月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #17 実戦を経験した

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 剣と剣が打ち合わされた音が響く。ヒューガが振り下ろした剣は、グレゴリー大隊長の剣に阻まれた。慌ててバックステップで間合いをとる。その空間にグレゴリー大隊長の脚が伸びてきた。組み合ったところでヒューガの腹を蹴り飛ばそうとしたのだ。

「ふん。避けたか」

「当たり前だ。何回もやられれば、さすがに分かる」

 グレゴリー大隊長との立ち合いは、かなり荒っぽい。剣術の立ち合いと言いながら、今のように蹴りは飛んでくるし、場合によっては頭突きまでかましてくる。
 それを避けようと思えば、相手の全身の動きは把握しなければならない。だが死角からくる攻撃はさすがに見ることは出来ない。それはどうすれば良いのかとヒューガがグレゴリー大隊長に尋ねると、想像力と経験だと答えてきた。
 相手からの攻撃をいくつも想定し、あらかじめ備えておくこと。グレゴリー大隊長の答えの意味をそう受け取り、それが出来るまで何年かかるのかとヒューガは途方に暮れたものだ。
 そんなヒューガにアインさんがこっそりと正解を教えてくれた。

「別に全てを最初から想定しておく必要なんてないんだよ。そんなことしていたら、そもそも何も出来なくなってしまうじゃねえか」

「……じゃあ、どうする?」

「相手のちょっとした動きから見極めんだ。たとえば蹴りを放とうとする時にどうする? 蹴り足を浮かすために重心を反対に傾けるだろ。それ以外にも予備動作と言われるものは必ず、どんな動きにも必要になる。それによって判断すればいいんだよ」

「……なるほどね。大隊長も最初から、こんな風に教えてくれればいいのに」

 そう言ったヒューガにアインは笑いながら。

「今、俺が言ったことを大隊長の言葉に直すと、想像力と経験になんだよ」

 と答えた。

「……確かに」

 つまり、どれが予備動作か見極めるには経験が必要で、その予備動作からどういう動きが生まれるかは、その時の状況から判断、これは経験と想像力、される。アインの補足説明を聞いて、ヒューガはこう理解した。
 ではどうするか。これを聞いたあと、ヒューガは普段から人の動きを良く観察することにした。特に別の人が立ち合いをしている様子は、次にどんな動きをみせるか予測しながら見るようになった。
 あとは復習。みせられた動きを自分で真似てみて、体がどのように動くかを確かめた。
 これもヒューガの日課のひとつ、というより日常になった。まだまだ精度は低いが、たまに予想が当たるようになってきている。やっていることに間違いはなくとヒューガは確信できた。

「よし、今日は、これくらいでいいだろう」

「ああ。ありがとう」

「ああ、待て。鍛錬は終わりだが話がある」

 部屋に戻ろうとしたヒューガをグレゴリー大隊長は引き止めた。

「何?」

「今度、この隊は盗賊の討伐に出ることになった。それにお前たちも同行しろ」

「同行? 俺たちにも盗賊討伐に参加しろってこと?」

「ああ、そうだ」

「……実戦訓練ってわけか」

 いつかは行うことだと考えていたが、その機会は思ったよりも早くやって来た。それを知ったヒューガの心は期待よりも不安のほうが強い。

「約束の期限まではまだ日はあるのだがな。どうやら国がそれを許してくれないようだ。近々勇者の魔物討伐への同行、それが終わると俺達は辺境に行くことになる」

「辺境になんて何をしに? まさか戦争?」

「そこまで状況は逼迫していない。ただ東の方に不穏な動きがあるのは確かだ」

「東って?」

「マーセナリー王国って知ってるか?」

「……知らない。図書室で読んだ本にはそんな国なかった」

 主要国についてはすべて頭に入っているはずだった。だがマーセナリー王国という国名はヒューガの頭にはない。

「最近出来た新しい国だからかな? 元々は別の国だったのだ。それを乗っ取ったやつがいる」

「国を乗っ取った? どんな下剋上だよ」

「それをやったのは元々ギルドの傭兵だったやつだ。そいつは仲間を大勢引き抜いて、国を建てた」

「……よく周りが放っておいたね?」

 マーセナリー王国の前身はそれを許す国内事情だったのだろうが、周辺国まで簒奪を見過ごしていたことがヒューガには不思議だ。

「なんといってもSランクの傭兵だからな。それに引き抜いた仲間もかなりの実力者だ。東には小国しかない。手を出せなかったのだろう」

「ギルドは?」

 傭兵ギルドでそんなことが許されるのかとも思う。かなり規律に厳しい印象なのだ。

「去る者は追わず。ギルドのその大前提を利用された形だ。退会してしまえばギルドは罪を問えないからな」

「前提に拘っている場合かな?」

 規律の厳しさが逆に働いた形。そういうことなのだとヒューガは理解したが、その融通が利かなさは問題だとも思う。

「そうだな。実際かなりなダメージだったはずだ。傭兵が減っただけじゃない。ギルドの信用も揺るがすものだったからな」

「それでも放っておいたのか」

「ギルドは無関係であることを主張しなければならない。それで下手に手出しが出来なくなったと聞いている。傭兵王が一枚上手だったということだな」

「傭兵王?」

「そう呼ばれているのだ。その傭兵王がさらに動こうとしている気配がある。我が国に手を出すとは思えんが念の為に辺境の防御を固めるって話だ」

「部外者の僕に任務の中身まで話していいの?」

「国を出るのだろ?」

 グレゴリー大隊長はこれを言いたかったのだ。パルス王国を出るにしても東は避けろと。

「わかった」

 いよいよ実戦の時。実力はかなりついてきたと考えても慢心ではないとヒューガは思う。グレゴリー大隊長は手抜きをするような人ではない。その彼と良い勝負が出来るようになってきているのだ。
 城を離れる時が近づいている。この思いはヒューガに、初めての実戦に臨むこと以上の不安と緊張を与えることになった。

 

◇◇◇

 パルス王国の王都から徒歩で五日ほどの距離にある小さな村。そこが、いつの間にか盗賊の住処になっていた。その盗賊の討伐が第十三大隊イレギュラーズの任務だ。
 任務内容を詳しく聞いたヒューガは、そんな近くに盗賊がいるのかと驚いたのだが、それには理由があった。
 盗賊たちは普通の村人のようにふるまっていた為、長く間、その存在に気付くことが出来なかったのだ。
 盗賊たちの目当ては王都に出入りする商人。それも王都から出ていくところを狙っていた。恐らくは王都内にも仲間がいて、その情報で狙う商人を決めているのだ。
 王都を出た商人の行方をいちいち調べる者はいない。行方不明になったことが分かるのは、かなり期間が経ってからになる。これも盗賊の存在を気付かせなかった理由の一つだ。
 目的の村までの道はそれなりに整備されている。だが攻めに行こうとするイレギュラーズは、街道を堂々と進むわけにはいかない。
 あえて反対方向に進んだところで、街道を逸れて森の中に入った。そこからさらに小部隊に分かれて、目的の村の近くを目指すことになる。

「ほら、ヒューガ来たぞ」

「また、僕?」

「お前達はギルドで働いてるんだろ? ランクが上がれば魔獣討伐はもっとも多い依頼だ。良い練習になるだろ?」

 これを口実に現れた魔獣の相手は全てヒューガがやらされている。別部隊で行動している冬樹も恐らくは同じだとヒューガは考えている。

「まさか、この為に僕たちを連れてきたのか?」

「さぁ、どうだかな。それは大隊長に聞いてくれ」

「まったく……」

 文句を言いながらも、ヒューガは現れた魔獣に向かう。街道を離れて森の奥に入った途端、こうして魔獣が出没するようになった。部隊は十人いるのに、そんなことはお構いなし。相手が強いか弱いかの判断は魔獣にはないのだ。
 現れたのはブラッディードッグという魔獣。王都周辺では珍しくない魔獣だ。強さはそれほどでもない。ただ群れをなして襲ってくるのが厄介だ。
 ヒューガの前にいるのは三匹。群れというには少ない数だ。酷い時は百匹以上の群れをつくることもあるのだが、そんな群れには滅多に遭遇しない。これはアレンの情報だ。

「さてと」

 魔獣に近づいたところで背負っていた大剣を取り出し、構えをとる。
 そんなヒューガを見て、魔獣たちはよだれを垂らしながら、グルグルと唸っている。口の間から鋭い牙が見える。ブラッディードッグの武器はその牙と脚の爪だ。
 油断をせずにヒューガは相手の様子を見ていると、魔獣の体が沈んだのが見えた。

「来る」

 予想通り、三匹の魔獣が次々にヒューガに飛びかかってくる。それぞれの時差を利用して、ヒューガはいずれも一太刀で切り捨てた。

「「おおー!」」

 後ろから軽く歓声があがる。中には手を叩いている人までいる。まるで見世物だ。
 ヒューガも最初は、複数の魔獣との戦いにかなり戸惑った。一匹に集中していると他の魔獣に襲われることになる。初戦ではそれでグレゴリー大隊長に助けてもらう羽目になったのが、何回か戦ううちに、この程度の数であれば問題なく倒せるようになった。
 魔獣を斬った剣を持っていた布で拭い、背負っている鞘に戻す。それが終わると剣を拭った布でブラッディードッグの口を押え、新たに取り出した短刀でその口を切り裂いた。 傭兵ギルドでの魔獣討伐では、討伐の証として倒した魔獣の部位を取っておく必要がある。ブラッディードッグの場合は、その武器である牙だ。
 どうして一番面倒な牙なのだとヒューガは思ったが、何かの道具の材料になるからだと聞いた。耳くらいにしてもらえると楽なのだが、無価値な物を傭兵ギルドは必要としないのだ。
 討伐依頼を受けたわけではないヒューガが今部位を採取している理由は常時依頼というものがあるからだ。ある種の魔獣は常に討伐対象になっていて、事前に受付に依頼を受けることを届けなくても報酬がもらえる。ブラッディードッグはその対象のひとつなのだ。
 部位の採取を終えて、ヒューガは皆の元に戻った。

「さすがに埋めるのは、手伝ってくれるよね?」

「ああ、もちろんだ。おい」

 グレゴリー大隊長の指示で隊員たちが、倒した魔獣の近くに穴を掘り始めた。魔獣の死体を埋めるためだ。
 規則があるわけではないが、魔獣の死体をそのままにしておくと他の魔獣が集まってくることがある。それを避けるためのマナーだ。

「三匹くらいだと、なんでもないな」

「ああ、こつは掴んできた。と言っても、ブラッディードッグ限定だね」

「他の魔獣だとまた動きは違うからな。その辺はギルドにある魔獣図鑑に詳細が書いてあるはずだ。討伐前には必ず確認するようにしておけ」

「わかった」

 新たに知った傭兵としての心得。ただ剣を教えるだけでなく、こういう知識もグレゴリー大隊長は与えてくれる。ありがたいことだ。

「明日には集合場所につく。すぐに盗賊との戦いになるぞ。覚悟はいいな?」

「今更? ああ、でも敵の数はどれくらいか分かっているの?」

「五十くらいだ。数的には倍の味方を用意した。だが戦いは数だけではない。どんな不測の事態が起こるか分からん。油断するなよ」

「分かってる」

◇◇◇

 バラバラに移動してきた部隊は合流することなくそのまま、盗賊がいる村を包囲するよう形で配置された。大きな動きを見せて盗賊に存在を知られては、わざわざ分かれて移動してきた意味がない。最初からそのように計画されていたのだ。

「こういう時は一方に逃げ場を用意しておくものじゃないの?」

 元の世界の小説かなにかで得た知識。完全包囲をしては死に物狂いで敵は抵抗する。それでは味方の被害が大きくなるので、わざと逃げ道を作っておくというものだ

「よく知っているな。確かに戦争の時はそうすることが多いな。だが今回は盗賊討伐。一人も逃がすわけにはいかんのだ」

「ああ、そういうことか」

 ここで逃がしてしまってはまたどこか別の場所で悪事を働くかもしれない。それを許さないために一人も逃がさないようにしているのだ。

「ほら、前進するぞ」

 グレゴリー大隊長の率いる小隊の一員として、ヒューガは地面を這うようにして村に近づく。

「見張りがいます」

 先頭を進んでいた兵の人が、戻ってきてグレゴリー大隊長に見張りの存在を告げた。

「何人だ?」

「二人です」

「おい、アイン。やれるか?」

「ああ、この距離なら余裕ですよ」

「じゃあ、やれ」

「了解」

 グレゴリー大隊長に指示されたアインは、そのままの姿勢で前に出て行く。先頭に辿り着いたところで、おもむろに立ち上がって幾本もの矢を放つアイン。

「早っ」

 その早業にヒューガは驚いた。

「よし、突っ込め!」

 放たれた矢の行方を確かめることなく、グレゴリー大隊長は突入の指示を出す。一斉に立ち上がって村に走っていく兵士たち。
 ヒューガもそれに遅れまいと慌てて立ち上がったところで、村の入り口近くにいた二人の盗賊が、ほぼ同時に倒れるのが見えた。アインの矢によるものだ。
 皆に遅れないように全力で村の入り口に向かうヒューガ。その視界の中に敵の姿は見えない。
 周囲からも別の小隊が村に向かって駆けているのが見える。そのどれかに冬樹と夏もいるのだろうと考えながら、ヒューガは村に突入した。

「敵だー!」

 盗賊側の誰かが敵襲に気が付いて叫んでいる。その声を聞きつけてか、いくつかの家から武器を持った人が出てくる。普通の村人のように見えるが、そうではない。そのように装っているだけだ。
 ヒューガに向かって駆けてくる盗賊もいる。槍を持って突っ込んできたその盗賊の攻撃を、ヒューガは冷静に躱して、真上から盗賊を切り捨てようと剣を振りかぶる。
 だが正面から盗賊の顔を見てしまった瞬間に、ヒューガの動きは止まってしまう。人を殺すのだ。そんな思いが浮かんでしまったのだ。
 盗賊にとっては好都合。引き戻した槍をもう一度ヒューガに向かって突き出そうとしている。

「ヒューガ!」

 ヒューガの目の前を黒い影が覆う。突き出される盗賊の槍。その衝撃で、目の前の影が後ろに倒れ込んでくる。

「アインさん!」

 ヒューガをかばって前に立ったのはアインだった。

「貴様っ!」

 怒りがヒューガの躊躇いを吹き飛ばす。盗賊を、持っている剣で斬り殺そうとヒューガが動いた、その時。

「憎むな!」

 ヒューガの耳に届いたのはグレゴリー大隊長の声。咄嗟のことで言葉の意図など考えていられない。それでもヒューガは不思議と頭に上っていた血がスウッと下がり、冷静になる自分を感じた。
 目の前の盗賊はまた止まってしまったヒューガを見て、好機と思ったのか槍を構えて突進してきた。大した動きではない。軽く避けて、その盗賊の横を通り過ぎるようにして、剣を薙ぐ。
 手に残る確かな手応え。盗賊は二三歩、そのまま進み、前に倒れこんだ。

「おわ!」
「えっ!」

 自分に覆いかぶさるように倒れてきた盗賊の死体を、アインが慌てて払いのけている。

「気持ちわりー!」

「……死んだんじゃなかったのか?」

「死んだなんて誰も言っていないだろ?」

「死んだ人間は誰も、自分は死んだなんて言わないからね」

「まあ、そう怒るなよ。おかげで盗賊を倒せただろ? 大隊長はさらにその先まで考えていたみたいだけどな」

 アインは人を殺すことへの躊躇いを、死んだふりをすることでヒューガを怒らせ、その怒りの感情を使って超えさせようとした。
 結果はアインの思惑通りだ。魔獣を倒すのとは訳が違った。殺す相手は自分と同じ人間。それに気付いた時、ヒューガの体は固まってしまった。
 怒りが助けたのは事実。だがグレゴリー大隊長の言葉の意味は何だったのか。この答えをヒューガは得られていない。

「とりあえず、御礼は言っておく。ありがとう」

「ああ、いいってことよ。で、もう大丈夫か?」

「問題ない」

 周りを見ると戦いは乱戦模様。統率が取れていない盗賊相手に、イレギュラーズ側も個別での戦いを強いられている。といっても常に数で相手を上回るようにした戦い方は盗賊のそれとは違う。
 冬樹と夏はどうしているのだろう。もう人を殺めたのだろうか。そんなことがヒューガの頭に浮かんだ。
 今は長々とそれを考えている余裕はない。ヒューガは周囲を警戒しながら、さらに村の奥に進んでいく――

「うーん」

 気が付けばヒューガはほぼ村の中央付近に到達していた。そこにあった妙な建物。全体的な外観は今まで見てきた家と変わりない。だが目の前の家の窓には頑丈そうな鉄格子、入り口の扉にも大きな鍵がついている。
 そっと窓から中をのぞいてみたが、さらに奥も塞がれているようで中の様子は見えない。仕方なく、警戒しながら入り口の扉の前に移動した。
 そこまで来てヒューガはハッと気が付いた。

(鍵がかかっているのだから、人が出てくるはずないか)

 冷静になれたつもりでいたが、まだ動揺は続いていたようだ。気を取り直して、改めて扉を眺める。鍵は簡単には壊せそうにない。

(扉を破ったほうが楽かな?)

 扉は木で出来ている。鍵を壊すよりも扉そのものを壊すほうが早いと判断して、ヒューガは気持ちを集中させる。魔力が全身にめぐるのを感じたところで、一気に剣を振り下ろした。厚い木の扉に剣の刃が深く食い込む。
 三度それを繰り返したところで切り裂いた部分に向かって、力一杯蹴りを放つ。ぽっかりと空いた穴。さらにそれを広げて終わりだ

(もう入れるな)

 空けた穴か、恐る恐る中に入る。扉の穴からしか光が入らないその家の中は薄暗かった。

「誰?」

 奥から誰何の声が聞こえてきた。声でそれは女性だと分かる。

「国軍の兵士だ」

 正式には違うが本当のことを話すと長くなるので、しかもかえって信用されなくなる可能性があるので。こう答えた。

「国軍? 助けにきてくれたのかしら?」

「助けにきたわけじゃない。盗賊討伐にきただけだ」

「それを助けに来たって言うのよ。早く、こっちに来なさいよ」

「お前は?」

「捕まっていたのよ。いいから近くにきなさい」

 ヒューガは警戒を緩めないようにして、声のする方に近づいた。そこにいたのは女性が一人。良く見ると、足元に鎖が転がっている。

「……繋がれているの?」

「そうよ。早く切ってもらえるとありがたいのだけど」

「わかった」

 さら近くに行くと女性は確かに鎖につながれていた。鎖は三本。首に伸びる鎖と両足を繋いでいる鎖。
 どれから外そうかとヒューガは少し悩んだが、首輪は苦しそうに見えたので、そこから取り掛かることにした。

「ちょっとごめん」

 女性に断りを入れて、首の回りの首輪を探る。

「あれ繋ぎ目がない?」

 首輪には鍵らしきものがついていなかった、それどころか、どうやってはめたのか、繋ぎの部分も触った感じではない。

「ちょっと、これはね……」

「黙ってて。気が散る」

「はっ?」

 ヒューガは首輪から魔力の流れを感じている。つまりこの首輪は魔力で繋いでいるということだ。そう判断して、外し方を考えた。

「魔力の流れを変えるか、それとも魔力を込めて飽和させるってのも有りかな? どうするか、両方試してみればいいのか」

「ちょっと! そんなこと考えてもこれは外れないわよ!」

「あっ、はずれた」

「えっ……?」

「魔力の流れを変えるというより、遮断してしまえば良いのか。魔力を失えば、自然と外れる。理屈が分かってしまえば、たいして拘束力はないな」

「………」

 残るは足の鎖。足に嵌まった輪っかを触ってみたが、これからは魔力を感じられなかった。そうなると力技だ。

「ちょっと離れていて」

鎖を前に引き出して地面に並べる。力を込めて剣を振り下ろすと、割と簡単に鎖は、甲高い音を立てて切れた。

「あれ? 首もこうすれば良かったのか。まあ、いいか。対して手間は変わらないし」

「ちょっと、貴方……」

「さて、外に出よう。村はもう味方が制圧していると思う」

「ええ、そうね」

 今度は外を警戒しながら、ヒューガ扉に空けた穴をくぐって、外に出た。
 外に出て分かったのは、女性は胸の周りと腰にわずかな布を巻きつけているだけであること。浅黒い肌に銀色の髪。端麗な顔と抜群のスタイルのその女性。
 ヒューガにはかなり刺激的だ。

 

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