ファンタジー小説-災厄の神の落し子
トゥレイス第二皇子の評価があがっている。理由は体育祭でのルイミラ第三妃とのやり取り。トゥレイス第二皇子はルイミラに対し、臆することなく意見を述べた。皇子の実の母であればまだしも、第三妃に臆することがなかったことなど特別でもなんでもないはず…
一年生の目の色が変った。体育祭の後に一年生に変化が生まれるのは毎年のこと。だが今年は例年とは変化の仕方が違っている。いつもは自分たちの力不足を痛感し、自信を失い、落ち込み、そこから徐々に立ち直り、授業にそれまで以上に身が入るようになる。こ…
エセリアル子爵屋敷に一年ガンマ組の騎士候補生たちが集まっている。体育祭前のように訓練を行う為ではない。ローレルが主催、といってもエセリアル子爵家にお世話になりっぱなしだが、の体育祭の打ち上げだ。 体育祭の結果については皆、満足していない。騎…
帝国騎士養成学校の体育祭もいよいよ終盤。競技は最後の騎馬戦を残すのみとなった。一回戦の第一試合、第二試合は、これの前の棒倒しと同じで二年生クラスの順当勝ち。これから第三試合が始まろうというところで、会場にわずかではあるが、騒めきが起こって…
帝国騎士養成学校の体育祭も、あっという間に、中盤に差し掛かった。これまでの競技は徒競走がメインの個人戦。多くの人たちにとっては、ただ走っているのを見ているだけの退屈な時間だ。 その多くの人たちにはハティたちも含まれる。実際に文句を口にしてい…
開会式での挨拶を終えたワイズマン帝国騎士団長は、今回特別に皇帝の為に用意された観覧席に移動した。ここから先、ワイズマン帝国騎士団長の仕事は帝国騎士養成学校の最高運営責任者としてではなく、皇帝の護衛兼接待役ということになる。絶対に言葉には出…
帝国騎士養成学校の秋の行事、体育祭の会場となったのは帝国騎士団の施設。帝都第五層にある演習場だ。一軍規模、万の軍勢が演習出来るほどの広大な演習場。そこに、この体育祭の為だけに、競技が見易い中央近くに観戦席を設けるなど、かなりの労力を費やし…
帝国騎士養成学校の定員は、きっちりと定められているわけではないが、一クラス四十人ほどで一学年四クラス。一学年には百六十人くらいの騎士候補生がいる。ただ、そのうちの三割から五割は貴族家の子弟についてきた騎士や従士たち。既に何らかの騎士団に所…
夏休みを終えた帝国騎士養成学校の騎士候補生たちにとって、次の大きなイベントは秋の体育祭。騎馬戦、棒倒しなどの競技をクラス対抗で行うイベントだ。「祭」という文字が使われている通り、卒業年度に行われるチーム対抗競技会に比べれば、遊びの要素が強…
ローレルたちの今日の訓練はエセリアル子爵屋敷内で行われている。イザール侯爵家やエセリアル子爵家の人たちの手前、さすがに毎日イアールンヴィズ騎士団の拠点に入り浸っているわけにはいかない。イアールンヴィズ騎士団の通常訓練の邪魔、とは相手はまっ…
帝国騎士団の活動範囲は帝都周辺だけではない。当然だが、帝国領全土が帝国騎士団の活動範囲だ。常に何らかの活動を行っているわけではない。治安維持活動などは領地を治める貴族家の騎士団が、その役割を担っている。帝国騎士団は他国による侵攻や貴族家の…
トゥインクルには六歳離れた姉がいる。幼い頃、姉は彼女にとって憧れの存在だった。妹想いで面倒見の良い姉という性格面はもちろん、彼女の美しいと評される外見も。さらに勉強もダンスも上手。そしてなにより、自家の騎士団の男性たちに優るとも劣らない彼…
帝都でいかにも帝国の中心都市と思える賑わいがあるのは、内壁の内側まで。内壁の外から外壁の間は、公式には帝都となっているが、山あり谷あり、森もあり、深い川も流れていたりと、都市とは呼べない風景が広がっている。かろうじてアネモイ四家の城がある…
ローレルとリル、そしてプリムローズの夏は毎日毎日、鍛錬鍛錬。いずれある騎士養成学校の課外授業のひとつ、訓練合宿でもやっているようだ。実際に今日は、宿泊こそしないが、それに似ている。イアールンヴィズ騎士団の拠点に来ているのだ。 夜明けから日が…
ムフリド侯爵家騎士団の名称はプルウィア騎士団。騎士、従士合わせて四百名ほどになる。同じアネモイ四家であるイザール侯爵家のノトス騎士団の約二倍の規模。その差が生まれたのは近年、ムフリド侯爵家が積極的に騎士団の強化を進めてきたからだ。 ただ増員…
現在、反帝国勢力の中でも力を持つのは三人。一人は前宰相のヴィシャスで帝国南部で勢力を広げようとしている。ヴィシャスは現皇帝を無視して善政を行おうとしたことで地位を奪われ、地方に追放されたということになっており、反帝国勢力の中でも良識派とさ…
帝国建国の功臣の裔。それがアネモイ四侯爵家だ。彼らの祖先は帝国初代皇帝アルカス一世と同じく、守護神の加護を得て、守護神獣を使え、その力を持って敵対勢力との戦いを勝利に導いた。 イザール侯爵家の守護神は南風の神ノトス。収穫の神とも呼ばれる。守…
騎士養成学校は一か月の夏季休暇に突入。だからといってローレルの日常はそれほど大きく変わるわけではない。のんびりと休暇を楽しむ、なんてことは許されず、日々、厳しい鍛錬を行っている。ローレル自身がそれを望む望まないは関係ない。プリムローズがそ…
帝国騎士団公安部の本部は帝都の第五層東区域にある。皇城近くの帝国騎士団施設内にも事務所はあるが、部員の多くが働く本部は、この第五層東区域にある建物だ。独自の訓練施設を造ろうとすると、第五層しか広い土地が空いている場所がなかったというのが、…
ダークタイガーの特徴は、普通の虎に比べてかなり大きな牙。虎にしては長い体毛は黒一色で縞模様は見えない。模様がないわけではないのだが、黒の微妙な濃淡による縞は、パッと見では判別出来ないのだ。ただそれが魔獣が虎系と分類され、ダークタイガーと名…
帝国騎士養成学校にも試験はある。試験の成績が悪ければ落第、ということにはならない。留年させてまで騎士候補生を育て上げようなんて考えは騎士養成学校にはない。騎士になることを諦めて退学してもらうか、とっとと卒業してもらうかの、いずれかだ。そん…
騎士養成学校での昼休みの間、食事をしながら午前中の復習などの勉強を行うことがローレルの日課になっている。リルが馬の世話の為に昼休みの前半は側を離れることになったことがきっかけだ。隠れた理由には、一人でいる間、グラキエスやディルビオ、トゥイ…
弱小騎士団と評価されているイアールンヴィズ騎士団だが、その実力はそれほど酷いものではない。ただし、あくまでも帝都周辺に拠点を持つ騎士団の中での相対評価だ。騎士団とは名ばかりの犯罪集団やリスクの低い、小遣い稼ぎ程度の任務しか行っていない騎士…
プリムローズの毎日は、これまで以上に充実している。ローレルとリルが帝国騎士養成学校に行っている間もそうだ。剣の鍛錬はハティが、ほぼつききりで相手をしてくれる。教え方も、プリムローズの感覚では、上手い。ハティは最初に教えたリルの意図を正しく…
騎士養成学校の授業は基礎の基礎である体力作りから次の段階に移った。戦闘術については基礎の基礎から基礎へ。剣術だと素振りだ。入学前から剣術を学んでいた騎士候補生にとっては、これまでと変わらず退屈な授業。だが退屈だからといって楽なわけではない…
エセリアル子爵屋敷に住み込みで護衛任務を行うことになったのはハティと彼の弟分、を自称しているシムーンの二人だ。決して多くない数だが、彼らが護衛の全てではない。護衛は大きく三つのグループに分かれている。ハティたちはその存在を明らかにし、面が…
イアールンヴィズ騎士団の拠点は、ローレルが農家と勘違いしてもおかしくないくらい、粗末な建物だ。それはそうだ。元々、農民が暮らしていた家。それをイアールンヴィズ騎士団は買い取って、拠点にしているのだ。 ただ当たり前だが、まったくそのまま使って…
エセリアル子爵の屋敷はローレルたちが思っていた以上の広さだった。実際に広いのはその敷地で、建物自体は驚くほどではない。イザール侯爵家の建物のほうが大きい。 敷地が広いのには訳がある。皇城周辺の貴族屋敷は帝都に攻め込まれた場合の防衛拠点として…
ローレルは皇城の廊下を歩いている。前回と同じ男の先導で。心に広がる思いは後悔。前回も似た感情はあったが、あの時は正しいことを行わなければならないという使命感があった。エセリアル子爵と約束したという義務感もあった。だが今はそれらの思いはない…
食堂に大きな音が鳴り響いた。その原因は一人の男子騎士候補生。ものすごい勢いで廊下から食堂に入ってきたその彼は、勢いを殺せないまま、目の前のテーブルにぶつかった。テーブルはひっくり返り、上に乗っていた食器が辺りに散らばる。そのテーブルで食事…