ヴィンセント様とエアリエル様にはエルウィン様という腹違いの弟が居る。
三か月以上もこの屋敷に居て、ようやくそれが分かった。こんな大切な情報を教えてくれない周りの人もどうかと思うが、人に避けられる立場の俺だ。自分から、情報は求めなくてはいけないのだろう。
実際にエルウィン様の存在を知ってから、一気に色々な事情が明らかになった。隠しておく事に意味がなくなったという事らしい。
まずはエルウィン様。御二人とは母親が違う。正妻は、御二人の母親であるミリア様であるので、エルウィン様の母親は側室という立場だ。そしてあまり身分が高くない方らしい。
そのせいで、エルウィン様と母親は、肩身の狭い思いをしてきたそうだ。ミリア様は、俺も今では分かっているが、見た目通りにきつい性格だ。気に入らない相手であるなら、かなり厳しくやったのだろう。
実際に一つ屋根の下には居て欲しくないとミリア様が言ったので、敷地内にある離れで二人は暮らしている。
そのせいもあって、俺はずっと存在に気が付けなかった。存在に気が付けたのは、来客のおかげだ。
訪れてきたのはラング・ウスタイン子爵。ウィンヒール侯爵家の従属貴族であり、その中でも力ある家らしい。
そのウスタイン子爵が当家に訪問した時に、こともあろうにエルウィン様と会う事を希望した。ヴィンセント様が言うには、かなり無礼な事のようだ。嫡子であるヴィンセント様だけでは不足だと言われたようなものだと、かなり怒り狂っていた。
どうして、そこまでの話になるのか、よく分からなかったが、他の従者も認めたので、そうなのだろう。俺はまだまだ勉強不足だ。
無礼ではあるが、ウスタイン子爵は、その無礼が許されるだけの力があるようで、渋々ながらも、エルウィン様の同席が許された。その代わりにミリア様が席を立たれる事になったが。
とにかく、その日、初めて俺はエルウィン様の存在を知り、その目で見た。
金髪に翠眼、ここまではヴィンセント様と同じだが、体つきを含め、それ以外は全て違っている。二人が並んでも血の繋がりを感じさせるのは、それこそ髪と瞳の色だけだ。
つまり、エルウィン様は驚くほどの美少年だった。エアリエル様とも似ていないので、母親似なのだろう。
旦那様が奥方様の性格を知っていて、別の女性に子を産ませたというのは、そういう事なのかと、少し失礼な事を考えてしまった。
さて、このエルウィン様。外見だけでなく、それ以外の全てにおいてヴィンセント様に優っているという評判だった。
剣の腕、勉強、性格云々。とにかく全て。そしてその中でも一番の問題は、魔法の才能だった。
三侯家の子供は、八歳になると試みの儀という、簡単に言うと、魔力の量と適性属性の試験を行う。王国の要となる三侯家にとっては重要な儀式だ。
魔法への適性がない者に三侯家を任せておけない。才能ある子供が生まれなければ養子や婚姻などで、優れた者を家に入れるのが、三侯家の義務のようになっている。
その試みの儀で、エルウィン様は、見事な才能を示された。
そして、その二年前にそれを行ったヴィンセント様と言えば……。聞くまでもない。今の実力は家庭教師の授業を見ていれば分かる。ウィンヒール侯家の後継ぎに相応しいものではなかった。
この事が微妙な変化をもたらしている。ウィンヒール侯家の後継ぎに相応しいのはエルウィン様ではないか、こんな声が従属貴族などから聞こえてくるようになっている。そして屋敷の人たちも口にはしないが、内心ではそう思っている。
それに反対しているのは、旦那様と奥方様、そしてエアリエル様だけと言って良いほど。
とくに奥方様は、より一層、エルウィン様と母親に対する態度が厳しいものになっているそうだ。具体的にどういう事をしているのかは、怖くて誰にも聞けなかった。
今回、訪れたウスタイン子爵が、エルウィン様への面会を希望したのは、ウスタイン子爵家はエルウィン様を後継ぎに押すという明確な意志表示。状況はここまで動いている。
前任のウォルが、ヴィンセント様の専任従者の座を喜んで譲った理由も分かった。後継ぎはエルウィン様になると見越して、乗り換えただけだ。
ロクな奴ではないと思っていたが、その通りだった。
それは良い。俺にとってはどうでも良い事だ。問題はヴィンセント様が何を望むか。従者である俺はそれに従うだけだ。
というつもりだったのだけど――
「何とかしなさい」
「何とか……ですか?」
「貴方、お兄様の専任従者でしょ? 今の事態を放置しておいて良いと思っているの?」
エアリエル様に呼び出しを受けて、いきなり怒られる羽目になった。
「……まさかと思いますけど、後継ぎ問題の事ですか?」
「他に何があるというのかしら?」
「私には何の権限も」
「それでも何とかするのが、専任従者よ!」
専任従者風情には何も出来ないです、と言ってもエアリエル様には通用しない事は分かっている。
「あの、何とかというのは、具体的には何を?」
「それは貴方が考えなさい」
「……競争相手を消すとか?」
「それ良いわね。それをしなさい」
かなり思い切った事を言ったつもりだったのに、あっさりと了承された。エアリエル様は、俺の言った事を正確に理解していないようだ。
「あの……その対象は弟君であるエルウィン様という事ですが」
「他に誰が居るの?」
「ええっ?」
「何よ?」
「エアリエル様の弟です」
「……家を乱す者であれば、それも仕方がありません。それが貴族家の者としての責任です」
「…………」
分かっていて言っていた。腹違いとはいえ、血の繋がりのある兄弟を家の為に消す事も厭わない。それがエアリエル様にとっては貴族として負うべき責任なのだ。
「それで出来るのかしら?」
「……機会を待ち続ければいつかは。ただ問題はそれをして、私がやったとばれない自信がありません」
「そう」
「結果としてヴィンセント様にご迷惑が掛からないかが心配です」
「従属貴族がそっぽを向くかもしれないわ」
「それは問題ではないですか?」
「そうね。それは保留にするわ。他の策は?」
「……はい」
暗殺の話が保留となり、これで話は終わりだと思っていたのだが、そうはならなかった。このしつこさは兄妹の共通点だ。恐らくは奥方様に似たのだろう。
「……今はヴィンセント様が正式な後継ぎですね?」
「そうよ」
「では、それほど事を急がなくて良いのではないですか?」
「放って置くというの!?」
「いえ、そうではありません。周囲にヴィンセント様が後継ぎに相応しいと思わせれば良いのです。それを一気に実現するには余程の何かがないと無理です」
「例えば?」
「……戦争で一番の戦功をあげるとか」
「今すぐには無理だわ」
「ですから、今は地道にヴィンセント様の実力を高める時期かと」
「それをするとして、その成果をいつ周囲に見せるの?」
「それは……」
こういった追及に関しては、エアリエル様は厳しい。いい加減な対応をすれば、すぐにばれてしまう。そういった使用人の態度はエアリエル様にはもっとも許せない事の一つで、怒鳴りつける原因になっている。
「まさかないの?」
「いえ、そういう訳ではありません」
「じゃあ何?」
「恐らく機会は学院に入学した後にあるのではないかと思っているのですが、具体的にどういう機会があるのかが分からなくて」
異世界の知識を少し使った。ただ、この世界の学校が異世界の学校と同じなのか自信がなくて、何とも曖昧な答えになってしまう。
「……そうね。それがあったわ」
「あるのですか?」
「それはそうよ。学院に入学すれば定期的に試験があるわ。それ以外に行事で、色々と実力を周囲に見せつける機会があるはずよ」
「では、それに向けて、ヴィンセント様に頑張ってもらうという事で」
「具体的には?」
「……えっと」
「まさかないの?」
本当に厳しい。急に呼び出されて言われた事に、最後まで答えを用意しろ、なんて。でも、これに応える事が俺の仕事だ。
「実現出来るか分かりません」
「どういう事?」
「まずは家庭教師を替える必要があります。一番は魔法の家庭教師。何も知らない私が聞いていても、少し言っている事がおかしいと思う時があります」
「……それは許せないわ」
エアリエル様の怒りに瞬間的に火が付いた。雇い主に対して不誠実なのは、エアリエル様の許せない事の一つ。いい加減な言葉で誤魔化そうとする事と同じだ。
「あくまでも魔法を知らない私の感覚ですから」
「知らない者に教えるのが教師よ。リオンが分からないという事は、その教師には教える才能がないのよ」
「そうであるなら、別の教師にと思うのですが、そう簡単には」
「良いわ。私が教える事にする」
「はい?」
「私がお兄様に教えるわ。お兄様よりは私の方が魔法は得意だから大丈夫よ」
「……分かりました」
問題の解決が遠ざかった気がしたが、ここは逆らう所ではない。お兄様命のエアリエル様の気持ちを否定するような真似は、禁忌と言って良い事だ。
「後は?」
「剣の師匠も」
「えっ? お兄様の剣の師匠のエリックは、我が家で一、二を争う剣の使い手のはずよ?」
「はい。私ごときが言うのは生意気ですが、剣の才能を持った方です」
「それでどうして交替が必要なの?」
「一つは才能がある人にない人の気持ちは分からないという事です」
「……それって」
「ヴィンセント様には失礼ですが、剣の才能はないと思われます。ですが私は才能が全てではないとも思っております」
「……才能は、いえ、良いわ。他にも理由があるのね?」
「はい。エルウィン様と比較している事が見え見えです。横で見ている私が分かるくらいですから、ヴィンセント様も間違いなく分かっていると思います」
「……何ですって?」
又、刺激してしまった。今はもう諦めよう。ヴィンセント様の環境を変えるには、問題のある人物を批判するのは仕方がない。
「ヴィンセント様だけを教える、もっと生真面目で、なんというか努力で這い上がってきたような人が良いと私は思います」
「……そうね。後は?」
「勉強の方は……ヴィンセント様のやる気の問題かと」
「……それが一番難しいわね」
「はい……色々と試みたつもりではあるのですが」
エアリエル様もこれについては分かっていたのか。ヴィンセント様の勉強嫌い、こればかりはいくら考えても良い方法が浮かばない。
「それについては私も考えてみるわ。とりあえずは、私も参加する事にするわね」
「はい?」
「だからお兄様と一緒に勉強するのよ」
「……はい」
代案を持たない以上は、何も言う資格はない。持っていても何も言えないが。
この数日後に俺は、この家で誰が最高権力者かを思い知る事になる。
◇◇◇
午前中の勉強の時間。ヴィンセント様の横で、エアリエル様も一緒に家庭教師から授業を受けている。
「お兄様、これはどういう意味かしら?」
「ん? これは……。リオン、分かり易く説明してみろ」
「はっ?」
「僕の説明だとエアルには難しいからな。お前の方が分かり易く説明出来るはずだ」
「それは……」
「良いわ。じゃあ、リオンから説明を聞きます」
家庭教師のムーア先生に視線を向けた所で、それを無視する形でエアリエル様がこう言ってきた。そうなると、俺は従わざるを得ない。少々間違っていても、ここは許して貰おう。
「では……利を得るには、安く仕入れて、高く売る必要があります」
「当然ね」
「では何を持って高い安いは決まるのでしょう?」
「……それは売っている値段よ」
「では銅貨二枚で売っているパンは高いですか? 安いですか?」
「安いわね」
「……あの、ここは高いと」
「えっ? 銅貨ってあの銅貨でしょ? 私は見た事ないけど」
そもそもお金を見る事もないのではないだろうか。ちなみにヴィンセント様には買い物をしてきて、値段を聞かれた事は一度もない。正直、何度、経費を懐に入れる誘惑にかられたか分からない。
「……えっと、ですね。私にとっては銅貨二枚のパンは高いです」
「リオンは、そんなにお給金が少ないの?」
「……いえ、使う必要がありませんから、今で十分です。言い方を変えます。貧民街で暮らしていた頃の私にとっては銅貨二枚でも、手に入れられない高価なものでした」
「そう……」
エアリエル様の表情が陰る。こういう所は本当に素直だ。でも今はちょっと違う。
「あの、同情は必要ありません。あくまでも説明の為ですから」
「そうね」
「でも、エアリエル様はそれを安いとおっしゃいました。さて、パンは高いのでしょうか? 安いのでしょうか?」
「……あら?」
「値段ではなく、それを買う人によって高い安いは変わります。では話を戻します。銅貨二枚のパンは高い、でもそれを銅貨三枚で買ってくれる人が居るとすれば、それを買って売る事で利益を得られます」
「そうね」
「それが需要から見た価格の決定になります」
「買う側が値段を決めるのね」
「簡単に言えばそうです」
「じゃあ、簡単に言いなさい」
「……はい。次に供給からの価格の決定です。銅貨三枚でパンを売りたいと思っても、買ってくれる人がいなければ売れません。何故、そうなるのか?」
「えっ? それに理由があるの?」
「あります。買う必要がないから買わない。銅貨二枚で手に入れられるのかもしれない。自分の家で作れるのかもしれない」
「……そうね」
「では銅貨二枚では手に入らない。自分の家で作る事も出来ない。そうなるとどうなりますか?」
「銅貨三枚でも売れるわ」
「はい。でも、もしかしたら四枚にしても売れるかもしれません。自分が売らないと手に入れられないなら、もっと高くしても売れるかもしれません。これが供給からの価格決定です」
「でも、それは卑怯だわ」
「商人は利を上げる事を目的としています」
「だからって」
「大丈夫です。事はこれで終わりません。相手の弱みに付け込んで、値段を釣り上げるような商人は信用されません。その時は利を得ても、長い目で見れば、必ず、その商人は損をする事になります。得た利よりもはるかに大きな損です」
これは蛇足だ。でも不実な者だけが利を得るという話では、エアリエル様は納得されないので付け足しておかないと話が終わらない。
「……そうね。それで納得出来るわ」
「説明はこんな感じですが、これで分かりますか?」
「ええ。大丈夫よ」
俺の説明で理解出来ると思えないが、エアリエル様はそれでも良い。エアリエル様には不要な知識だ。分かって欲しいのはヴィンセント様なのだが……。
ヴィンセント様は難しい顔をして、教科書を見詰めている。
「……そうか。そういう事か」
「えっ?」
「あっ、いや、うん、良い説明の仕方だったな。エアルも分かり易かっただろう?」
「ええ、お兄様」
俺の説明で、理解してもらえたという事も驚きだが、エアリエル様はこれを狙って、一緒に勉強する事にし、俺に説明させたのだとすれば。
それの方が驚きだ。もしかして、エアリエル様は、とんでもなく頭が良いのだろうか?
そうだとすれば、俺は人を見る目がない。反省しなければいけない。
エアリエル様に対する驚きは、それで終わらなかった。そんなもので終わらなかった、が正しい。
この方は紛れもなく天才だ。こと、魔法に関しては断言出来る。
エアリエル様の魔法属性は当然、風属性。俺には見えないはずの風の精霊が、エアリエル様の周囲に集まり、光を放っているのが、はっきりとわかる。
属性に関係なく、周りに見えるくらいの存在感を示すなんて、どれだけの精霊が集まり、どれだけの魔力を受け取っているのだろう。
驚くのは、エアリエル様はこの状態を、ずっと保っていると言う事だ。
「お兄様、分かりましたか? 体内の魔力を感じるのではなく、周囲にある魔力を感じるのです」
「……そうは言うけど」
「私の周りにある魔力が見えていますか?」
「あ、ああ。エアル、凄いな」
熱心にエアリエル様は教えているが、これはちょっと逆効果に思える。明らかにヴィンセント様は、自分の才能のなさに引け目を感じている。
「この程度はお兄様にも出来ます。ただやり方を知らないだけですわ」
「でも……」
「私の周りに居る魔力。それと同じ存在が、他の場所にも居ます。それを感じてください」
「同じ存在……。見えない」
「そんなはずはありませんわ。お兄様には見えるはずです」
これももしかして天才故の教え方なのだろうか。出来て当たり前であって、出来ない事がどうすれば出来るようになるかは、エアリエル様は説明出来ないみたいだ。
「……目に意識を集中させて」
「えっ?」
「あっ、見るのですから、やはり目は大切かと」
「……そうだな」
「それと風属性ですから、風を見るイメージは必要だと思います。窓を開けて風を入れてはいかがですか?」
「……そんな単純な事か?」
「素人の思い付きで、申し訳ございません」
「……やれる事はやってみるか」
「では、私が開けます」
窓の前に進んで、扉を開けた。良い感じに風が外から入ってくる。これを感じられれば、見えるのではないだろうか。
ヴィンセント様は、窓の外を凝視している。こういう所は実に素直な方だ。俺の力で見せてあげられれば良いのだが、属性の異なる俺では、何の力にもなれない。
だが、今のままでは駄目な事は分かる。
「……エアリエル様」
「何よ?」
「一旦、解放してあげて下さい。エアリエル様の周りにそんなに集まっては、ヴィンセント様の下に集う者が居なくなります」
「……貴方」
エアリエル様の顔色が変わった。その反応で自分が失敗を犯した事に気が付いた。
「見えているのね!?」「見えた!」
「「えっ?」」
「見えた。おっ、何だ、これ? 近づいて来たぞ」
「それよ。それが周囲に存在する魔力なの。そのまま、今度は体内にある魔力に手を伸ばして、手の平に集める」
「活性化と循環だな」
ヴィンセント様はいつものように集中して詠唱を始める。手の平がぼんやりと輝き始めた。風の精霊たちは、食事にありつけて喜んでいる事だろう。
「これで後は?」
「最後まで詠唱を唱えれば魔法は発動するわ」
「いつものと何が違う?」
「何がって、力の源を認識しないで、魔法を使っていた事が驚きだわ。魔法の素は、お兄様の手に集まっている魔力なのよ」
「じゃあ、体内の魔力は?」
「引き寄せる力、かしら?」
「そういうものなのか」
「そうよ。多くの魔力を使えば多くの魔力が集まってくる。それで威力が変わるわ」
「そうか……」
これを認識出来るようになれば、間違いなく、ヴィンセント様の魔法の力はあがる。エアリエル様の言うとおり、何だか分からないままに、魔法を使えていた方が俺としても驚きだ。
何だか、凄い。ヴィンセント様の可能性が一気に広がった感じだ。エアリエル様のおかげという事だ。
そのエアリエル様はきつい目で俺の方をじっと見ている。
「……あの?」
「リオン、貴方、魔法使えるわね?」
「……いえ、使えません」
「嘘をおっしゃい! じゃあ、どうして私の魔力が見えるの!?」
「それは……」
どうやら、誰にでも見えるものではなかったようだ。無知による失敗。気を付けていたはずなのに。
「私に向かって嘘をついたわね?」
「あっ、いえ」
「嘘をついたわね?」
「……申し訳ございません」
「使える属性は何?」
「……水属性」
「使える属性は何?」
「……と火属性を少し」
「ええっ!?」
驚きの声を上げたのはヴィンセント様。エアリエル様の方は、納得顔だ。分かっているから、しつこく聞いたのだろう。
「……これを知っているのは?」
「御二人だけです」
「では、この先もそういう事で。誰にも言ってはなりません」
「はい」
「お兄様も」
「……分かった」
俺の秘密の一つが二人にばれた。この先どうなるのかと不安だが、その一方でホッとしてもいる。
隠し事はしたくない。だが、もう一人の俺のことは、さすがには言えないし、信じてもらえないだろう。
それでもいつか話せる時が来る。そう信じて、その日を待つことにした。ここでの暮らしはまだ始まったばかりなのだから。