賑やかな音楽と掛け声が宴席の場を盛り上げている。桜太夫が座っているテーブルも大盛り上がり、というわけにはいかないが、とりあえずこの場を閉めることは見送られた。場の雰囲気はそれを許すものではなかった。 ナラさんが「すっかり、アオの十八番」と言…
彼とは何度も会っている。信心深くなくても貴族家の人間であれば、最低でも年に一度は必ず教会を訪れ、神に祈りを捧げるものだ。それが辺境伯家という王国貴族の頂点に位置する貴族家となると、迎える教会の側もそれなりに礼儀を尽くす必要が出てくる。その…
アリシアには、ひとつ疑問に思っていることがあった。周囲の人たちのレグルスに対する評価に対する疑問だ。皆がレグルスは北方辺境伯家の落ちこぼれだと言う。だがアリシアにしてみれば、そのように評価される理由が分からない。実技授業では、確かに、もっ…
週末、いつもは行かない道場にレグルスは出掛けた。平日にフランセスとエリカと三人で美術館に行く為に、さぼった一日分を補填する為だ。これが出来ると思っているから、レグルスはフランセスと平日遊びに行くことを受け入れたのだ。 平日と同じ、三時間ほど…
魔力は遺伝、持って生まれた才能が全て。一部の例外は認めていても、これがこの世界での常識となっている。貴族家の血には魔力が宿る。故に貴族は強大な力を持ち、それに相応しい権限が与えられている。世襲の正当性を、それに異議を唱える平民などいないが…
王都郊外にある農地は、一握りの大農家の物。その何十倍もの農民は、その大農家に悪条件で雇われ、酷使されている。これがこれまでの常識だった。その常識が今、崩れようとしている。多くの人が気づかないままに。 最初は小さな、当事者たちにとっては命を賭…