勇者の呼び出しを受けたと思ったら、今度は国王。ヒューガは騎士に案内されて謁見の場に向かっている。
このタイミングで何故、国王に呼ばれたのか。もしかするとディアとのことがバレたのかもしれないと考えて、ヒューガはかなり緊張している。
案内されたのは最初に国王と会った謁見の間ではなく、普通の部屋。普通といってもヒューガが与えられている部屋の三倍はあろうかという広さ。部屋には見るからに高価そうな家具が配置されている。
部屋の奥には沢山の書類が積まれている机。それを見てヒューガは、ここは国王の執務室なのだろうと考えた。
その執務机の正面。かなり大きめのテーブルを挟んで、ヒューガは国王と対面することになった。
「すまんな、急な呼び出しで。一人か?」
「冬樹は今、城にはいない。夏は……少しだけど体調が悪いみたいで、部屋で寝てる」
冬樹は貧民区に泊まり込みでギゼンの教えを受けている。このまま城には帰ってこない予定だ。夏は本当に寝ている。遅くまで何かを行っていたようだが、何をしていたかまではヒューガは知らない。
「体調が……医師に診させるか?」
「大丈夫。寝ていれば直る」
ただの寝不足。寝ていれば治る。なんてことは国王に話せない。
「そうか」
「出直してきたほうが良いなら、そうする。日程は別途調整ということで」
「いやそれには及ばん。儂が話したかったのはお主とだからな。ただ正直、お主だけが来るとは思っていなかった。儂の臣下ではないお主に命令に従う理由はない。こんな風に考える男だと思っていた」
「それでも僕はこの城で養ってもらっていた身だ。その恩は無視できない」
受けた恩を返していない。この先も間違いなく返せない。そうであるのに国王の命令に背くのは人として間違っている。ヒューガはこう考える男なのだ。
「……初めて会った時も思ったが、やはりお主は面白いな。最初は異世界人というのは皆、お主のような性格なのかと思ったが、勇者の二人を見る限りそうではないようだ。お主が特別ということか?」
「さあ? あの二人が特別なのかもしれない。何と言ったって勇者様だからね」
「勇者か……確かにそうなのかもしれんが……」
王様の歯切れが悪い。何故、そのような反応を見せるのかヒューガには分からない。分かるのは勇者に全幅の信頼を置いているわけではないこと。既に彼等の企みが耳に入っているのかもしれないとヒューガは思った。
「不満そうだ。召喚したのは王様なのに」
「ふむ。確かに勇者を召喚した責任は儂にある。何と言っても儂はこの国の王だからな」
「その言い方だとまるで召喚は本意でなかったように聞こえる。仮にそうだとしたらなぜ勇者を召喚した? その理由次第では……いやどんな理由でも納得出来ないか」
国王が望まない召喚。それに巻き込まれたのだとしたら、本当に迷惑な話だ。賠償を求めても良いのではないかとヒューガは考えた。
「それは……ふむ、お主には話しても良いかな。どうせ国を出ていくのだろう」
「城を出るとは言ったけど国を出るといった覚えはない。さては盗み聞きしていた?」
冷静な口調で国王に問い掛けているヒューガだが、内心ではかなり焦っている。盗聴が事実であるなら、まず間違いなくディアとの会話も聞かれていたに違いない。国王から見れば、娘を誘拐しようという企みを。
「それについては謝ろう。だがそれは仕方のないことだ。何といっても、お主らは異世界人。何をやらかすか分からんからな」
「呼び出したのは、それが理由?」
「まぁ、そうだ。それに絡んでお主に聞きたいことがある。だがその前に、やはり話の続きをしたほうが良いであろう。良いかな?」
「……どうぞ」
処分の話はすぐに出てこなかった。急ぐことではないと思っているのか、それとも別の理由があるのか。この時点ではヒューガには判断がつかない。
「この国が魔族と争っているのは知っているな? 初日に説明した内容ではなく、本当の意味でどう争っているかだ」
「おおよそは」
ディアから聞いた話だ。つまり国王はその時のヒューガとディアの会話の内容を知っているということ。誘拐未遂の証拠はあがっている、ということだ。
「では何故、魔族と争うようになったか、これについてはまだ知らないだろう? もしかして見当はついているのかもしれないがな」
「いや、分かってない。それ以前に疑問があるから」
「ほう、その疑問を話してもらえるか?」
「話をするのは王様のほうじゃないの? でも、いいか。一番の疑問は何故、パルスだけが魔族と争っているのか。魔族が本当に人族にとって脅威であれば、他国も戦いに参加していなければおかしい。でもそうじゃない。ということは、魔族は少なくとも他国にとっては脅威ではないということだ」
一から考えたことではない。ディアの話を聞いて、魔族の側にはそれほど積極的に戦う理由はないのだと知った。戦いを仕掛けているのはパルス王国の側だと分かったことで、生まれた仮説だ。
「もう答えを出しているではないか。その通りだ。魔族そのものは実際には人族にとって、脅威と言える程ではない。無害とも言えないがな。積極的に人族に敵対している魔族も中にはいる」
「でも、その行動はあくまでも個の魔族。個人の場合は何て言うのかな? 魔人とでも言えば良いの?」
「ああ、魔人で合っておる」
「その何人かの魔人がやっていることは、魔族の総意じゃない。そうなると別の疑問が生まれる。なぜ魔王を倒そうとする? 魔族全体が敵対しないのは、恐らくは魔王の意思。その魔王を倒してしまっては、魔族は統制がとれなくなって、暴れ出すんじゃないの?」
敵対はしていなくても、魔族には人族に対する恨みがある。それを抑えているのが魔王だとすれば、その魔王を倒すことは魔族との全面戦争に繋がる。ヒューガは、それはおかしいと思っている。
「そうなる可能性は十分にある」
「それが分かっていて、魔王を倒そうとする理由は何?」
「魔王を倒す目的はな、魔王が支配する領土と魔族の知識だ」
「……知識は分からなくもないけど領土? 魔族の領土は荒廃した土地だって聞いたけど?」
魔族は大陸の外れ。人族が住まない未開の土地で暮らしているとヒューガは聞いている。そんな土地を何故、奪おうとするのか。
「実はそうでもない。確かに魔族の領土は食物の生産には適していない。そういう点では枯れた土地だ。しかし、それを上回る資源が埋もれている」
「……鉱物資源とか?」
「ほぅ! その通りだ。よく分かったな」
「ただの勘。資源と言われたら、それしか思いつかなかっただけだ。それに鉱物資源が埋もれていることで、食物の生産に害を及ぼすなんていう話を聞いたことがある」
驚かれるようなことではない。もしかしたら、こういう大袈裟な反応が勇者たちを狂わせるのかもしれない、という今は関係ない考えが、ヒューガの頭によぎった。
「よく知っているな?」
「わずかな知識だ。でも資源が欲しいのなら、交易をすれば良い。土地がそんなだと魔族は食物を欲しがっているのではないの? その食物と鉱物資源との交換は十分に成り立つはずだ」
「……お主、国の政治も担えるのではないか? たったこれだけの会話で、そこまで考えが回るか……お主を城から出すのが惜しくなってきたな」
また過度な褒め言葉。これから先はこの世界の人々の話は、少なくとも褒め言葉については、半分で聞こうとヒューガは決めた。
「それについては最初に約束したはずだ。まさか、一国の王が約束を破るような真似はしないよね?」
「交渉も出来る。惜しいな。だが、確かにお主の言う通りだ。国王が簡単に約束を破るようでは国が成り立たん。他国の信頼を失っては、国は保てんからな」
国王にヒューガとの約束を違えるつもりはない。それを知ってヒューガは 国王は思っていたよりも遙かに誠実なのかもしれないと思う。
「もしかしてこの国では王様は、僕は思っている以上に力を持っていないの? さっきから話を聞いていると、そんな気がしてくる」
「……その通りだ。パルスにおいては王の力はかなり弱い」
予想通りの答え。ただヒューガには国王は無能だとは思えない。そうであるのに何故、その事態を放っておくのか。相対する貴族の力は自分が考えていた以上なのかもしれないとヒューガは考えた。
「貴族ってのはそんなに力を持っているのか?」
すぐにヒューガは自分の考えを問いにして、国王に尋ねた。
「そうだ。このパルスはかつて国の存続の危機に瀕したことがある。その時に国を守ったのが貴族たちだ。それ以降、王権は徐々に弱まりその時に活躍した貴族が大きな力を持つようになっている。それら有力貴族の声を無視しては国が成り立たないくらいにな」
「つまり、魔族を攻めたがっているのは、その貴族たちだと?」
国を動かしているのはその貴族たちであれば、魔族との戦いも彼等が望んでいること。そういうことだとヒューガは理解したのだが。
「いや、貴族は貴族でもそれ以外の貴族の声のほうが大きいな。この大陸では、この数十年、大きな争いは起こっていない。唯一の例外が、東で起きた傭兵王の立国時の争いだ。それでも東のはしでの出来事。パルスには関係ない。直接的にはな」
「つまり間接的には影響があった?」
「そうだ。貴族たちの野心を刺激した。争いがないということは、貴族にとって勲功をあげる機会も少ないということになる。内政で功をあげても領地が増えることはまずない。なにがしか金品と名誉が与えられるくらいだ」
「……どこからか奪わないと与える土地がない?」
「その通り。有力貴族にとっては、わずかな金品や名誉になど価値はない。彼らはすでにそれを手に入れているのだからな。そして下級貴族にとっては、もっと切実になる。国政に関われない下級貴族には勲功をあげる機会などないに等しいのだ」
だから他国を攻める。ただ他国を攻めるには大義名分が必要だから、魔族が人族への脅威だということにされている。魔族と戦う理由がヒューガにも理解出来た。理解出来ただけで納得はしていない。
「貴族を潰すって手もある。悪事を行っている貴族を潰して領地を没収。その領地を成果を上げた貴族に与えれば良い。悪事を行っている貴族を潰すのだから国民の支持も得られる。国民の支持を得られれば、もっと力を持てるはずだ」
「過激なことを……だが残念ながらそれは出来ん。そんな真似をしても、また別の貴族が力を持つだけだ。それでは何の意味もない」
「じゃあ、潰すだけにすれば? 直轄領を増やして王家の力を高める。貴族全体の力はそれに比例して弱まる」
「それを行うには遅すぎる。もう、そんなことを出来ないくらいに王家の力は弱まってしまったのだ。王に出来ることは少ない。今更、何をやっても変わらん」
たとえ罪を犯している貴族家であろうとも、それを潰そうとすれば他の貴族から大反発をくらう。貴族だって馬鹿ではない。王家の企みなどすぐに見抜くはずだ。
「王様がそんなことを言っていいの? どうせ変わらないから何もしないって……僕が口出すことじゃないか。それで? 魔族を攻める理由は分かった。でも何故、勇者を召喚したの?」
「魔人は強い。個の力で太刀打ち出来るものは片手で余る」
「だったら、そもそも魔族を攻めるという計画が成り立たない。まさか勇者に魔族を全滅させようなんて思っているの?」
勝てる算段もないのに魔族を攻める計画を進めているのだとすれば、その貴族たちは馬鹿だとヒューガは思う。
「そこまでは考えていないだろう。そもそも、そんな真似をされては全ての功は勇者のものになる」
「じゃあどうして?」
「ただでさえ強い魔人が魔王の下でまとまっているのが厄介なのだ。魔族は本来、協調性などない種族だ。個の力では敵わないが、まとまった数で戦えば勝てない相手ではない。そうなる為に、魔人をまとめている魔王は邪魔だってことだ」
魔王を失えば魔族は弱体化する。そうだとしてもやはりヒューガには納得がいかない。戦争は最後の手段であるべき。パルス王国のやり方は軽々しいと感じるのだ。
「……なんか色々と矛盾している気がするけど、とりあえず魔王を勇者に倒してもらえば、何とか出来るってことか。それは分かったけど、勇者は魔王に勝てるの?」
「分からん。だが勝つ可能性は十分にある」
「その根拠は?」
「……すまんが、それは儂の口からは言えん」
事は軍事機密に類するもの。さすがに国王はヒューガに話そうとはしなかった。
それでもパルス王国の事情はかなり分かった。内容は夏が調べてきた情報に少し付け足された程度のものだが、国王自ら語られたのだ。侍女の噂話だけとは信頼度が全然違う。
ただヒューガにはもう少し確認したい点が残っている。
「話は分かったけど、一つ教えてほしい」
「何だ?」
「王様は何故、勇者召喚を認めたのかな? 今までの話を聞く限り、魔族との戦いにそれほど熱心だとは思えない。そうなると貴族に押し切られたのか、勇者召喚を認める別の理由があるってことだ」
「それは……」
国王は答えを躊躇った。それはつまり、貴族に押し切られたわけではないことを示している。ヒューガはそう受け取った。
「……仮説を聞いてもらっても良い?」
「仮説? 良いだろう」
「僕の仮説はこうだ。この国の王族には重大な問題がある。それは男子がいないこと。後継ぎ候補は王女が二人。そうなるとどこかから婿を取って、そいつが王になる。女王の可能性は低い。貴族にとっては自分の息子が王になるチャンスだ。全力で阻止すると思う。ここまではどう?」
「……ああ、間違ってはいない」
「でも王様としては、そんな風にはさせたくない。貴族から婿をとって、そいつが王になればその貴族は絶大な権力を持つ。それか貴族同士の争いが激しくなるかのどちらか。どっちにしても今の王家は外で見ているだけ。パルス王国を奪われることになる」
「…………」
ヒューガの話を苦虫を噛みつぶしたような顔で聞いている国王。その表情を見るだけで、ヒューガには自分の考えが間違っていないと分かる。
「もしくは国が割れるか。パルス王国は終わりだ。それを阻止するにはどうするか? 一つの方法として、この国とは全く関係のない人を婿にする方法がある。でも他国の人では危険だ。貴族に奪われるのと同じ結果になる可能性がある」
国王の表情がわずかに緩んできた。ヒューガが何を言おうとしているのか分かったのだ。
「解決策は一つ。自国にも他国にも関係のない人間を選ぶこと。それも貴族が逆らえないほどの力を持つ人間を。つまり勇者だ」
そしてこの企みには新貴族派も加わっている。魔王との戦いに専念させるのではなく、人気取りのような、実際にそうなのだ、真似をさせているのも、これが理由。
魔王を倒した英雄がその力と民の支持を背景に即位すれば、この国の王権を強化される。
「……なるほど、全て御見通しか。儂はちょっと後悔してきたぞ。あの時、お主を勇者として認定でしていればと」
「王様の話を聞いたから分かったこと。それに僕は勇者のお手伝いだとしても魔王と戦うなんてゴメンだ」
「そうか」
「聞きたいことは聞いた。残るは僕からの話だ。もう知っていると思うけど、ディアは連れて行く」
ヒューガは国王にディアを城から連れ出すことを話した。どうせ知られているのであれば、なんとか許しを得るしかないと考えたのだ。
「……自らそれを話すか? お主はこの国の第一王女を攫って行くと宣言しているのだぞ? しかし……やはりそうだったか。クラウの様子から何となくそんな気がして、お主を呼び出してみれば……」
国王は話を聞いて、ひどく驚いている。ヒューガにとっては想定外の反応だ。
「あ、あれ? 盗み聞きしてたんだよね?」
「四六時中張り付かせていられるほど、城内で働く者たちは暇ではない。しかし……当然クラウも承知しているのだろうな?」
「……当たり前だ。そうじゃなくても今の話を聞けば、ディアをここに置いておく気にはなれない。彼女を政治の道具になんてさせない。これ以上彼女に辛い思いをさせるのは許せない」
序列を守れば勇者の相手は第一王女であるディアになる。そんなことをヒューガは許すつもりはない。
「……そうか、そう思うのか」
「問題はないはずだ。勇者の相手は第二王女が相応しい。本人も喜んで受け入れるはずだ。そうなるとディアの立場は厳しくなる。第一王女でありながら王妃の座を第二王女に奪われる形だからね」
「うむ……」
国王は考え込む仕草を見せている。ヒューガの話を真剣に考えようとしているのだ。
「本人は気にしないと思うけど、周りが放っておいてくれるのかな? 貴族の手がディアに伸びる可能性はない? ディアを担ぎ出して対抗しようという貴族は出ない? そうなれば結局、この国は分裂することになる。それが嫌なら選択肢は一つ」
国王に、ディアが政争に巻き込まれる可能性を畳み掛けるように訴えるヒューガ。この場でなんとかしてディアを連れ出すことを認めさせようと必死だ。
「……クラウを貴族の手の届かない場所に置く、か」
「支援をしろとは言わない。でも僕たちが国を出ていくのを邪魔するような真似は止めて欲しい」
「お主にクラウを守れるのか?」
「この命に賭けても」
強気の発言はあまり好まないヒューガであるが、この場をこう言うしかない。不安を抱かせたままで、許しを得られるはずがないのだ。
「そうか……良いだろう」
「本当に?」
国王は了承を口にした。それを聞いて、さらに念押しするヒューガ。
「といっても黙認だ。積極的に認めるわけにはいかん。だが……クラウのことを頼む。儂は……あの娘に最後まで何もしてやれないようだ」
「……悪いけど王様の気持ちをディアに伝えるつもりはない。ディアが心変わりするような話をしたくないから。ずっと先、この国は大丈夫だと確信を持ってからであれば良いけど」
今はとにかくディアをこの国から離すこと。それを何よりも優先しようとヒューガは考えている。
「……良い。伝えてもらいたい言葉もない」
今更、何をクラウディアに伝えるというのか。それはただ自分の気持ちを慰める意味しかないのではないのか。国王はこう考えた。
「分かった。じゃあ、最後に忠告をひとつ」
「忠告?」
「勇者には気をつけたほうが良い。あの二人は人が羨むものを全て持っている。美形で頭も良い。運動神経も抜群。それに元いた世界ではかなりの金持ちだったはず。つまり人の上に立つのが当然と思えるような人間だってことだ」
「ふむ……」
「今のところ、男はただのお人好しだ。そのままであってくれれば良い。勇者としての名誉だけで満足してくれればね。でも、そうじゃなくなったら? この国の貴族と同じように満足できなくなったら? 可能性はあると思う。彼は与えられることに慣れている人間だからね」
勇者として称えられていても、何もかも思い通りになるわけではない。果たしてそれに優斗は不満を持たないか。絶対に大丈夫とは言い切れないとヒューガは思っている。そうであれば警戒するべきだと。
「……もう一人は?」
「彼女も面倒だけど、まだ分かり易い。プライドの高さが表に出ているからね? そのプライドをうまく扱えれば良いだけだ。僕にはそんな無理だけど」
美理愛もヒューガにとって近づきたくない相手ではあるが、難しくはない。何が気に入らなくて、どうすれば納得するのかが分かりやすいのだ。ヒューガは彼女の求めに応じること自体が嫌なので、永遠に納得させられないが。
「なんとも辛辣だな。ふむ、覚えておこう」
「僕の話は以上だ。これで王様に会うのは最後だろうから、これまで養ってくれたことへの御礼を言っておく。ありがとう」
「ああ……元気で過ごせ」
思わぬ展開ではあったが、国王の了承を得ることが出来た。意外にあっさりしていたとヒューガは感じたが、国王の決断は今この場で為されたものではないのだ。
クラウディアをどうするかについて、国王はずっと悩んでいた。どこかで王位継承権者の地位から外さなければならないと考えていた。では外したあとのクラウディアをどうするのか。日陰者として生きることを強いるのは忍びなかった。
国王が決断したのはクラウディアを任せる相手としてヒューガを選んだことだけだ。それだけでもかなり思い切った決断ではあるが。