ファンタジー小説-異伝 ブルーメンリッター戦記
旧リリエンベルグ公国領グラスルーツから北に伸びる街道を真っ直ぐに三日ほど進み、そこから西進すると南西部の山岳地帯から流れ出てきた川に行く手を阻まれることになる。かつてかかっていた橋は跡形もなく壊されていて、対岸に向かおうと思えば、比較的水…
三勢力がそれぞれの出方を探り合い、膠着状態に陥る。旧リリエンベルグ公国領内の戦いがそのような様相を見せることを期待していたジグルスであるが、そう都合良くはいかなかった。魔王ヨルムンガンドが自軍を積極的に動かし、攻勢に出てきたのだ。無謀な試…
ローゼンガルテン王国の状況はわずかではあるが好転した。旧リリエンベルグ公国領内の戦況の変化がそれをもたらしたのだ。軍の大半を失ったヨルムンガンドは戦線の縮小を決断。支配地域を十分に確保出来ていないキルシュバオム公国領とラヴェンデル公国領に…
群雄割拠、するには旧リリエンベルグ公国領は狭すぎる。各勢力はそれほど小さいものではない。だが旧リリエンベルグ公国領の今の状況を表現しようと思えば、やはり群雄割拠という言葉が一番適しているだろう。もしくは、たんに割拠していると表現するか。 と…
アーベントゾンネ攻略を試みるローゼンガルテン王国軍の本営。そこで今、指揮官たちを集めた作戦会議が行われている。特別な会議ではない。ほぼ毎日のように行われている定例会議だ。 会議に参加している人々の表情はどれも暗い。アーベントゾンネ攻略戦は予…
総大将のブラギの死。それによりブラギ麾下の魔王軍は降伏。拠点はアイネマンシャフト王国軍のものとなった。力による支配が意識づけられていたブラギの軍。その彼を超える力をジグルスが見せつけたことで、魔王軍は戦意を失い、降伏を拒絶して抵抗する者が…
ジグルス率いるアイネマンシャフト王国軍とアース族のブラギ率いる魔王軍の戦いは一進一退の攻防が続いている。ジグルスの策略に嵌って怒り心頭のブラギは、それ以降、一騎打ちの誘いに応じることはなく、軍同士の戦いに徹している。相手が隙を見せなくなれ…
アーベントゾンネの街を囲む防壁の上。元ブルーメンリッターの騎士でユリアーナと共に魔王側に寝返った騎士たちは、その場所で戦場の様子を眺めている。ユリアーナを囮にした策は成功。多くのブルーメンリッターの騎士が投石の下敷きとなっている。 ただ戦い…
新大魔将軍ブラギ率いる魔王軍に対峙しているアイネマンシャフト王国軍。その編成は、ジグルスの直率で、セントール族とエルフ族の混合部隊である近衛機動部隊が二中隊二百騎、熊人族を中心とした重装歩兵部隊が一大隊一千名、犬人族を中心とした機動歩兵部…
ユリアーナ率いる魔王軍の物量作戦に対抗するには味方もそれに負けない物量で。ローゼンガルテン王国軍はその方針で反撃の準備を進めた。王都から送られた増援軍により総兵力を増加させただけではない。味方を悩ませている魔王軍による遠距離攻撃。それに負…
ブルーメンリッターを主力とするローゼンガルテン王国軍とユリアーナ率いる魔王軍が対峙したゾンネンブルーメ公国西部の街アーベントゾンネを巡る攻防戦は、その激しさを増している。ローゼンガルテン王国軍側が苦戦を強いられる形で。 まずはアーベントゾン…
慎重に進められるはずであったブルーメンリッターによるアーベントゾンネ攻略戦だが、エカードたちの思惑から外れ、戦闘開始からいきなり激戦になった。攻められる側の魔王軍が想定外の構成を仕掛けてきたのだ。 アーベントゾンネの壁を超えてくる地を影らす…
ラヴェンデル公国の領境近く、リリエンベルク公国を囲む山脈まで続く深い森の入り口にその砦はある。ローゼンガルテン王国軍の訓練地に設けられたその砦は、実際には訓練に参加する騎士や兵士の宿泊場所として使われていて、実戦を想定したものではないのだ…
ノイエーラの外壁の外。魔王軍配下の軍勢との戦いが行われたその場所に今、二つの軍勢が隊列を整えて並んでいる。それぞれ数は三千。外壁に近い側で陣を組んでいるのは狼人族と熊人族、鬼人族それぞれ千で編成された軍勢。アイネマンシャフト王国軍だ。 それ…
アイネマンシャフト王国の都の名称はノイエーラに決まった。皆に求められてジグルスが名付けたのだ。新時代という意味の言葉を発音しやすく変えたもの。嫌々ながら、それでもそれなりに真剣に考えた名称であり、周囲の受けも悪くない。新時代という言葉は大…
ローゼンガルテン王国の都。王城の一室でアルベルト王子は書類の束に目を通している。国王の座を継ぐ者として政務を行っているのではない。軟禁状態のアルベルト王子にはそんな権限は与えられていない。 手元の資料は特別に頼んで入手したもの。ブルーメンリ…
ゾンネンブルーメ公国での戦いはその激しさを増していた。ローゼンガルテン王国がこれまで以上の攻勢に出たのだ。 エカードがそれを決断した理由は三つ。一つは増援として到着したラヴェンデル公国軍、タバートが率いる軍勢が期待していた以上に強力であった…
ヨルムンガンドから命じられて、彼、ヴィリにとっては依頼を受けて、リリエンベルク公国征服作戦に参戦したものの結果は彼が考えていたようなものにはならなかった。 アイネマンシャフト王国を奇襲したオグル率いる鬼王軍は壊滅。その多くが捕虜となった。た…
空にはまだ白く輝く月が浮かんでいる。夜が明けるまでにはもう少し時の経過が必要だ。ベッドに仰向けに寝たまま、顔だけを横に向けて、窓から見える夜空を眺めながらジグルスは小さくため息をついた。 ジグルスの胸の上に伸びた腕。右腕にあたっている柔らか…
城に籠もっての防衛戦。これまでとは異なる戦いに直面して、リーゼロッテたちはやや混乱している。ただ経験がないというだけではない。襲撃してきた敵の実態が掴めていないのだ。 当初、城の中央入口に現れた敵の数は五十ほど。やはりそれが全てであるはずは…
思い通りにいかない戦況に頭を悩ましているキルシュバオム公爵に、さらに面倒事が増えた。ひとつはリリエンベルク公国からやってきたマクシミリアン・テーリングの扱いだ。 マクシミリアンの生存はキルシュバオム公爵も知っていた。知っていて、何も行わない…
魔王軍にとって現在の戦況は優勢なのか劣勢であるのか。この判断は難しい。リリエンベルク公国侵攻作戦は開始当初こそ圧倒的に優勢であったが、今その勢いは完全に止まり、領土の奪回こそ許していないが多くの味方を失うことになっている。 一方でゾンネンブ…
街頭に立ち仲間を募ってきたカロリーネ王女。その成果があって、ウッドストック以外にも共に行動しようとする仲間が現れた。彼等の目的はカロリーネ王女のそれと異なるので、仲間と表現するのは微妙だ。それに目的が異なるというだけでなく、その彼等はもと…
花の騎士団=ブルーメンリッターはゾンネンブルーメ公国領に入ってすぐの場所から、なかなか動けないでいる。魔王軍側がその位置に強力な防衛戦を敷いているのだ。 魔王軍の目的はローゼンガルテン王国主力の足止め。その間に後方ではユリアーナが率いる軍も…
キルシュバオム公爵家によるローゼンガルテン王国支配は、当初の想定とは大きく異なり、停滞している。そもそも当初の想定が楽観的であり過ぎたのだ。魔人との戦いの最中に簒奪を行うことそのものが極めて楽観的ということだが。 ただキルシュバオム公爵であ…
前面に展開しているのは鬼王軍およそ一万。そのほとんどは魔物だ。鬼王軍にとってはいつもの陣形。前衛に魔物を配置して、敵の足を止めさせる。その上で味方の魔法や弩砲などで遠距離攻撃を行う。魔物の犠牲など気にすることはない。魔物はいくらでも補充が…
ブラオリーリエに残った鬼王軍に対してジグルスは積極攻勢に出ている。数の上では敵は予想通り、魔物が増員されて一万五千。それに対して味方は二千と圧倒的に劣勢であるが、そんなことで怯んではいられない。数で優位に立てる状況など元から期待していない…
リリエンベルク公国の冬の訪れは早い。あくまでもローゼンガルテン王国領の中では、であって更に北の国々はすでにほぼ全土が雪に覆われている。リリエンベルク公国の北部も同じ。すっかり雪景色だ。その雪景色は徐々に南部に広がっていく。ブラオリーリエの…
リーゼロッテの父マクシミリアンはブラオリーリエの南にある街グラスルーツにいる。リリエンベルク公爵家、今はテーリング家と呼ぶのが適切かもしれないが、の当主であるマクシミリアンがいるその街がリリエンベルク公国の都、政治の中心ということになる。 …
まんまとローゼンガルテン王国の実権を手に入れたキルシュバオム公爵家。だがそれを喜んでいるだけではいられない。現状は自公国と王都、そして軍事力を押さえているだけでローゼンガルテン王国全体に支配が及んでいるわけではないのだ。同盟関係であるゾン…