新たな人生が始まるとすぐに前世での彼の記憶は急激に削られていく。半月もすればそのほとんどは残らない。さらにその後も緩やかに記憶は薄れていく。 その進行と共に彼の感情も変化する。前世が終わる瞬間の憎しみと悲しみ、悔いと虚しさが入り混じった複雑…
他人との関わりは最小限に。彼は新しい人生の始まりから、それを心掛けてきた。心掛ける、という言葉は彼にとって都合の良い言葉であって、周りから見れば「避けてきた」もしくは「逃げてきた」という表現になる。 ただ、他人と関わっても彼の悪感情を刺激す…
裏中央通りの広場に多くの人が集まっている。その人々の目線の先にあるのは大きな台。その台には太い柱が立てられ、その柱の上から綱が伸びている。先が輪になった綱。設置されているのは絞首台だ。 集まった人々のささやき声が重なって、大きな喧噪となって…
雇われた家庭教師が約束通り、彼に会いに来た。それを拒絶する理由は彼にはない。傍若無人なんて、十歳の子供に対するものとは思えない、評価を周りから受けている彼だが、実際の彼は理由もなく約束を破ることなどしないのだ。 ただ家庭教師が持ってきた多く…
数えきれないほど繰り返された人生の中で、もっとも熱心に自分を鍛えているつもりの彼。だがその行動は周囲には奇行と受け取られ、ますます彼の評価を下げている。 たとえば、水泳を日常的に行う習慣などない世界で、まだ肌寒い季節のこの時期に川に入ってい…
その後も彼は、彼が鍛錬を行っている内壁の外で、パンを盗み食いした女の子を何度も見かけた。どうやら彼女も鍛錬を行っている様子。外見の美しさだけでなく、彼女は戦う力でも人々に高く評価されていた。それは天性の才能に恵まれているおかげと、そしてそ…