長するかもしれません。なんだか楽しみになってしまいます。
 そういえば姫は元気でやっていますかね。少し顔を見たくなってしまいました。

「ルナ、今日はどこまでいける?」

「うーん。ここを半分覆うくらいかな?」

「そんなに? 急ぐことはない。二人で生活するには今でも十分なんだから」

「全然平気。ルナたちも大きくなった」

「……そうだな。大分成長した。もしかしてルナたちはまだ増えているのか?」

 増えている? 契約している精霊の数が増えているって事なのでしょうか?
 ……理屈は合いますね。ルナちゃんの体は一人の精霊のものではなく、結んでいる全ての精霊のもの。数が増えれば大きくなる。そういうことですか。

「うん。誘ったら皆、ルナになりたいって。一応ヒューガが大丈夫な数にしてるよ」

「ああ、気を遣わせて悪いな。仲間にしてあげられない精霊たちにも謝っておいて」

「そんな事言うと仲間になりたい精霊たち増えるよ」

「えっ? そうか? でも断ってるのは事実なんだろうから、謝ったほうがいいだろ?」

「そうだね」

「さて行きますか」

「うん」

「……あの?」

 邪魔をするのは申し訳ないのですが、ちょっと知りたい事が出てきました。

「何?」

「一つ教えてもらっていいですかね?」

「……答えられる事であれば」

「魔力についてです。魔力の絶対量でいえばルナちゃんたちの方が多いですよね? それなのに何故ヒューガくんの魔力を使うのですか?」

「……何でだ? 僕には分からない。ルナ、答えられる内容なのか、今の質問?」

「説明が難しい」

「大体で良いですよ。これはただの興味本位の質問ですから」

「皆で魔力を使うと無駄が多い。でもヒューガを中心にすれば集中できる」

「……普通の精霊魔法は」

「それは答えられないな。精霊魔法はエルフの武器だ。相互不干渉の協定を結んでいるとはいえ、他種族に勝手に教えて良い内容じゃないと思う」

「……そうですね」

 こういうことにはヒューガくんは鋭いですね。別にエルフと敵対する予定はありませんが、エルフにとっては重要な情報ですからね。
 まあ、なんとなく推測出来ますけどね。精霊魔法はエルフが精霊の力を借りて発現するもの。実際に魔法を行使しているのはエルフではなくて精霊なのですね。エルフは多くの精霊を統率しているだけ。統率が乱れれば魔法の威力は落ちる。でもエルフ自身を通して精霊魔法を行使すれば、行使する者の意思はひとつ。無駄はない。こういうことなのかもしれません。
 仮にそうだとすると、エルフは私たちが知っているエルフよりもっと強い存在になる可能性がありますね。これは……退屈しませんね。新しい発見が次々と出てきます。間者として新しい情報を入手することは、それがどんな内容であれ実にうれしい事です。ヒューガくんの先生を引き受けて正解でしたね。

「もういいか?」

「ええ、邪魔してすみません」

「よし、じゃあルナ始めてくれ」

「うん」

「…………」

 ヒューガくんの体が魔力の光を帯びる。何度見ても綺麗ですね。白銀に輝くヒューガくんの体。光によって繋がっているルナちゃんの体も輝きを増している。
 ヒューガくんの体から幾筋にも伸びた光の線が辺り全体に広がっていく。それと同時に空間に浮かび上がる白銀の光線。それらが交差し、絡み合いながら、その範囲を徐々に広げていき、拠点を半分程覆ったところではじけるように光が強まって、消える。
 確かめる為に広がったはずの場所に歩を進める。結界の境界線であるはずの場所。そこを抜ける時にわずかな抵抗を感じる。意識を強く集中していないと感じられない程の感覚ですがね。

「上手くいったようですね?」

「……そう」

 元の場所に戻って座り込んでいるヒューガくんに成功を告げる。ヒューガくんはいつものように魔力切れ状態。
考えてみれば、これも精霊魔法の一種だとすると無詠唱ってことになるのですかね。
 精霊魔法を無詠唱。これも脅威ですね。精霊魔法は威力は高いが詠唱に時間がかかる。知識があれば詠唱によってどんな魔法を行使するつもりかもわかる。
 エルフの戦い方は原則として奇襲や遠距離攻撃。それはこの欠点を補う為なのですが、無詠唱であれば……軍事的に考えれば協定を相互不干渉から一歩進めるべきなのでしょうかね?
 現時点でいえば魔族以上に存続の危機にあると言えるエルフですが、彼らがこれに目覚めれば、少数でも質としてはかなり高い戦力になりえます。そして、その中心にヒューガくんがいたら。
 魔王様が先生役を許可したのは、これを予測してのことなのでしょうか?
 違うのでしょうね。あの方は他人を戦いに巻き込むことなど望まない。異世界人への同情、それが一番でしょう。

 

「さて、今日のところはここまでですね。食事にしましょうか?」

「はあ、食事の準備か……お手伝いさんでも欲しいところだな」

「……いる」

「おや?」

 目の前に突然現れたのは、黄色く輝く光。ぼんやりと人の姿を取っているそれは、精霊なのでしょうね。

「どうした? ゲノムス」

 ヒューガくんはこの精霊を知っているようですね。

「ん」

「何か用か?」

「……ヒューガ忘れてる」

「忘れてる? 何……あっ」

「どうしたのですか?」

「忘れてた。付いてくる予定のエルフが一人いたんだった」

「エルフですか? 大丈夫なのですか? 私と会って」

「それはエルフのほうで確認した。あくまでも僕の客人ということで協定には抵触しないって解釈らしい」

「……まあ会うことを許さないわけではありませんからね。でもここは大森林です。外の世界よりも協定のしばりは強いと思いますよ」

「大丈夫。それも確認済。ルナが教えてくれたから信頼できると思う」

「……そうですか。ならば良いのですが」

 ルナちゃんに聞いたということで少し不安に思ったのですが、ヒューガくんは確信を持っているようなので信じることにしましょう。

「それで? ゲノムスはカルポに言われてきたのか?」

「ん。探してって」

「……探す必要ないよね? ゲノムスは僕がここにいるって知ってるじゃないか」

「カルポは知らない」

「ああ、それを聞く前にゲノムスに頼んだのか。会話うまくいってないんだな」

「慣れてない」

「そうだな。まあ、そのうち問題なく話せるようになる。それでカルポはここに来るの?」

「いいか?」

「始めからその予定だ。問題ない」

「結界……」

「許可してなかったか……完全に忘れてた。ルナ、どうすれば良い?」

「ヒューガが招けば平気。お客さんとして」

「じゃあそうしよう。ゲノムス、そういうことだ。カルポをここに招待する」

「ん」

「どうやって連れてくる?」

「今呼ぶ」

 ヒューガくんに、ゲノムスと呼ばれている精霊がそう告げた途端に、黄色い光の玉が現れる。その光が収まるとそこには一人のエルフが立っていた。
 転移魔法。随分と簡単にやってのけましたね。

「えっ? えっ?」

 転移させられた本人は何だか驚いてますね。転移魔法に慣れていないのでしょうか?
 黄色い髪の男性のエルフですか……。

「よく来た。ここが僕たちの拠点だ」

「ヒューガ様……ひどいです。私ことをすっかり忘れていましたね?」

「……ずっと気を失って寝てたんだろ? いつ気付いた?」

「今日です。大変だったのです。目を覚ましてすぐにセレネ様や長老たちに責められて。そばに付いていろと命令されたのに居場所も知らないとは何事かと」

「悪い。じゃあ早速だけど食事の準備を手伝って」

 ヒューガくんは、このエルフに対しては少し当たりが強いですね。口調も少し違っているようです。どういう理由なのでしょう? 遠慮することなく手伝いを頼むというのは、上下関係の存在を受け入れていると考えるべきですか。

「……もう少し説明とかはないのですか?」

「必要? そうだな。カルポの部屋は僕の隣にしょう。建物はあれだ。入り口から二番目、左側の部屋だな。散らかってるから適当に自分で掃除するように。水場は見えるだろ? あれだ。あと食料はあの小屋みたいな建物に置いてある。元々そういう目的で作られていたみたいだ。わずかだけど魔力の痕跡が残っていると先生が教えてくれた。食糧を長持ちさせる魔法だな。今はもうほとんど効力はないから、日持ちしないぞ。あとは……」

「あの、そういうことではなくて、ここで何をするのですか?」

「……鍛錬って言ったろ?」

「どんな?」

「明日になれば分かる」

「明日ですか?」

「カルポも参加するんだろ?」

「私がですか?」

 ちょっとヒューガくん。勝手に生徒を増やさないでください。ついでだから別に良いですけど。しかし、このエルフに付いてこられますかね?

「当たり前だ。ここは鍛錬する為に用意した場所だ。それ以外何をするんだ?」

「色々とお手伝いを」

「……カルポはこの場所で生きて行けるのか?」

「初めての場所ですのではっきりとは。でも都よりは外縁に近いですよね?」

 このエルフ、そうは見えないが強いのですかね? それとも大森林ではエルフに特別な加護があるのでしょうか。

「そっか。ガルポは大森林で生活してるんだよな。聞く僕が間違えていた」

「いえ、気にしておりません」

「じゃあ、気が向いたら参加して。よし、食事だな」

「……あまり料理の心得はないのですけど、どんな食事を作るのですか?」

「僕だってない。食事といっても簡単なものだ。今ある食材は双頭の熊の肉、それと木の実と食べられる草だな。料理といっても肉を焼くのと、簡単なサラダだ」

「……今、何と?」

「ああ、サラダと言っても分かんないか。生で野菜を食べるだけだ」

「いえ、その前です」

「……何のこと?」

「食材です」

「双頭の熊と……」

「それです。双頭の熊というのは、頭が二つある熊ですか?」

「……それ以外に何がある?」

「白い体毛で背の高さは私の3倍くらいでしょうか?」

「なんだエルフも食べていたのか。へえ、やっぱここのエルフは強いんだな。狩ったのは先生だ。僕は正直勝てる気がしなかった」

「……食べません」

「ん? じゃあ何の為に狩るんだ? 毛皮目的か?」

「……狩りません。見つけたら真っ先に逃げます。あんなのをどうやって倒すんですか? 巨体なのにとてつもなく早く動く。体は鉄のように固い。力は言うまでもありません。腕の一振りで頭が飛びます。しかも咆哮ひとつで体が動かなくなってしまう。勝てるはずがありません」

 そうでしょうね。あの魔獣は結構強かったですから。あの固さが問題ですね。私の剣でなければ傷をつけることも出来ないでしょう。
 ふむ、私が感じたこのエルフの強さに誤りはないようですね。

「そうか……じゃあカルポも鍛錬に参加決定だな」

「なんで鍛錬の話になるのですか?」

「だってその熊、ここにいれば毎日のように見れる。結界の外をうろうろしてる。それに勝てなければ結界の外に出れないだろ? じっと籠ってるなんて退屈じゃないか。だったら一緒に鍛錬していたほうが良いだろ?」

「毎日……他にはどんなのがいるのですか?」

「サーベルタイガーみたいに牙の長いでっかい狼。尾が三本にわかれている狐。これは魔法みたいなのを使うな。一度電撃みたいので結界を攻撃してきた。あとはとてつもなくでかい蜘蛛。あれは気持ち悪かった。犬位の大きさの蟻の大群も見た。こうして考えると一週間で色々なのを見てるな」

「双頭熊の他に剣刃狼、雷狐、山蜘蛛、軍蟻ですか……何でこんな所を選んだのです?」

「ルナが薦めてくれたから。実際、建物もあって便利だ」

「今言った魔獣はここより深部にあるエルフの都周辺には出ません。一番強いとは言いません。もっともっと恐ろしい魔獣は存在していますからね。それでも大森林の中で上位の強さです」

「そうなのか? でもここ元々は砦だと思うんだけどな。そんな危険な場所に拠点を?」

「自然とそうなったのではないですかね?」

 ただの推測ですけどね。恐らくは間違っていないと思います。

「どういうこと?」

「普通は奥地のほうが強い魔獣が出没する。でも最奥地のほうにあるエルフの都周辺は結界の力が強いのではないですか? だからそういうものに敏感な賢い、つまり強い魔獣ですね、それらは都周辺を避ける。ここはエルフの都の結界が及ばない中ではもっとも奥地なのかもしれません。そして結界が及ばないぎりぎりの場所であるからエルフは拠点を作った」

「なるほどね。状況としては限りなく真実に近い気がする。ここの魔獣はかなり強いのか……ということはここの魔獣と戦えるようになればある程度は大森林を動けるようになるわけだ」

「簡単に言わないでください」

「……そうじゃないと不便だろ。よし分かり易い目標が出来た。鍛錬のやりがいが増えたな」

 ヒューガくんは前向きですね。この近辺に出没する魔獣とですか。一対一での話をしているのではないですね、恐らく。
 それは私を超えるって事に気付いているのですかね……面白い子です。頭が良いのは話していて直ぐに分かる。それでいて妙に抜けている所がある。価値観がずれているのですかね。それとも見ているものが人とは違っているのでしょうか。普通であれば己を知らないと言われるところでしょうけどね、彼なら届いてしまうように思えるのは何故でしょう。

「話はもう良いだろ? 食事にしよう」

「……はい」

「……カルポ」

 食材置き場に向かうかと思われたヒューガくんが、立ち止まってカルポくんのほうをじっと見ている。何があったのでしょう。

「何ですか?」

「手ぶらで来たのか? 着替えもなしってさすがにどうなんだ?」

「あぁ! ベッドから急にここに飛ばされてきたから何も持っていません。着替えどころか武器も……」

「はあ、しょうがないな。都に戻るか?」

「戻れるのですか?」

「聞く相手を間違ってる」

「……そうでした。ゲノムス、私戻れますか?」

「……戻れる」

「じゃあ、お願いします」

「……ん」

「ちょっと待った。ゲノムス、無理してないか? さっき転移させたばかりだろ」

「ん。カルポのお願い」

「無理してんだな」

「戻るくらいは大丈夫」

「ほんとか?」

「ほんと」

「……じゃあ、都に戻ってこっちに来るのはゲノムスの力が戻ってからだな」

「…………」

「結んだ相手の言うことが優先か。カルポ良いよな? それで」

「でもそれではまたセレネ様たちに怒られて……」

「そんなのどうでも良いだろ? 自分のことよりゲノムスのことを考えろ。お前全然分かってないだろ? なんでエルフが今こんな状況か」

「……そうでした。すみません」

 なんとも不思議な光景ですね。プライドの高いはずのエルフが、ずっと年下のヒューガくんに怒られて、素直に謝っている。ヒューガくんが特別なのか、カルポくんが特別なのか。両方ですかね。

「わかったら今度からちゃんとしろ」

「はい。気を付けます」

「気を付けるような事じゃないと思うけどな。普通に接してればそうなるだろうに。まあいいや。じゃあせっかく戻るんだから色々と持ってきてくれ」

「何をですか?」

「まずは香辛料。最低限、塩だな。塩味がないと料理が全然うまくない」

「塩ですね」

「そんな簡単に引き受けて良いのですか? 塩は貴重なものでしょう?」

 少なくとも結界内には海はありません。塩は貴重品であるはずなのに、カルポくんはあっさりと了承を返しましたね。

「大丈夫です。ここでは塩はそれほど貴重なものではありません」

「取れるのですね?」

「…………」

 回答なしですか。まあ、沈黙が答えです。採取出来るのですね。

「……後は、大工道具」

「それは……」

「無いの? じゃあ、あったらで良い。あとは……ゲノムス、布団って転移させられる? 三組だから結構量多い」

「……頑張れば」

「そっか。無理はさせたくないな。じゃあルナお願いできるか?」

「出来るけど……」

「問題あるのか?」

「ルナたちも忙しい」

「忙しい? 何かしてるのか?」

「扉開けてる。もう少しで一つ開く」

「ああ、前に言っていたやつか。それってどこと繋がるんだ?」

「都」

「おっ、いいじゃないか、それ。それが開けば苦労しないで物運べるんだよな?」

 なるほど、転移門が大森林には存在しているのですね。まあ当然ですか、これだけの広い領域。それがなければ不便ですからね。

「うん」

「ちゃんとルナも考えてくれてたんだ、この拠点の事。えらいな、ルナは」

「ふふ。褒められた」

「笑った?」

 カルポくんが驚いてる?

「なんだ? ルナが笑うとおかしいのか?」

「精霊に感情があるなんて初めて知りました」

「……なんだかな。獣だってあるんだから精霊にあるのは当たり前の事だろ」

 ふむ。これはどういうことなのでしょうね。エルフよりもヒューガくんの方が精霊を理解しているように聞こえるのですが。

「ゲノムスも笑えるのですか?」

「ん」

「笑ってくれないのは私が喜ばせてあげられなかったからですね」

「…………」

「すみません。ゲノムスのことをちゃんと知ろうとしないで。これからはもっとゲノムスのことを考えるようにしますから、これからもお願いします」

「ん」

「……じゃあ、布団は扉が開いてから。それまでは我慢すること。カルポは一旦、都に……」

「いえ、大丈夫です。私も扉が開いた後に取りにいくことにします」

「……良いのか?」

「はい。ゲノムスに無理をさせたくありません」

「じゃあ、そういう事で。……さて、今度こそ食事にするか?」

「はい。準備しましょう」

 ……もしかしてエルフは変わろうとしているのでしょうか? さっき考えていた精霊魔法の仕組み云々ではなく、エルフとしての在り方が。
 そのきっかけとなるのはヒューガくん。魔王様が現れて一部の魔族が変わったように、ヒューガくんが現れたことでエルフが変わる。
 異世界人というのはこの世界にとって、そういう存在ということですかね。