月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

四季は大地を駆け巡る #11 それぞれの視点:グランとヒューガ

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「信じられないわ。あの日向って子は何を考えているのでしょう?」

「美理愛、少し落ち着きなよ」

「落ち着いていられないわよ。せっかく私たちが貧しい人の為に一生懸命頑張っているのに。優斗は何とも思わないの?」

 ミリア殿がめずらしく声を荒らげておる。その原因はヒューガとかいう二人と一緒に召喚された小僧。まったくミリア殿も大人気がない。
 白銀の聖女のこんな様子を見られたら、せっかく広まってきた民の印象が台無しじゃわい。

「どうしたのですか? ミリア殿にしては珍しいですね」

「アレックスか。あの後、ちょっとな」

 部屋に顔を出したアレックスがミリア殿の様子に驚いて、儂のところに事情を聞きにきた。今回の炊き出しにアレックスは参加していない。順調にいっているはずが、あの様子だ。気になるのは当然か。

「何があったのです?」

「ふむ……お主にも話しておいたほうが良いか。実はな……」

 ミリア殿の強い要望で、定期的に行うことになった貧民区での炊き出し。今日もいつものように鍋で作ったスープを配っていた時にそれは起こった。

「セイジョさま、これ」

 ミリア殿の前に現れた小さな女の子がお椀を差し出している。その中に入っているのは異臭を放つ残飯だ。

「……あの、これは?」

「にいが、もらうばかりではダメだっていうから。これはおかえし」

「あの……お返しなんて不要ですよ……」

「でも……よういしたから。どうぞ」

「ありがとう……」

 無邪気な少女の気持ちを断りきれなかったミリア殿は、とりあえずお椀を受け取った。
だがそれだけでは、少女はおさまらなかったようだ。

「たべて。きっとおいしいよ」

「…………」

「……たべたくない? もしかしてイヤだった?」

「そんな事ないわ。嬉しいわよ」

「よかった! じゃあ、たべて」

 悪意はないのであろう。少女はミリア殿の嬉しいという言葉を聞いて、目を輝かせている。少女を裏切りたくないと思ったのだろう。ミリア殿はお椀を顔に近づけて、なんとか覚悟を決めようとしているのじゃが。

「うっ…」

 無理じゃな。あんなものを口に入れることなど出来るはずがない。これ以上は聖女としての印象を悪化させると思い、助け舟を出そうとした時。

「メイ、何してる? 皆待ってるよ」

 現れた小僧。なにやら少女と親しげな雰囲気だ。

「セイジョさまにおかえしをしてるの」

「お返し? それは感心だけど、お返しするようなものメイは持ってないよね?」

「ゴハン、よういした」

「ゴハン? もしかしてこれか?」

 小僧は、少女から渡された残飯をどうにも処理出来ずに固まってしまったままのミリア殿からお椀を取り上げると、それを少女の前に突き出している。

「そう」

「ふぅん。メイこんなのご飯じゃないぞ。これ食えない」

 そう言って小僧はお椀をひっくり返して、中のものを地面に捨てた。

「あっ! ヒューにい、ひどいよ!」

「ちょっと、貴方!」

 小僧の行動にミリア殿まで文句を言っている、だが小僧はミリア殿にはかまわずに少女の前にしゃがみ込むと、真っ直ぐに彼女の目を見て話し始めた。

「いいか、メイ。お返しってのは相手のことを考えないと駄目だ。相手がどうすれば喜んでくれるか。自分がどうかじゃなくて、あくまでも相手がだからね。メイはいらないものをお返しにもらってうれしいか?」

「うれしくないけど……でも、メイがんばってよういしたんだよ?」

「ただ頑張れば良いってものじゃない。ちゃんと成果を上げないとな」

「せいかって?」

 それを少女に説明しても理解出来るはずがない。この小僧、少し人と考え方が変わっているようじゃな。

「あぁ、それは後で教えてあげる。とにかくこれをもらっても勇者は嬉しくない」

「えっ! そうなの? でもセイジョさまはうれしいっていってくれたよ」

「聖女? 勇者じゃなくて聖女になったの? ふぅん、なるほどね。召喚された勇者が二人ってのは都合が悪いから、一人は聖女に変えたのか。色々と大変だね? しかし、勇者は人気取りまで必要なの? 勇者の役目は魔王を倒すこと。それ以外に何を期待されてんだか……」

「ん、ごほんっ!」

 小僧が余計なことを話し始めたので、あわてて咳払いでけん制する。

「ああ、筆頭魔法士様もいたのか。はい、はい、黙っていればいいんだよね?」

 小僧は儂の意図を見抜いた。黙っていれば、は余計な一言だが、まあそれは良い。

「……貴方は何を言いたいのです?」

「あっ? ……聖女様のご質問だけど、これも答えないほうがいいのかな?」

 小僧が見ているのはミリア殿ではなく儂。ふむ、この小僧どうやら思いのほか頭が回るようだ。少し危険かもしれんな。

「聖女様も忙しい身だからの。お主と話している時間はないな」

「師匠!?」

「そういうことだから、僕はこれで失礼する。あっ、今日はちゃんと自分が持ってきた分だけ食べるから、文句は言わないように」

 そう言って小僧は少女の手を引いて、この場を去ろうとしている。

「ちょっと、待ちなさい。貴方はいったい何を考えているの? 食事もまた自分の分だけしか持ってきていないのでしょ? ここの現状を知ったら、何かしたいと思うのが普通ではないの?」

 余計な真似を……ようやく話が終わったところだというのに。

「……じゃあ、お前は何をしてるの?」

 小僧の雰囲気が少し変わった。さっきまでの人を小馬鹿にするような雰囲気はなりをひそめ、きつい視線をミリア殿に送っている。これはまずいな。

「……何って、炊き出しを」

「それで? それをすることで何がどうなるの?」

「ここの人たちを救うことが出来るわ」

「救う? お前は自分を神かなにかだとでも思ってるの? だいたい救うって何から救うつもり?」

「貧困に決まっているわ」

「貧困ね……何でそんなことをする必要があるのかな?」

 貧困からの救済。まさかそれを否定してくるとは。小僧が何を考えているか儂にも分からん。ここは二人を止めるべきか。しかし、小僧が何を言い出すのかも気になってしまうな。

「ちょっと? 貴方は何を言っているの? 貴方だって中学生とはいえ、基本的人権くらいは学んでいるでしょ。それとも落ちこぼれの貴方はそんなことも覚えていない?」

「はぁ、面倒くさい。異世界にきて基本的人権を持ち出す? じゃあ聞くけどお前がやっているのは、その基本的人権のうち何をここの人たちに保証してやってるんだ?」

「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。これくらい常識でしょ?」

 異世界にはそんな権利があるのか。だが、ずいぶんと漠然とした権利だの。文化的というのは何をさしているのか儂には分からん。

「生存権ね。生存権ってのは、あくまでも自立を支援するための施策を国に求める権利であって、国に依存することを許すものではないっていうのを知ってる?」

「それは……だから何だというの?」

「ここの人たちはお前に炊き出しを求めたの? 炊き出しをすることによって、ここの人たちは自立した生活が出来るの? お前は自分の言葉と行動が矛盾していることに気付いていないの?」

「…………」

「もっと言えば、お前が言っている権利ってのはあくまでも日本の法律だ。この世界の法律じゃない。基本的人権を持ち出すのなら他の権利はどうする? 法の下の平等は? 貴族はどうする? 奴隷制度もたしかこの国には残ってる。参政権は? この国の国民は政治になんて関われない。それはどうするつもり?」

 小僧の言っている言葉の半分ほどは中身が分からない。ただ、なんとなく民に対して、随分と寛大な方針を異世界が持っているのは分かるな。しかし、ちょっと危険な思想だな。
それをこの世界にそのまま持ち込まれては国が崩壊しかねん。

「それは……」

「やってることが中途半端。異世界の常識を持ち出して、それをこの世界に押し付けるな。そんなことをすれば、この世界の秩序が壊れる。かえって迷惑になるとは思わないの?」

「それでも、それによって国が良くなるなら良いじゃない!」

「本気で言ってる? それをすれば国は混乱する。それによって大変な思いをするのが誰か分からないわけじゃないだろ? 大体……なんでそこまで気にする? まさか自分たちで世界を変えるなんて思ってないよな? 自分がただの勇者だって分かってる?」

「勇者だからやらなければいけないのよ!」

「はぁ、ずいぶんと高い志だな。まあ、人のやることに文句をつけるつもりはない。どうぞ、ご自由に」

「お主は……お主はそれをやろうと思わんのか?」

 小僧はあまりミリア殿と議論をする気はないようだ。それはこちらとしては助かるが、これは聞いておいたほうが良いだろう。

「聖女様は勇者だからそれをやる。勇者じゃない僕には関係ないね」

「そうか……」

「さて、メイ、待たせたな。皆のところに戻ろうか」

「うん! もうおなかすいたよ」

「そうだよな。僕もだ。じゃあ行こう」

「ちょっと!?」

 ミリア殿がまだ引き留めようとするのにもかまわず、小僧はとっとと少女を連れて、この場を離れて行った――ということじゃ。

「なんだか、話を聞くとミリアは年下の子供に良いように言い負かされたって感じですね?」

「実際、その通りじゃ」

「危険ではないですか? 同じ異世界人にそんな者がいては、勇者や聖女の威光が……」

「あの様子では本人は張り合うどころか関わるつもりもないだろ。放っておけば害にはならん。だが……」

「だが、何ですか?」

「少し惜しいな。なんとか仲間に取り込められないものか。どうも小僧のほうが、二人よりも物の道理をよく分かっておるようだ。それに頭も切れるな」

 年上のミリア殿を圧倒していた。それはたいしたことではない。ミリア殿は正直、子供。儂でもどうとでも扱える。だが、あの小僧に対してはそれが出来るとは言い切れん。危険ではあるが上手く使えれば。

「でも、本人にその気はないのでしょう?」

「駄目元であたってみるくらいは良いだろう。実は考えるところがあって、それを他の勢力に利用されるようなことになっては、少々面倒なことになりそうじゃ」

「……ずいぶんと認めているのですね。ほんの少し話した程度でしょ? まあ、いいです。しかし、まずはその子より、あの二人の説得ですね。そっちのほうが面倒そうだ」

「まあの」

 あの剣幕だからな。小僧と勇者二人を仲良くさせるのはアレックスの言うとおり、簡単ではなさそうだ。

「それと別件でもう一カ所、説得しなければいけない相手がいますよ」

「ん? ああ、新貴族どもか」

「ええ。たかが炊き出しといっても、ああ頻繁にやられては……負担するほうからすれば気になるのでしょう」

「たいした金額ではないだろうが。わずかの出費に文句を言いだすとは。あいかわらず、おのれの利しか考えん者どもじゃな」

「だからこそ味方に引き入れられたのです」

「利を示せば扱うのは簡単だからな。わかった。儂のほうから話しておこう」

 扱いやすいのは勇者の二人も一緒。正義感が強く真っ直ぐだ。そこを突けば簡単に思い通りに動く。一方で、子供で妥協というものを知らん。その辺のさじ加減が大変じゃ。しかし、あの小僧は違う。もっと現実的な考えをするようだ。この世界の理も尊重しておるようだし。
 うまく勇者を制御する役目を担ってもらえれば、儂も助かるのだがな。あの小僧であれば新貴族共もうまく扱えそうだ。
 儂も補佐してくれる者が欲しい。この先、動きはどんどん本格化していくだろう。一人で調整ごとを全て引き受けていては手が回らん。
 その辺はアレックスもさっぱりじゃ。下手に若くして剣聖などと持ち上げられているのが悪く働いているのだろう。プライドが高く、自分の思うとおりに物事が動くのが当然だと思っておる。少し勇者も似たところがあるが、そこは儂の教育次第か。

 

◇◇◇

「ふぅん。そんなことがあったの」

「ああ」

 城に戻って今日あった出来事を冬樹と夏にも話した。プリンセスの言葉には気になることが多かった。二人にも共有しておく必要がある。

「なあ、それってどういうことなんだ?」

「勇者たちの周りが随分ときな臭いってことだよ。魔王を倒して終わり。勇者たちはそういうつもりではなくなったってことだね」

 勇者の仕事は魔王を倒すこと。でも勇者は、少なくともプリンセスのほうはそれだけで終わるつもりはない。プリンセスがそうならプリンスも同じだろう。

「何を考えてるんだろ?  それって要は革命でしょ? そんなこと出来るはずないじゃん」

「どこまで考えているのかは分からない。実際には革命とかそういう意識はないんじゃないかな? 自分たちがちょっと頑張れば自然とそうなる。その程度の考えだと思う」

 多分これは正解。世の中を壊すという感覚をプリンセスは持っていない。そう感じた。基本的人権なんて言い出すことが感覚がずれてる証拠だ。

「いやいや、そりゃねえだろ? 頭の悪い俺だってそれくらい分かるぜ。勇者の二人って、学年でトップを争う二人だろ? そんなことが分からないとは思えねえな」

「これは想像だけど常に人の上位に立っているから、分からないんじゃないか? 自分たちは方向性を示すだけ。あとは自分たちの取り巻きが勝手に動いてくれる。それが当たり前だと思ってる可能性はある」

「でも、この世界じゃあ、取り巻きなんていないじゃん?」

「それを作る為の人気取りかもしれない。そもそも今の自分たちの状況に気が付いてないんだよ。自分の意向を受けて周りが動いてくれているんじゃなくて、実際には自分たちが周りの意向によって動かされているっていうことをね」

 つまりプリンセスにあれを吹き込んだ奴がいる。その一人は間違いなく宮廷筆頭魔法士様だ。ただ彼一人の企みではないのだろう。きっとあれだ。新貴族派って奴だ。しかし、その彼等も分かっているのかな。

「それって馬鹿だよな? いいように操られてるってことじゃねえか。俺だったら、そんなことされてると分かったら、絶対許さねえな。俺は俺の意思で行動する」

「冬樹がそれを言うようになったほうが問題だ。この世界にとっては逆に操られているくらいのほうが良いんだよ」

「なんでだよ?」

「操っているのはこの世界の人間だ。この世界の人間であればこの世界の枠組みの中で動こうとする。それは自然と度を越したやり方をしないってことになる。あくまでもこの世界の基準だけどね」

「ふぅん。なるほどね。へたに異世界の常識で動かれたら混乱するばかりってことね」

 こんなこと言ったら偉そうだって怒られるだろうけど、やっぱり夏は理解力が高い。多分、もう僕が考えていることは全て分かっているだろう。そうなると残るは冬樹か。

「国民の権利なんて持ち出して、いきなり国をそれに染めようとすれば国は成り立たないからね」

「なんでだ?」

「この国で行政を担当しているのは貴族だ。民主主義だ、なんていって貴族から政治を取り上げてみろ。政治なんてやったことはない素人が国を任せることになる。それでまともに機能するわけないよね?」

「確かにな」

「それに民主主義を正しく理解していなければ、代わった人間が貴族のような存在になるだけ。結局、国を混乱させただけで何も変わらない。変わらないどころか酷くなって終わりだ。そこを外国に突かれたら、こんどは国同士の戦争だね」

「大変じゃないか」

 冬樹も問題を理解してくれたようで顔を青ざめさせている。ちょっと大袈裟に話し過ぎたかもしれない。

「実際はそこまでひどくはならないだろうけどね。勇者を動かしている奴が何とか調整するはず。どうせそいつらも貴族なんだし。それにあの動きはあからさま過ぎ。対抗勢力だっていつまでも黙ってないはずだ」

「対抗勢力ってどこだよ?」

「前に夏が話したよね? 有力貴族派ってやつだよ」

「ああ、そういえば」

 結局、話はここに戻る。パルス王国での政争はその激しさを確実に増してきているってことだ。これを考えるとどうしても焦ってしまう。パルス王国を出る、せめて城を出るまでは何も起こらないで欲しい。

「それにしても動きが早いよね? 召喚されてまだ三カ月ちょっとだよ。もっとのんびりしていれば良いのに」

 夏も僕と同じ気持ちのようだ。

「あらかじめ計画されてたんだろうね。勇者召喚はその計画の一部ってことか」

「なんだか複雑ね。まるで魔族の討伐がおまけみたいじゃない」

「そうだね」

 実際におまけなのだろう。少なくとも王都を見ている限りは魔族の脅威なんてものは全く感じられない。ジャンたちにいたっては「魔族ってなんだ」なんて聞いてくる始末だ。
 街の食堂でもギルドでも魔族の話題なんて全く聞くことはなかった。魔族についても、何か裏があるってことなのだろうか。

「それで、どうするの?」

「また僕に聞くの? 前に自分で考えろって言ったつもりだけど?」

「そうだけど、意見を聞くくらいはいいでしょ?」

「今聞かれても前と変わらないよ。お金がいる。いつでもこの国を出れるくらいのお金が。もっと具体的に考えたほうが良さそうだ」

「いくらくらい必要なのかな?」

「国外まで出る為の旅費。これについては、そもそもどれくらいの期間が必要か調べないと。宿代とか食事代はだいたい分かってきたから、それの掛け算で良い。後は装備か……これが問題だね。揃えないとギルドで稼ぐことも出来ない」

 お金を稼ぐにも元手がいる。それをどう稼ぐか。考えなくてはならないことが増えた。いや、増えてはいないか。考える時間が短くなっただけだ。

「装備ならあるじゃない」

 この辺りのことは、まだ夏も考えていないみたいだ。

「夏が言っているのは大隊からの借り物。つまり国のものだ。国を出るどころか、鍛錬を終える時点で返さなきゃならないと思う」

「うそだろ! やっと剣が手になじんできたのに……」

 当然、冬樹も考えていない。まあ、冬樹には初めから期待していないから問題ない。

「そう思うなら、なおさら武具は急いで揃えるべきだね」

「武具って一式揃えるのにどれくらいだろ?」

「まだ武器屋に行ったことないから分からない。武器屋ってなんだか入りづらくない?」

 一度だけ武器屋の店の前まで行ったことがある。入り口の扉は閉まったままで、なんだかすごく入りづらかった。あまり頻繁に客が来るわけでもないようで、中を覗き見ることも出来なかった。

「そうだね。冷やかしで入るにはちょっとね」

「夏でもそうか……冬樹は?」

「俺は中に入ったぞ」

 さすが冬樹。無神経さではこいつには敵わない。

「それで?」

「なんか強面のおっさんが睨んでたから出てきた」

「それじゃあ僕たちと変わらない。偉そうに言うなよ。覚悟を決めて行ってみるか。値段を知りたいと言えば、買う気はあると思ってくれるかもしれない」

「必要なお金が分かったとして、どうする?」

 肝心のお金を稼ぐ方法。それを夏が聞いてきた。この問いへの答えは一つしかない。

「ギルドの依頼を受けることについて大隊長に許可をもらうしかないね。事情を話せば許してくれると思う」

「話すの? だって大隊長はこの国の人だよ?」

「そこは適当にごまかして。勇者の魔王討伐に巻き込まれそうだから、早く離れたいって言えばいいんじゃない?」

「そうね」

 大隊長に「この国で革命が起こりそうなので急いで国を出たいです」なんて言えるはずがないからな……言うべきだろうか。でも知ったとして大隊長に何か出来るだろうか。知ることでかえって問題が起きないだろうか。
 それ以前に、今これを話しても信じてもらえないか。そうだろうな。

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