ファンタジー小説-災厄の神の落し子
帝国主催の宴はほぼ毎年、同じ時期に同じ名目で開催される。建国記念日のお祝いとして。皇帝の生誕祝いとして等々だ。だが今日開かれるガーデンパーティーはそのいずれでもない。新たに皇子が生まれたわけでも、戦争に勝利したわけでもない。何の理由もなく…
プリムローズの日常は以前と比べれば、かなり自由になった。四六時中、護衛が付き従うことは、相手によってはプリムローズ本人はそれを嫌がっていなかったが、なくなった。ローレルとリルが騎士養成学校に行っている日中は、ずっとエセリアル子爵屋敷に籠っ…
今日は三年生の卒業イベント、帝国騎士団との模擬演習が行われる日だ。今年も例年と同じで観客の数は多くない。帝国騎士団との模擬演習は、帝都住民にとって結果が分かりきっている面白味のないイベントなのだ。観客席にいるのは帝国騎士団関係者と帝都在住…
ムフリド侯爵家の力を使って、帝国騎士団の訓練を偵察しようと試みたリルたち。アネモイ四家はそれぞれが独自に帝国を守護するための軍事力を持たなければならない立場であることから、帝国騎士団への影響力はそれほど強くない。提案したグラキエス本人が認…
帝国中央部と呼ばれている地域よりは狭い範囲、広義の帝都周辺の治安改善を目的とした帝国騎士団公安部の強化対策は思うように進んでいない。その一番の原因は帝国騎士団全体が人員不足であること。 帝都周辺の治安改善は皇帝の命令で重要施策と位置づけられ…
剣術競技会は準々決勝を終え、四人が勝ち残った。その中にシムラクルム騎士団はいない。全員が準々決勝で敗北した。この結果をどう見るか。準々決勝まで参加者全員が勝ち残れたシムラクルム騎士団は、彼ら自身が言う通り、総合力では最強と評することが出来…
準々決勝に進む八人が決まった。どのうちの四人がシムラクルム騎士団の団員。これまでのところはシムラクルム騎士団がその力を見せつけている形だ。その悔過を受けて、シムラクルム騎士団の応援は益々勢いを増している。事情を知らない人たちにとって、今の…
剣術競技会の会場に応援の声が響き渡っている。シムラクルム騎士団を応援する声だ。対戦相手であるトゥインクルに向けられている声援も当然ある。だが地元であり、騎士養成学校の騎士候補生が大勢いるはずなのに、その声援はシムラクルム騎士団の応援に圧倒…
帝国主催U20全国剣術競技大会。これが帝都で開催される剣術競技会の正式名称だ。正式名称で呼ぶ者など官僚しかいない。それも公式会議の場だけのことだ。多くの人たちにとって正式名称がどうであるかなど、どうでも良いこと。人々の興味はどこの所属の誰…
帝国西部にある商業都市ヘンデルは港を有しており、西海に浮かぶ島々との交易で栄えている。帝国経済を支える重要な商業都市の一つ、だったのだが、現在この地を支配しているのはシムラクルム騎士団だ。 商業都市ヘンデルには裕福な商人が多くおり、その彼ら…
体育祭が終わり、帝国騎士養成学校は日常運転に戻っている。とはなっていない。三年生は体育祭以前に比べれば、その頻度は減ったが、放課後の訓練を続けている。彼らは半年で卒業。その前に帝国騎士団との演習が行われる。毎年、三年生が圧倒的な実力差を思…
体育祭当日。リルはプリムローズと一緒に観戦だ。観客席に座る二人、といっても二人だけでいられるわけではない。イアールンヴィズ騎士団、そしてシュライクの父親が団長を務めるガラクシアス騎士団も同じ場所に陣取っている。何度も、ガラクシアス騎士団の…
帝都第三層の歓楽街近く。小さな酒場にハティは来ている。昼間から酒を飲む為ではない。酒場の多くは昼は食堂。注文されれば酒も出すが、食事をメインで提供しているのだ。 ただ食事が目的でもない。イアールンヴィズ騎士団の仲間たち、本物のイアールンヴィ…
体育祭を目前に控えて各クラスは最後の調整に入っている。もっとも真剣に取り組んでいるのは騎馬戦。去年、一年ガンマ組が番狂わせを起こした競技だ。三年生は絶対に番狂わせは起こさせないという気持ちから。一年生と二年生はやりようによっては上級生に勝…
体育祭の開催まで二か月をきったところで、騎士候補生たちは種目別の訓練を開始した。例年よりもかなり早くからの取り組み。そうなった理由は昨年の番狂わせにある。特に三年生の意気込みは凄い。彼らはあと半年で卒業する身。帝国騎士団に進む者は正団員と…
魔獣オリオンと一週間の時を過ごして帰宅したリルたち。戻ってすぐにリルは登城することになった。ルイミラ第三妃からのお召しを受けてのことだ。呼び出されたのはリルだけ。ローレルは一緒ではない。それに疑問を抱いていても登城しないわけにはいかない。…
エセリアル子爵屋敷に戻って半月。リルはまた帝都を離れることになった。正しくは帝都外壁の内側なので広義の帝都内ではある。怪我が完治したといえる状態ではないリルが帝都を離れたのは治療の為。怪我の治療に良いといわれる温泉に向かったのだ。治療が必…
発見されたリルは、その場で応急処置を受けた上でエセリアル子爵屋敷に運ばれた。イザール侯爵家ではないのはリルの希望だ。特別な意味はない。リルが普段暮らしているのはエセリアル子爵屋敷。家に帰るとなれば、それはエセリアル子爵屋敷になるだけのこと…
何故こんなことになったのか。遥か上にわずかに見える光を見上げながらリルは考えている。帝国騎士団に同行しての課外授業の途中のことだった。希望者だけが参加する課外授業だったが、リルは悩むことなく参加を決めた。実戦経験を、それが魔獣相手のもので…
ワイズマン帝国騎士団長は忙しい。今に始まったことではないのだが、これまでとは少し変化がある。帝国騎士養成学校の運営に関わる打合せの時間が、以前よりも、増えたのだ。今年度から授業内容を変更した影響だ。毎年、決まった内容をこなしていく前年度ま…
本日、帝国騎士養成学校では課外授業が行われている。二、三年生が参加する課外授業だ。昨年度まではなかったもので「基礎を固めるだけでなく、より実戦的な内容も」という方針変更の結果、行われることになったのだ。 それでも、本格的な戦闘訓練を半年も経…
イザール侯がエセリアル子爵屋敷を訪れた。彼なりに 長男アイビスの事件について整理をつけたつもりで、その結果を話しに来たのだ。ローレルではなく、リルに。 イザール候はリルに息子であるローレルに伝えている以上のことを話している。リルが先に事態を…
イザール侯爵家のアイビスが、成人式の最中に亡くなった事件の影響は、意外なところにも波及した。トゥレイス第二皇子の嘘がバレるきっかけになったのだ。嘘がばれることは想定内のこと。トゥレイス第二皇子は嘘がばれ、自分への無用な期待が消え、兄のフォ…
アイビスの死は帝国に衝撃を与えた。少なくとも、この百年間、成人式は形式的なものだった。成人式を終えた人たちも、式の前と後で何が変ったか分かる人はほとんどいない。変ったと思う人もなんとなくそう感じるだけという、周囲からはまったく認識出来ない…
帝国騎士養成学校の昼休み。クラスの仲間たちと授業の話や養成学校とは全然関係ない雑談で過ごす時間だったのだが、それが変わってしまった。まさかの事態によって。 トゥレイス第二皇子が同じテーブルに座ってきたのだ。ローレルはまだしも、他の二年ガンマ…
帝国騎士養成学校が騒がしい。その原因はトゥレイス第二皇子。前日の模擬戦で人々を驚かせたトゥレイス第二皇子が、今日も養成学校を訪れているのだ。しかも昼休みの食堂に。 食堂にいた騎士候補生たちは突然現れたトゥレイス第二皇子に驚いた。驚くだけでな…
本日の授業は全学年合同となった。といっても騎士候補生たちはただ見ているだけ。帝国騎士団の模擬戦を見学するという授業だ。 これには騎士候補生の多くが戸惑いを覚えている。この授業は前から決まっていたものではない。前日になって急に伝えられたのだ。…
帝国騎士養成学校の授業は日々、帝国騎士団との合同訓練のようになった。と言っても、まったく同じ訓練を行っているわけではない。帝国騎士団の団員たちは、従士を除けば、基本、教える側。一人の教師役が教える騎士候補生の数を大きく減らすことが目的だ。…
新学期の始まり。ローレルたちは二年生になった。といっても特別何かあるわけではない。騎士養成学校での訓練の日々が、二年目に突入したというだけのことだ。 新一年生が入学しても日常の交流などない。上級生ともそれは同じ。帝国騎士養成学校においては先…
イアールンヴィズ騎士団の訓練は以前よりも、リルやシュライクたち、ガラクシアス騎士団の若手が参加するようになってからよりも更に激しさを増している。プリムローズ救出作戦がその理由だ。 プリムローズの救出には成功したが、参加したイアールンヴィズ騎…