月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #31 意外な巡り会い

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 目の前に立っているのは得体のしれない人間。人間といって良いのだろうか。その人の顔はヒューガには何故かぼやけて良く見えない。
 ルナたちが強い人を見つけたとヒューガに告げてきた。大森林にそんな人がいるのかと驚いたが、鍛錬に行き詰っているヒューガにとっては渡りに船。深く考えることなく会ってみたいと言ったのだが――

 まさか、いきなり目の前に連れてこられるとは思っていなかった。転移魔法のようなものだと思うが、その仕組みなどヒューガに分かるはずがない。ヒューガの意思で使われた魔法ではないのだ。
 だがとりあえず今は魔法の仕組みよりも現状をどうするかだ。

「えっと」

「ヒューガくんですね?」

「……僕のことを知ってるの?」

 ルナたちが見つけてきた相手はヒューガのことを知っていた。ヒューガにとっては驚きだ。目の前の人物に会った記憶などまったくないのだ。
 実際は顔が良く見えていないので、会ったことがあるかどうかの判断も出来ないのだが、こんな不思議な人物に会っていないのは間違いない。

「ええ、こうしてちゃんと向き合うのは初めてですけどね。貴方のことは知っています」

「……どこで僕を?」

 ヒューガに覚えがないのは当然。面と向かって会うのはこれが初めてなのだ。

「パルスの王城で」

「パルスの人? いや、そんなはずないな。お前……魔族だろ?」

「その通り」

「魔族が何で僕を? ああ、ディアの関係か?」

 魔族との繋がりがあるとすればクラウディア以外はあり得ない。

「ええ、姫が心配でちょっと見守っていたのです。そこに貴方が現れた」

「見守ってたって……それってまさか?」

 人知れずクラウディアの側にいた。それは少し形を変えた、いや、そのままストーカーではないかとヒューガは思う。そう思ってしまうと自然と睨むように相手を見てしまう。

「誤解しないでください。私はちゃんとレディーに対する礼儀はわきまえています」

「……本当か?」

「本当です」

「……まあ、いいや。それでその魔族がなんで大森林に?」

「それはこっちの台詞です。ちょっと様子を伺おうかと思っていたところに、突然目の前に貴方が現れたのですからね」

 魔族の側もヒューガにこのような形で会う為に大森林に来たわけではない。間者として探る相手と面と向かうのは不本意だ。

「ああ、それは僕も想定外だ。強い人間が現れたって教えてもらって、何も考えずに会いたいって言ったら、いきなり連れてこられた」

「連れてこられた?」

「精霊に」

「……貴方、精霊と契約したのですか? エルフでもないのに」

「まあ」

「まったく貴方という人は、考えていた以上ですね。大森林に入って何をしているかと思えば、まさか精霊魔法を身につけているとは」

 エルフ以外が精霊と結ぶことは魔族にとっても驚くべきこと。相手の反応であらためて自分は非常識なことをしたのだとヒューガは分かった。ただ魔族は一つ勘違いをしている。

「……身につけてはいない」

「はっ? どういう意味ですか? 精霊と契約したのですよね?」

「契約というより友達になった? 精霊魔法をどう使えばいいのか知らない」

 精霊魔法など身につけた覚えはヒューガにはないのだ。

「……じゃあ、何のために契約したのですか?」

「だから契約じゃなくて友達。仲良くしたいって言ってくれたから、そうしただけだ」

 目的があって結んだわけではない。相手が望み、自分もそれを受け入れた。それだけのことだ。

「……貴方はいったい何をしているのですか? そんなことで姫を迎えに行けると思っているのですか?」

「姫ってディアのこと? まあ、それを言われると一言もない。実際この先どうしようか困ってる」

 これからのことはまだ決まっていない。大森林に来た。かなり厳しい場所なので、そこで生き抜ける力が必要だと考えた。強くなろうとしている。ここまでだ。

「はあ……貴方がこんな体たらくだと知ったら姫がどう思うか」

 わざとらしくため息をつく魔族。ただ言っていることは本心だ。

「ディアと会ってるの?」

「まさか。魔族が姫に会うわけにはいかないでしょう」

「でも、ディアは……そう言えばディアは何処にいるんだ? お前知ってるんだろ?」

 自分がここにいることをこの魔族は知っていた。そうであればクラウディアの行方も知っているのではないか。そう考えてヒューガは彼女の居場所を尋ねた。

「ああ、貴方は姫がどこに行ったかまでは知らなかったのですね。割と近くにいますよ」

「王都ではないってことか? じゃあどこに?」

「うーん。どうしましょうかね?」

「勿体ぶるな」

「でも姫の居場所を知ったら貴方、会いに行こうとするでしょ?」

「それは……」

 会いたいという衝動を抑えきれる自信はヒューガにはない。

「今の貴方が姫に会っても何も変わりませんよ。それは分かっているでしょう?」

「それはそうだけど……」

「やはり教えられませんね」

「そんなこと言うなよ。別にすぐに会いに行かなければいいんだろ?」

 ふてくされたような口調で話すヒューガ。クラウディアの居場所を言っている人に会えたのに、その相手は教えてくれない。この苛立ちがヒューガにこんな態度を取らせている。

「うーん。でもね」

「……じゃあ、こうしよう。俺はすぐにはディアに会いに行かないと約束する。その代わり、お前は俺にディアの居場所を教えろ」

「なるほど、それであれば……って言うはずないでしょ? 全然条件が釣り合っていませんよ。そもそも居場所を知らなければ貴方は姫に会いに行けないではないですか」

「なるほど馬鹿ではなかったか」

 残念ながら魔族は引っかかってくれなかった。ヒューガ自身もそれほど期待していたわけではない。引っかかれば儲けもの、くらいの思いつきだ。

「馬鹿? 私に向かって馬鹿と言うのですか貴方は」

「じゃあいいや。ディアの居場所は自分で探すことにする」

「探せるのですか?」

「だって近くにいるんだよね? 俺一人では無理でもルナたちに協力してもらえば見つけられるかしれない」

 魔族は十分にヒントを与えている。危険な地とされている大森林の近くにある街や村の数は、西部に限っての話だが、そう多くはないのだ。

「ルナたち? 誰ですか、それは?」

「俺が結んだ精霊」

「……もういいです。何で貴方はそんな常識はずれな真似を平気で出来るのです? 精霊に名前を付けるなんて、下手すれば貴方、廃人ですよ?」

「ああ、それについては既に怒られてる。それで結局、お前は何しにここに来たんだ?」

 名を与えたことについてはセレに、ヒューガの感覚ではこれ以上ないほど、しつこく怒られている。この話題はもう飽き飽きなのだ。

「貴方が生きているか確かめに来ただけです」

「じゃあ、もう用は済んだ」

「ええ、そうですね」

「じゃあ、暇?」

「……どうしてそういう質問になるのですかね?」

「だってお前ディアのことをずっと見てたんだろ。その時間があったってことは暇じゃないか」

 ずっとストーカー行為をしていられる時間があったのだ。暇でないはずがないとヒューガは考えている。

「……私は間者の任務も帯びているのです」

「間者が自分を間者って言って良いの?」

「貴方が言わせたのでしょ?」

 なんだか調子が狂う。ヒューガと話している魔族は、ずっとこう感じている。この世界の人族にはない馴れ馴れしさがそう思わせているのだ。

「じゃあ、パルスに戻るの?」

「その予定はありませんね」

「じゃあ、暇じゃないか」

「だから……はあ、もういいです。それで暇だったら何なのです?」

 魔族の根負け。暇であることを否定するのは諦めて、ヒューガの話を聞くことにした。

「お前強いんだよな?」

「……少なくとも今の貴方よりは遙かに強いと思いますよ」

「じゃあ、どうすれば強くなれるか教えて」

「何で私が?」

「僕が生きているか確かめに来たってことはいつか僕がディアの所に行くのを望んでいるってことだ」

「望んでいるという言い方はどうかと思いますけどね? 姫の望みは叶って欲しいとは思ってますよ」

 魔族が望んでいるわけではない。それはクラウディアの望みであるから叶って欲しいと思っているだけだ。

「その為には僕は強くならなくてはいけない」

「個人の強さだけが必要ってものではないと思いますが?」

「それは僕も何となく分かってる。でも最低限、ここで自由に動けるくらいにはならなければいけない。お前はこの大森林で問題なく生きていけるくらい強いのか?」

「……それは微妙ですね。大抵の魔獣は倒すことは出来ると思いますけど、手に負えない存在もここにはいます」

 魔族であっても勝てるとは言えない魔獣が大森林にはいる。そういう場所なのだ。

「たとえば?」

「分かり易いので言えばドラゴンの上位種ですね。一対一で勝てるとはとても言えません」

「やっぱそんなのもいるのか。他には?」

「この大森林の全てを把握しているわけではありませんからね。具体的には挙げられませんね。でも、未知の存在や名は知っていても誰も出会ったことのないような存在はここにはたくさんいるはずです」

「……それでも、大抵の魔獣であれば勝てるんだよな?」

 思っていたよりも遙かに厳しい環境。だがそれが分かったからといって諦めるわけにはいかない。

「まあ一般的……ここの魔獣を一般的と言って良いかは微妙ですけどね。割とよく出没する魔獣であればある程度は」

「じゃあ、頼む。その程度に僕を強くして欲しい」

「その程度って……これでも私もそれなりに努力してきたのですよ? 一朝一夕で私と並べるなんて思われたくありませんね」

「そんなつもりはない。何年かかっても良い。それにずっと付きっ切りで教えてとも言わない。鍛錬の仕方を教えてほしいだけだ」

 どうすれば強くなれるのか。ヒューガはとにかくそれを知りたい。知ることが出来れば、それを行うだけ。それがどれだけ困難なことであっても。

「魔族に教えを乞うと?」

「いまさら。僕が使っている魔法は魔族のものだろ?」

「そうでしたね。ふむ、しかし見返りはなんですか?」

「見返り?」

「ただの好意で教えてもらおうなんて虫が良すぎるでしょ?」

「魂はだめだな」

「私は悪魔じゃありません」

「悪魔? この世界に悪魔なんているの?」

 なんとなく流れで口にした言葉であったのに、この魔族は悪魔を知っていた。やはり宗教があるのか。それとも本当に悪魔という存在がいるのか。

「……知識として知っているだけです」

「それって……」

 またヒューガの頭に疑問が浮かぶ。知識というのは魔族それか。そうでなければどういう意味なのか。

「これ以上詮索するなら、この話はなしです」

 ヒューガの疑問を感じ取って魔族は話を打ち切ろうとしてきた。踏み込んではいけない領域。そう考えて、ヒューガもこれ以上の追及は止めにした。

「わかった。じゃあこれ以上は聞かない。それで何から始めればいいんだ?」

「……まだ教えると言ってませんよ」

「ちぇっ、駄目か」

「貴方、さっきから私のことを馬鹿だと思っていませんか?」

「いや、ノリでOKしてもらえないかと思って」

「そんな簡単にOKを出しません」

「へぇ、OKって言葉も知ってるんだ」

 もう追及は止めると思っていたはずなのに、ついヒューガは魔族から情報を引き出そうとしてしまう。これはもう無意識の反応だ。

「……ああ、分かりましたよ。姫の為と思って今回は特別に見返りなしで教えてあげましょう。その代わり、期間は長くて一年。それ以上はさすがの私も忙しくなりますからね。あと貴方が言った通り、ずっと一緒にはいられませんからね?」

 またも根負け、とは少し違うが魔族は鍛錬を引き受けることにした。

「パルスとの戦い?」

「そうです。実際のパルスとの本格的な戦いはまだ先でしょうけどね。色々と事前準備も必要ですから」

「前から思ってたのだけど、何で今、勇者を倒さないんだ? いくら勇者といっても今ならまだ余裕で勝てるよね?」

「……こちらにも事情があるのです」

「どんな?」

「それを貴方に言うわけにはいきません。内部事情って奴です」

「外部要因じゃなくて内部なのか。パルスと同じで魔族内の勢力争いとか?」

「好奇心は身を滅ぼすという言葉を?」

「……了解。もう聞かない」

 魔族から放たれた殺気。これ以上は冗談では済まないと考えて、今度こそ本当に追及は止めようとヒューガは考えた。

 

「本題に戻りますよ。鍛錬をするのは良いですけど何処でやるのですか?」

「エルフの都は?」

「それは無理ですよ。エルフと魔族には相互不干渉の協定があるのです。お互いに関わり合いを持たないという協定です」

「なんでそんな協定を? 仲悪いの?」

「良くも悪くもないから不干渉なのですよ」

「それって変だ。エルフも魔族も人族に押されている状態だ。同盟を結んでも良いくらいじゃない?」

 何故、あえて関わりを断ち切ろうとするのか。ヒューガにはまったく理解出来ない。共通の敵を前に協力し合うのが普通だと思ってしまう。

「魔族は他の種族ほど同族意識は高くありません。自分さえ良ければという者も多いのですよ。大森林は隠れ家としては持ってこいですからね。大森林に居を構えようとする魔族が現れないとも限りません」

「つまり大森林を守る為? ここはそんなに特別な場所なんだ」

 ただ森林地帯が広がっていて、強力な魔獣がいるだけではない。魔族が、自ら大森林を乱すような真似を慎もうと思う何かが大森林にはある。

「話し過ぎましたね」

「聞きすぎた? じゃあこの話もこれでお終い。そうなるとどうすればいいんだ? どこまでなら許されるとかあるの?」

「そうですね。大森林内では難しいかもしれません。エルフとの係りを持たないというのは、貴方が言った通り大森林に関わるなってことですからね」

 厳密な境界線は魔族にも分かっていない。守るべき大森林がどの範囲なのか。これを知る者は極限られた存在だけなのだ。

「でも、今ここにいる」

「あくまでも目的は貴方を探す為という名目ですから。まあギリギリの線ですね」

「もしかして無理したのか?」

「姫の為ですから」

 返ってきた答えはヒューガの予想通り。ディアの為に魔族は協定を破るかどうかのギリギリの行動を起こしたのだ。

「そっか。でもそうなると僕が大森林を出ることになるな。セレに文句言われそうだ」

「やはり難しいですね。せっかくその気になりましたが、やはりこの話は無かったことに」

「それは僕が困る。何か方法はないか……ちょっと待ってもらえる?」

「いいですけど」

 ヒューガには良い方法が思いつかない。だが彼にはこの大森林に詳しい友達がいる。その友達に聞くのが一番だ。

(ルナ)

(なに?)

(今までの話聞いてた?)

(聞いてたよ)

(協定の話って知ってる?)

(知ってる)

 大森林に生きるルナは協定について知っている。契約を破ることが許されない存在である精霊としての常識だ。

(何か抜け道みたいのないかな? 魔族が大森林の中に滞在できる理由づけ)

(うーん。あくまでもエルフと魔族の協定だから、抜け道はヒューガだと思う)

(僕? 大森林の中で魔族が僕と関わるという形だと良いのかな?)

(そう)

(でも、大森林にいちゃいけないんだよね?)

(それは正しくない。正しくはエルフが加護を受けている大森林)

(あっ、そう言うことか。今現在のその範囲は?)

(すごく狭いよ)

(なんとなく分かった。協定を結んだ時は大森林のかなりの部分がエルフの統治範囲とされてたんだ)

 そんな協定では意味がない。結ばれた当時とは事情が変わったのだとヒューガは考えたのだが。
 
(ちょっと違う)

(違うの?)

 ルナに自分の考えを否定されることになる。

(ヒューガが考えているようなエルフが治めている場所じゃなくてエルフが加護を受けている精霊の結界の範囲)

 否定されたのは定義だ。こういう細かな点も重要なのだ。

(……精霊ってエルフにとってそこまで重要な存在なんだ)

 精霊なしではエルフは大森林どころかこの世界では生きていけない。それを思うと、セレたちの苦悩が少しだけ分かった気がした。

(そう)

(そっか。それでどうすればいいんだろ?)

(ヒューガが結界を張ればいい)

「はあ?」

 まったく考えていなかったルナの答えに思わず声が出てしまった。

「どうしました」

「あっ、ちょっと驚いて。もう少し待ってて」

「……ええ」

(僕が結界張れるのか? いや違うな。ルナたちが結界張るってことか)

(そうだよ)

(どれくらいの範囲?)

(うーん。結界張るだけで良い?)

(というと?)

(他のお手伝いは?)

(ああ、そういう事か。結界を張るとルナたちは不自由になるのか?)

(それに力を使う事になるから他の事はあまり出来ない。でも仲間を増やせば他にも出来る事増えるよ)

(えーっと。それをやると僕はどれくらい気を失っちゃうのかな?)

 仲間を増やせば、また魔力を吸い取られ気絶することになる。魔力は回復するから良いのだが、気絶している時間がヒューガは惜しいのだ。

(結界をどこまで広くすれば良いの?)

(あっ、そうだな。ちょっと待って)

「鍛錬に必要な広さってどれ位だ?」

「そうですね。剣だけであれば大して広くある必要はありませんね。でも魔法となると」

「そうか。魔法を行使できる広さだとかなり広げる必要があるな。ちょっと待ってて」

「さっきから何をしてるのですか?」

「ルナと話している」

「普通に話せないのですか?」

「……話せたな。ルナ、姿見せられるか?」

 ルナと結んでいることを魔族は知っている。そうであれば話していることを隠す必要なんてない。隠す内容でもない。

(ヒューガが良いのであれば)

「じゃあ出てきて」

「わかった」

 返事とほぼ同時にルナは姿を現した。

「……姫?」

 実体化したルナを見て魔族が驚いている。魔族もクラウディアに似ていると感じたのが分かって、ヒューガは自分の思い込みではなかったのだと知った。

「ルナ。俺が結んでいる精霊だ」

「これは……随分と姫に似てますね」

「別にそうしてくれって頼んだわけじゃない。始めからこうだった」

「……本当ですか?」

「嘘をつく理由がない」

「まあ、そういう事にしておきましょう。初めまして。私は魔族のものです。故あって名乗れませんが、許してくださいね」

「魔族が名乗れないのは知ってる」

 ルナは知っていてもヒューガがこれを聞くのは初めてだ。エルフ族と魔族の共通点。人族だけが異なるとも言える。

「そうですか。賢いですね。私は貴女の名を呼んでも?」

「うん、いいよ。ルナたちはルナ」

「ルナ。良い名前ですね?」

「ヒューガが付けてくれたの」

 名前を褒められてルナは嬉しそうだ。

「良かったですね。さて何の話をしていたのですか?」

 ルナとの挨拶を終えて、魔族はヒューガに話を向けた。

「抜け道の話。ルナが言うには大森林の中でも僕の結界内であれば魔族が滞在していても問題ないらしい」

「ほう。なるほど。確かに抜け道ですね」

「ということで結界を張ってもらえば良いのだけど、どの程度の広さが必要か分からなくて。広ければ広いほど、ルナたちの負担が重くなる。だから最低限にしたい」

「なるほど。そうであれば最初は生活するに最低限の広さで良いのではないですか? 魔法についても最初は基礎訓練です。始めからそんな広さは必要ないですよ」

「生活するに最低限か……庭付き一戸建てってとこだな。そうだな……ルナ、ここからあそこの木まで。後はそれから右の少し高い木。これを四角く結んだ範囲だとどう?」

 同じ庭付き一戸建てでも、元の世界では豪邸と言える広さ。鍛錬を行うにはこれくらいは必要だろうと考えた結果だが、問題は結界を張るのにどれだけの力が必要か。

「大丈夫。でも仲間は多い方がいいよ」

「でも、それやっちゃうと気を失うからな。気を失わない程度に仲間を増やすって出来る? 少しずつでもいいけど」

「うーん。多分大丈夫。ヒューガの力の量は知ってるから。じゃあ少しずつ仲間を増やすことにする」

「ああ、それでお願い。気を失わなければ……あっ、でもその間は魔法の鍛錬は出来ないな」

「気を失うって……さっきから何の話をしているのですか?」

 ヒューガとルナの会話の内容は魔族には分からない。精霊と結ぶということがどういうことかまでは、魔族の知識にはないのだ。

「仲間を増やすと魔力を与えなければならないから。急に増えると魔力切れになるんだ」

「つまりそういう状態になった事がある?」

「二回なった」

「……ルナちゃんに聞いてもいいですか?」

「良い」

「ルナちゃん。ヒューガくんの魔力の量は最初の頃に比べて増えましたか?」

「増えたよ。何回も空っぽにしちゃったから」

「なるほど……かまいません。がんがん仲間を増やしちゃってください」

「はあ!?」

「魔法の基礎訓練は知っているでしょ? あれの目的は?」

「魔法の制御と魔法切れを起こすことで魔力量を増やす……あっ、そういうことか」

 魔法を消費することで、魔力量を増やす。どこかで聞いたことのある設定だ。この世界もそうなのだとヒューガは思った。

「はい。最初はいずれにしろ基礎訓練です。そうですね。がんがんは言い過ぎですか。半日程度で回復するペースで仲間を増やしてもらいましょう。残りの半日は体力向上にあてます。ルナちゃん出来ますか?」

「うん。ヒューガとルナたちは結ばれてるから簡単」

「ではそういうことで。後は場所ですね。ここでは外縁過ぎます。もう少し、内部に入りたいところですね」

「場所か……エルフの都に近すぎるのもまずいよな。結界に近いのも問題だな。あっ、でも移動が出来ないか」

 結界がなければ移動が出来ない。ヒューガはこう考えたのだが。

「出来るよ」

 ルナは出来ると言ってきた。

「出来るの? どうやって」

「ヒューガをここに連れてきた方法で」

「……二人とも?」

 確かにここまでの移動は、結界の有無など関係ない。ヒューガの知らないところで、ルナは着実に成長しているのだ。

「うん。でもこの人ちょっと重いから大変」

「重い? そうは見えないけど」

 どちらかといえば細身。魔族なので見た目通りではないのだろうとはヒューガも思うが、重いという印象はない。

「単純な体の重さではなくて強さというか魔力量とかの話ではないですか?」

 答えは魔族が教えてくれた。

「なるほどね。僕の力を足せば平気?」

「良いの?」

「当たり前だ。段取りを考えてみようか。まずは……あっ」

 この先どう進めていくかを考えたところで、ヒューガは大事なことに気付いた。

「どうしました?」

「無断はまずいよね? 一応、断っておかないと」

 大森林に勝手に結界を張って良いのか。エルフに話を通しておいたほうが良いとヒューガは考えたのだ。

「ああ、そういう事ですか。ふむ。では明後日またここで待ち合わせというのはどうですか?」

「明後日?」

「考えてみれば私も魔王様に報告くらいは入れておかないと。行動は自由にさせていただいていますが、さすがに大森林での活動となると」

「そうか。じゃあ、お互いに報告すべき人に報告をしてからだ。明後日のこの時間にここで。場所も少しルナと相談しながら考えてみる」

「そうしましょう」

「じゃあ、これで……そういえば何て呼べば良い?」

 別れの挨拶をしようとしたところで、ヒューガは相手をなんと呼べば良いのか悩むことになった。

「ふむ。名を名乗るわけにはいきませんからね。そうですね。先生というのはどうです?」

「先生? 師匠じゃなくて?」

「はい。先生です」

「……わかった。じゃあ先生、明後日会おう」

「ええ。約束です」

 再会を約束して別れる二人。クラウディアを通じて繋がる二人の出会いが、ドュンケルハイト大森林を変えるきっかけとなる。