月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

竜血の玉座 第69話 追憶

竜王アルノルト復活の噂は、王都を中心にして、徐々に周辺地域に広がっていた。だがその速さは、衝撃的なその内容からすれば、かなり遅い。人々の行動が制限されていることが、その理由のひとつだ。 アルノルトによってユーリウス王が殺され、ナーゲリング王…

竜血の玉座 第68話 道草

ツェンタルヒルシュ公国での戦いは佳境を迎えている。クレーメンス率いるツェンタルヒルシュ公国軍とルッツ率いる王国軍の連合は、ツヴァイセンファルケ公国主力軍相手に敗走を続け、いよいよ公都ヴィルデルフルス近くの、最後の防衛線とされる川岸まで追い…

竜血の玉座 第67話 支配する者

ゆっくりと近づいてくる竜王アルノルト。その存在感は圧倒的で、殺気とは異なる圧力が人々の心を押しつぶそうとする。心だけではない。体にも、物理的な圧力がかかっているかのように感じられて、その場に跪きそうになってしまう。竜王アルノルトは、彼らが…

竜血の玉座 第66話 はためく戦旗

竜王アルノルトの生存が王国全土に広まる前に、事態は大きく動いている。アルノルトに従うヴェストフックス公国、ツヴァイセンファルケ公国がその動きを作りだしているのだ。 王都の制圧を完了したヴェストフックス公国軍は、東にいるディートハルト率いる王…

竜血の玉座 第65話 望まない真実

心の整理がつかない。消し去らなければならない想いが、逆に膨らんでいく。ナーゲリング王国の王女として他に考えなければならないことは山ほどあるというのに、個人の感情がその邪魔をする。 頭では分かっているのに、それが出来ない原因は明らかだ。毎日、…

竜血の玉座 第64話 逃走

王都での戦いは、ヴェストフックス公国軍による一方的な殺戮という形になっている。ユーリウス王の死が伝わり、守るべき主を失った王国軍に死を賭して戦う理由はなくなった。王国軍の騎士、兵士の多くが降伏を訴えたのだがヴェストフックス公国軍、と称して…

竜血の玉座 第63話 流血の玉座

呆気なく、これほど呆気なく、ナーゲリング王国が滅びることになるとは、ユーリウス王は思っていなかった。砂上の楼閣という言葉がぴったりな脆い、わずかな衝撃で崩れてしまうような国だった。そんな王国の王に、なりたくもなかったのに、ならされた自分は…

竜血の玉座 第63話 森の秘密

王都から腐死者の森までは馬で四刻ほど。ソルたちはその距離を歩いて移動した。馬をずっと駆け続けさせることは出来ないので、歩いても時間はそれほど大きくは変わらない。そうであれば、何頭もの馬で移動して、わざわざ他人の注目を集めることはないという…

竜血の玉座 第62話 崩壊の時

ソルはリベルト外務卿の手引きで牢を抜け出した。見張りの牢番もソルの逃亡を防ごうとしない。何の苦労もなく、あっさりと外に出て、さらに城の奥に辿り着くことが出来た。 これも国王に対する裏切り行為。そうソルは思い、ナーゲリング王国の脆さを感じたも…

竜血の玉座 第61話 運命なんて言葉は

城内の牢は城の地下にある。同じ城の中で、ここまで違うかと思うくらい暗く、異臭も漂う、不衛生な場所だ。そこに閉じ込められているのはソル一人。ナーゲリング王国に変わってから、牢獄は城の敷地の外に新たに作られた。今は使うことのない場所なのだ。 窓…

竜血の玉座 第60話 どんでん返し?

ソルの裁きは軍事裁判ではなく、四卿会議の場で行われることになった。ユーリウス王が望んだことではない。ソルの公式記録は、イグナーツ・シュバイツァー。王家の人間であるソルを、しかも先王殺しという罪で裁くことは秘匿すべきという四卿、特にリベルト…

竜血の玉座 第59話 揺らぐ心

周囲のざわめきが収まらない。収まるはずがない。「ベルムントを殺したのは、お前か?」というクレーメンスの問いは、それを聞いた者たちに大きな衝撃を与えていた。問いの意味を良く理解していない者も少なくない。ソルの名はイグナーツ・シュバイツァーだ…

竜血の玉座 第58話 自暴自棄ということ

王国の窮地を救うため、彗星のごとく現れた若き英雄。そんな噂が王都で広がっていることなど、その英雄本人であるソルは知らない。知っても喜ばない。本気で嫌がる、そしてなんとかして、その噂を打ち消せないか考えるはずだ。ユーリウス王は、噂を消したけ…

竜血の玉座 第57話 動かす者と動かされる者

ツヴァイセンファルケ公国軍の動きは、完全にツェンタルヒルシュ公国の意表をついた。自国領に入ってきたことには気付いていた。王国軍の部隊、ソルたちがいる臨設第九〇一部隊を警戒して、東の領境の監視は厳しくなっていたのだ。万の軍勢が近づいてきてい…

竜血の玉座 第56話 異なる筋書き

出撃する軍はすでに全て王都を発ち、あとは経過報告を待つだけ。結果が出るのはまだまだ先のことだ。ユーリウス王に焦りはない。不安もかなり薄れている。ヴェストフックス公国が援軍を送って来た。その数およそ一万。常備軍であれば、ほぼ全軍。そうでなく…

竜血の玉座 第55話 高まる戦機

ルッツを総指揮官とした侵攻部隊、正式名称は臨設第九〇一北東方面治安維持部隊は王都を発った。任務は王国北東方面の視察。王国民の暮らしを阻害する問題が起きていないか、巡回視察を行い、必要があれば問題排除を行うというもの。公国向けの建前だ。 部隊…

竜血の玉座 第54話 それぞれの覚悟

王国中央部で戦雲が広がっている頃、他の地域でも同じように戦争に向けた動きが活発化していた。ノルデンヴォルフ公国がそうだ。領土を守ることを何よりも大事と考え、軍を外に出すことを良しとしなかった祖父、アードルフが亡くなったことで、現ノルデンヴ…

竜血の玉座 第53話 参戦準備

四卿会議の場。今日はいつもとは異なり、出席者の数が多い。ユーリウス王と四卿以外にフリッツ情報局長、そして王国軍の将たちが参加しているのだ。正式にはこれは四卿会議とは呼ばないのだが、ユーリウス王の意向で、会議の場が他の目的では使われることの…

竜血の玉座 第52話 無茶振りも、もう何度目か?

「えっと……正気ですか?」 会議の場に呼び出され、説明を受けた後のソルの第一声がこれ。当たり前の反応だ。一応は正式な騎士になっているソルだが、王国軍の最高意思決定会議という位置づけの場に呼ばれ、これからの戦いに向けての作戦計画を考えろと言われ…

竜血の玉座 第51話 気運は高まらないまま

ナーゲリング王国陸軍官舎の大会議室。最大で五十人を収容出来る広い会議室だが、今そこで会議に参加しているのは四人だけだ。ナイトの称号を与えられた王国騎士の頂点に立つ五人のうち、ツヴァイセンファルケ公国の備えとして軍勢を率いて東に出陣している…

竜血の玉座 第50話 少しずつ、確実に

どうやってそこまでたどり着けたのか。ソルにはまったく記憶がない。王都から馬を四刻ほど駆けさせた場所にその森、「腐死者の森」はあるのだ。ソルはその森まで歩いて辿り着いた。即死していたはずの大怪我を負った体で、ルナ王女の亡骸を背負って。 どうし…

竜血の玉座 第49話 誰の意思

王国の情勢は、当然、ノルデンヴォルフ公国にも伝わっている。今この時、他の公国を含めた王国全体の情勢に無関心でなどいわれない。この先、巻き起こるかもしれない戦乱で生き残りたければ、積極的に情報収集に努めなければならないことは、ノルデンヴォル…

竜血の玉座 第48話 食えないのはどちら?

聖仁教会の協力者とされる人物の名をいくつか入手したソルたち近衛特務兵団第二隊だが、すぐにその情報を王国に提供することはしなかった。まだ多くの協力者が組織内に潜んでいるだろう状況で、情報を入手したことが明らかになれば、逃げ出す者も出てくる。…

竜血の玉座 第47話 深まる謎、明らかになる謎

ハインミューラー家のヴィクトール公子一行は王都を発って、帰国の途についた。王都を訪れる際に率いてきた軍勢は、そのほとんどを先に帰国させており、王都に残っていたのは百名ほど。総勢で百十名をわずかに超えるくらいの集団での移動だ。 当初は、怪しい…

竜血の玉座 第46話 こんどこそ和解?

近衛特務兵団がもたらした情報で、また王国は動揺することになった。聖仁教会の戦力は予想以上のもの。討伐するどころか、近衛特務兵団は多くの死傷者を出すことになった。 これだけであれば任務の失敗。近衛特務兵団に責任を取らせた上で、再度任せるか、別…

竜血の玉座 第45話 交渉の席

ソルとヴィクトール公子が交渉を行う場所として用意されたのは、城の奥。王家の人々の居住空間に近い場所だ。王家の人々の日常がある奥での出来事を外部に漏らすことは絶対に許されない。王家の人々の素が必ずしも王国の人々に受け入れられるものであるとは…

竜血の玉座 第44話 露見

戻って来た王都は、ヴィクトール公子がツェンタルヒルシュ公国に向かう前とは、かなり雰囲気が変わっていた。道を歩く人々の顔は、どこか不安そうに見える。そう見える原因も明らかだ。十人、二十人の王国軍の小隊が荷車を引きながら、道を行き来している。…

竜血の玉座 第43話 繋がる想い

重傷者八名、死亡十五名。これが今回の任務における近衛特務兵団の犠牲の数だ。一方で敵、聖仁教会の死傷者の数は不明だ。近衛特務兵団の何倍どころか数十倍の数になるのは間違いない。だが詳細を確かめることは出来ない。聖仁教会は撤退時に怪我人を連れて…

竜血の玉座 第42話 命の使い方

今回の任務に参加した近衛特務兵団の数は三百。そのうち、目的地であるプリミイバシに入った近衛特務兵団は五十名、残りは街から少し離れた場所で、分散して待機している。プリミイバシはそれほど大きな街ではない。百人単位の人数が、いくら分散させたとし…

竜血の玉座 第41話 始まりの時

南部にある王国直轄領プリミイバシは、王都から続く大河に面した街。さらに川を下ると海上輸送の中心、港湾都市エストゥアルに繋がることから、王国の物流拠点のひとつとなっている。あくまでも「ひとつ」であって、その規模はそれほど大きくはない。南部の…