ファンタジー小説-異伝 ブルーメンリッター戦記
カロリーネ王女を乗せた馬車は街道を西へと進んでいる。ローゼンガルテン王国の王女である彼女が乗るには相応しくない、行商人が使用するような粗末な馬車だ。さらに乗っている彼女の服装も町娘が着るような粗末、というのはカロリーネ王女が普段着ている服…
ジグルスが率いる勢力、アイネマンシャフト王国の参戦はリリエンベルク公国における戦いを複雑にした。といってもそれを仕掛けたジグルスにとっては当然、複雑なんてことはなく、かつリリエンベルク公国軍は、それを率いるリーゼロッテが新たに参戦してきた…
ブラオリーリエの戦いは、苦しい状況ながらも何とかリリエンベルク公国軍が持ちこたえているという状況だ。リーゼロッテの強力な魔道具も含めたリリエンベルク公国軍の遠距離攻撃による犠牲を恐れて、魔人軍側が慎重に動いているという点も戦いが長引いてい…
ローゼンガルテン王国と魔人軍の戦いはその状況を一変させた。だがローゼンガルテン王国はまだ事態を把握しきれていない。各地から次々と新しい情報が届いてはいるが、あまりに予想外の状況に分析が追いついていないのだ。それでもある程度、情報が揃い、仮…
戦いが思い通りに進んでいないのはローゼンガルテン王国だけではない。敵である魔人軍側にも多くの誤算が生まれ、それによって計画は大いに狂っている。 中でも一番の問題はジグルスの存在、であるのだが魔人軍にはまだそれほどの危機感はない。彼等にとって…
ローゼンガルテン王国にとって現状は、様々な点で思い通りに進んでいない。そもそも何をもって思い通りというのか。それさえもあやふやになってきているのだ。 もっとも大きな誤算はリリエンベルク公国内での戦い。魔人軍に占拠されたはずの、状況が分かった…
ブラオリーリエの戦いはやや停滞している。停滞は魔人軍からみた場合の表現であって、リリエンベルク公国側としては南部への侵攻を食い止めているのだから善戦だ。だからといって喜ぶ気にはなれないが。 リリエンベルク公国にとっての勝利は、侵攻を止めるこ…
いくつかの種族、部族を味方につけたジグルス。そのジグルスの拠点はリリエンベルク公国東部、大森林地帯に近いところにある。 魔人の本拠地の一つである大森林地帯の近くにあえて拠点を構えたのは、エルフ族の一部が味方してくれることが決まったから。その…
撤退した獣王軍に代わってブラオリーリエ攻めを担当しているのは大魔将軍オグルが率いる鬼人系魔人で編成された鬼王軍。獣王軍に比べると五千と少ないが一人一人の力は上だ。あくまでも平均としてであって個々の力比べとなるとどちらが上とは言い切れないが…
リリエンベルク公国軍の最大拠点となっている南部の街ブラオリーリエ。敗走してきた兵士が各地から集まってきて、今はその数は万を超えた。ただこれまで街を落とされずに守ってこられたのは味方の数が増えたからではない。 軍を入れ替えて、ということはリリ…
リリエンベルク公国領北部にある街リム。これといった地場産業はないが、さらに北、ローゼンガルテン王国の北の国境と接しているいくつかの小国との交易窓口としての役割を持っていることから、北部では中堅くらいの規模となっている街だ。そうはいってもリ…
リリエンベルク公国の陥落、そして封鎖は徐々に民衆の耳にも届くようになってきた。リリエンベルク公国内との取引を行っている商人たちがその最初。その商人たちから他の人々に話が伝わっていった。ただその段階になるとローゼンガルテン王国も隠すよりも、…
ブラオリーリエを攻め落とそうとした魔人軍は引いた。だからといってリリエンベルク公国での戦いが終わったわけではない。再侵攻してくることは間違いなく、他の地域でも魔人軍はいくつかの部隊に分かれて、公国領の制圧に動いている。 その一つが獣王軍第二…
リリエンベルク公国が魔人の手に落ちた。この情報を得たあともブルーメンリッター、花の騎士団はキルシュバオム公国を離れていない。これまで同様、目の前の戦いに追われていた。 同様といっても戦況に関しては以前よりも厳しい。花の騎士団の主力の一人、ユ…
母は、自分は何者なのか。この疑問に対する答えがようやく得られた。 前魔王バルドルには三人の側近がいた。フェンリル、ヨルムンガンド、そしてジグルスの母ヘルの三人だ。どこかの神話で聞いたような名前だと話を聞いた時にジグルスは思ったが、これは余談…
総指揮官がジグルスに討ち取られたことで魔人軍は撤退。形としてはそういうことで、総大将を討ち取ることで逆転勝利を得るという展開は過去の戦いにおいて何度もあったことだ。そうであるのだがジグルスはなんだか腑に落ちなかった。魔人軍が撤退していく様…
ブラオリーリエにこもるリリエンベルク公国軍との交渉は決裂に終わった。交渉の使者とされたフレイには初めから分かっていたことだ。リリエンベルク公国の中心都市シュバルツリーリエに残った人たちは皆、死を覚悟していた。それをブラオリーリエにいる人々…
キルシュバオム公国での戦いはローゼンガルテン王国軍の優勢で進んでいる。ただあくまでも現時点で考えた場合の優勢だ。魔人軍の侵攻を許し、いくつかの拠点を奪われているという事実は変わらない。 魔人軍はラヴェンデル公国軍での戦いとは異なり、拠点確保…
街道を力ない足取りで南下する人々の列。その最後尾には、前を歩く人々とは異なり、きちんと隊列を整えて歩く軍人たちの姿がある。リリエンベルク公国の中心都市シュバルツリーリエから逃れてきた人々だ。 今のところ魔人軍の襲来はない。だからといって、そ…
キルシュバオム公国南西部。エカードたち花の騎士団が向かった戦場では激しい戦いが行われていた。キルシュバオム公国に侵攻した魔人軍はおよそ五万。それに対してローゼンガルテン王国とキルシュバオム公国の連合軍は三万。数の上で劣勢だ。さらに質の上で…
リリエンベルク公国領に侵攻した魔人軍は三万。その第一報を聞いたリリエンベルク公爵が懸念した通り、その軍はほぼ魔人だけで編成された精鋭と呼べる軍だった。 その魔人軍に対してリリエンベルク公国軍は善戦した。兵を鍛えるだけでなく、防衛線と定めた地…
花の騎士団の行軍はかなりその様相を変えている。隊列を整えて進むのではなく。バラバラに走っているのだ。移動中も兵士を鍛えようというクラーラの提案を、エカードはこういう形で実現していた。 これにより行軍速度は大いに速まった、とはならない。永遠に…
エカードが率いる六千の軍勢、花の騎士団=ブルーメンリッターは最短経路を選んでキルシュバオム公国に向かっている。ローゼンガルテン王国の西端近くから魔人軍が現れたというキルシュバオム公国、ローゼンガルテン王国領としても南西部にまっすぐ進む道を…
空に伸びる木々はその高さを増し、密度もこれまでとは明らかに違っている。人が踏み入った気配のまったくない森の奥。そこを一人、ジグルスは歩いている。 心に浮かぶのはわずかな後悔。もっと偵察を重ねてからのほうが良かったかという思いだ。だがその考え…
一軍六千を率いてキルシュバオム公国に転戦することになったエカードたち。だからといってすぐに移動出来るわけではない。軍の再編についてこの戦場に残るラードルフ総指揮官との調整が必要だ。 兵士についての調整は簡単だ。エカードたちが所属していた軍の…
リリエンベルク公国軍に割り当てられた陣営はそれほど広くはない。もっとも人数が少ない部隊なのだから当然ではある。ただその狭さはあくまでもここまでが陣営と線を引いた、実際には線ではなく壕で区切られている範囲内でのこと。その壕の外に出れば、訓練…
ようやく魔人軍に動きがあった。膠着気味であった戦況もこれで動くはずだ。ローゼンガルテン王国軍にとって待ちに待った、なんていえる状況ではない。一日でも早い戦争の終結は強く望んでいるが、 激しさを増すことまで求めているわけではない。だが今回の動…
戦いの頻度が少なくなっている。魔人軍からの攻撃が減っているのだ。いよいよ撤退したのか、と喜んだローゼンガルテン王国軍であったが、さすがにそれは甘い考えだった。偵察で飛ばした飛竜は魔人軍の存在を、それも依然として大軍であることを確認して帰っ…
戦況は一変した。道の拡張と砦の建設工事。その場はローゼンガルテン王国軍にとっては奇襲に怯える場所ではなく、敵を罠にかける場所に変わっているのだ。奇襲を狙って森に潜んでいる魔人軍に対して、ジグルス率いるリリエンベルク公国軍は片端から襲撃を行…
多くの木々が空に向かって伸びている。その先は雲ひとつない晴天。青々とした空に太陽が浮かんでいる。だが陽の光は生い茂る葉に遮られて、ほとんど地上に届かない。届く必要もない。陽の暖かさを、青空の美しさを喜ぶ余裕など、地上で殺し合いを行っている…